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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2022年8月の記事一覧

株式会社のおと(音)の真相 毎週ショートショートnote

ここはオバケの学校。 オバT先生の話し。 「今夜も『不気味な音』の練習だ。人間は音だけでも怖がる」 「先生、今夜はどこに行くの」 「ノートの製造会社だった隣の廃ビル、株式会社note に行く。 「ええっ、また隣?近すぎる。もっと遠くが良いよ」 「遠足じゃない、人間の間で噂になリ始めたし。頑張ろう」 校長に校外学習の了解をもらう。 「そこに又、妖怪学校の鬼鬼太郎が生徒を連れて来るのでは?」 「それは無いです。アイツ日本代表で世界化け物会議に行っていますから」 オバ

タイムスリップコップ2 毎週ショートショートnote

それは嵐のようなタイムスリップだった。 私は自分の部屋で水割りを飲んでいた。 その時、封印したはずの記憶が脳裏に浮かんだのだ。 ただ浮かんだだけでは無い。 今、またあの時間の中に私は立っていた。 私はコップを持ったまま、あの女を見下ろしている。 女が血の海の中に横たわっている。彼女をこんな姿にしたのは3年前の私だ。 封印したはずの記憶、それがこの光景。 という事は、私は犯人として捕まってしまうのか。せっかく3年間逃げ果せたのに。 そうだ、このコップはこの女にもらっ

タイムスリップコップ 毎週ショートショートnote

西暦2060年 宇宙飛行士の私は新たな任務に就く。宇宙と地球間の瞬間移動。地球上では普及しているが、宇宙空間はこれからだ。 まずは一対のコップでのミッション。宇宙空間で採取した小さな星屑をコップに入れ、地球に転送する。勿論、その辺にあるコップでは無い。企業秘密のしろもの。 話を聞いた幼稚園児の娘は、早速おねだり。 「パパ、ピンクのお星様を送ってちょうだい。お願い」 娘はキラキラと目を輝かせている。 うーむ困った、どうしよう。 すると妻が、そっと手渡してくれた。金平

初めての鬼2 毎週ショートショートnote

ここは、私たちの住んでいる世界とは次元も時間も違う。 ある日、森の木々が赤から、青や紫、ピンクに変わった。季節が動いたのだ。 色の無い鳥が、さえずりながら飛んできた。 「来るよ来るよ、マオウが来るよ」 そう聞こえる。 自分がここにいる事を知られるとは。別の次元から訪れた魔王は警戒する。 彼は父の魔王から、魔王を名乗っても良いと許可を受けたばかりだ。 その時、美しい歌声が聞こえてきた。 「マオウが来たよ、マオウが来たよ」 透明な鳥の大きな声が響く。 現れたのは

初めての鬼 毎週ショートショートnote

ある遠い星では、鬼族と人族が共存している。今では、彼らは同じ病院で生まれ、同じ学校で学び、同じ社会で生きている。差別などあり得ない。お互い友情にも厚い。 昔、鬼族は悪い奴らだったが、今はただツノがあるだけの鬼。 だが、結婚だけは同族で行う。例外は無い。泣く泣く相手を諦めた者もいない。不思議と言えば不思議。 ツノがあるだけの誇り、ツノが無いだけの誇り。どんな意味があるのか私にはわからない。しかも、彼らはお互いに尊敬の念を忘れない。 しかし、地球に目を向ければとんでもない

フシギドライバー2 毎週ショートショートnote

私は、しがない流しのタクシードライバー。 ある日の夕刻、二人の少女を拾った。 「どこまで?」 返事は無い。 二人はクスクス笑い始めた。 くすぐられるような笑い声。 二人は双子のようだ。 「お客さん、行き先を教えくださいねー」 相手が子どもなので、怖がらせないように尋ねた。 「あのぉー、私達おうちに帰りたいの」 「だから、どこにあるの?」 私は少しイラつく。 「ねえ、オジサン、ワープしてよ。 AS-DF地点よ」 「はあ、お前らばかにするな、子どもだからって許さん

フシギドライバー 毎週ショートショートnote

最近、一人の男性と出会った。 彼の名前は知らない。私も名乗ってはいない。 彼はドライバーだと言うが、車は運転しない。 彼は空を飛ぶと言う。 「では、パイロット?」と問えば違うと言う。 「フシギドライバー」と繰り返すだけ。 彼は私と空を飛ぶ。 ピーターパンとウェンディのように。 飛ぶのは、どことも知れぬ世界。あの美しい不思議な世界を語る言葉を私は知らない。 そんなある日。 「今日で、あなたとはお別れです」 彼は言った。 「どうして?」 「あなたには、二つの選択肢があ

チャリンチャリン太郎2 毎週ショートショートnote

茶鈴山。その山は昔、姥捨山だった。 山頂近くに寺がある。 昔、山に捨てられた者達を鎮魂するため、この寺が建てられたそうだ。 現在、寺の住職は居らず、葬式の時は隣村から僧侶がやって来る。 ある時、旅の途中の僧侶がこの村に立ち寄った。村の長に頼み、一夜の宿として寺に泊めてもらう事になった。 その夜、村の長はお勤めを一緒にするため本堂に赴いた。 そのお勤めの最中、おりんが妙な音で鳴る。 『チャリンチャリン太郎』と鳴るのだ。 不思議に思い、僧侶は長に尋ねた。 「このおりんは、