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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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記事一覧

海のピ 毎週ショートショートnote

難破船にピアノが一台。 ピアノは注文主のところに届くことは無く、何年も海の底の船の中にいた。 ピアノは自分が楽器であることも忘れていた。 ただ、注文主の娘と新しい人生が始まることを楽しみにしていたことは覚えていた。 ピアノを梱包していた木の箱もいつしか無くなり、ピアノの蓋は開いて鍵盤が露わになった。勿論ピアノが歌うことは無い。 時々、海の生き物たちがピアノの周りを通り過ぎることもあるがそれだけの事だった。海の生き物にしてもピアノが何なのか知る者は無く、ただの変わった岩のよう

彦星誘拐を企てた織姫妖怪の物語 毎週ショートショートnote

彦星と織姫は天帝の怒りを買い、後悔と反省をしていたが天帝は一向に許してくれない。 これをチャンスと思った妖怪がいた。 その妖怪は彦星に横恋慕していて何とかこの機に彦星を手に入れたいと思った。 妖怪は織姫に化けると彦星に近づく。 『彦星様、父が許してくれました』 妖怪織姫はそう言うと楚々と彦星の胸に。 彦星は多少の違和感を感じたが、織姫の新たな魅力と思い虜に。 妖怪は自分たちの新居とだまし彦星を自分の住居に連れ去った。 織姫はそんな事とは露知らず、一心不乱に愛しい彦星のた

発砲通報プロ 毎週ショートショートnote

発砲音が鳴り響く。組織の防音設備の完備した一室。 発砲したのは私では無い。妻だ。 彼女も私もエージェント。新しい武器の試し撃ち。 「どうだい?」 私の質問に彼女は 「今一つね」 彼女は肩をすくめた。 表には出ないが我々にも生活がある。善良な市民としての顔も必要なのだ。二つの顔を持つことに、私たちは疲れを感じ始めていた。40歳も目前だ。転職して新しい人生を歩みたい。正直な話。 私たちはそれとなくボスにぼやいた。 下手をすれば、どんな仕打ちを受けるかわからない。 ところがボ

一方通行風呂 毎週ショートショートnote

私の家は旅館。 両親は私の事は松子さんに任せっきり。だから私は松子さんに育てられたようなもの。 松子さんは、ちょっと不思議な人だけれど、とても優しいお姉さんで私は大好き。 私が12歳になった時、松子さんは言った。 「私の本当の名前は、ジュジュラというの」 『松子』は働くときの名前だと知っていたけれど。ジュジュラって外国人の名前みたい。でも詳しく聞いてはいけない気がした。 松子さんは、私の誕生日のお祝いに不思議なものを見せてあげるって言ってくれたの。 私と松子さんは大露天

コンプラ不倫 毎週ショートショートnote

不倫は文化だと言った男がいたわよね。 会社において不倫は御法度。そもそも不倫自体あってはならない。だけど禁断の木の実の甘い誘惑。甘い罠。あなたは、あなたの夫は大丈夫かしらね。 企業の機密を聞き出す女、ハニートラップも紛れているかもしれない。色恋には注意が必要なのよ。 高額な金銭を得るには、それなりの手練手管は必要不可欠。 大企業にはこういう部署は必ず存在する。人知れず存在する部署ではあるけれど。 なぜ私がそんなことを知っているのかって? 昔、私はその部署に所属していた

天ぷら不眠 毎週ショートショートnote

あたしゃ料理が嫌いでね。だから結婚なんてメンドクサイことはしたくなかったんだ。だけど仕方なく見合いで結婚したんだ。もう50年も前さ。 夫は料理下手のあたしに文句も言わなかったんだけど。死ぬ前にあたしの天ぷらが一度食べたいと言うんだよ。出来たら美味い天ぷらをね。そうしないと死んでも死にきれないってさ。 50年も文句も言わずにあたしの料理を食べてくれたのだから、一度くらいはって思ってね。悔しいけど隣のおばあに天ぷらの作り方を教えてもらうことにしてね。隣のおばあは料理上手だそう

隔週警察 毎週ショートショートnote

毎週警察と隔週警察の両方がある。 毎週警察は犯罪の多い地域では不可欠。犯罪が少ない地域では隔週警察で事足りる。なので、隔週警察は二箇所の駐在所を隔週勤務する。 隔週警察にもパトカーはあるが、大抵は自転車で間に合う。事件などそうそう無い。たまに果実等の収穫期に都会からよからぬ輩がやって来るくらいだ。 時には夫婦喧嘩の仲裁に赴く事もあるが、駐在所日報には少し大袈裟に記述しておく。犯罪になりそうな状況を止める事ができた、とか。 都会の職務は命を削る。そんな都会の署員が短期間出張

復習Tシャツ 毎週ショートショートnote

今日、国語と算数のテストを返されたんだ。 先生が「復習が足りない」とボクに言った。 算数のテストの点は45点だった。 家に帰って、お母さんに返されたテストを見せた。 算数のテストは見せずに、国語の95点のテストを見せた。 お母さんは、「復習が足りない」とボクに言った。 45点と95点、先生とお母さんの評価が同じなので納得できない。 だから叱られるのを覚悟して、算数のテストも見せたんだ。 お母さんはため息をついてボクに言った。 「予習も足りないのね」って。 「あなた

粒状の総料理長 毎週ショートショートnote

我が家は代々洋食屋。 祖父も父も最初は料理は好きではなかったとか。でも昔から店の評判は良い。僕もいずれは後を継がないとならないのか。だが本当は別の道に進みたいのだ。 ある日、父に呼ばれこんな話を聞かされた。 「この洋食屋には実は『粒状の総料理長』がいる。彼は今のところ親父と私にしか見えないし声も聞こえない。お前が彼を見えるように声が聞こえるようになれば、お前もこの店でシェフとならなければならない。宿命と思うように」 「はぁ?」としか言えなかった僕。 数か月後、その日はや

友情の総重量 毎週ショートショートnote

僕達は体重が無い。想像はつくと思うけれど僕達は幽霊なんだ。 人間の子供達とも友達になりたいな。 僕達の魂は重さは21gという説があるらしいけれど、それは間違いだと思うんだ。重さなんか無いさ。レイなんだからね。ここ笑うところ。 ほら見てごらんよ、あのシーソーに一人で跨っている人間の男の子。 あの子は恥ずかしがり屋で皆と一緒に遊べないんだ。皆に声をかけられないんだよ。 僕がシーソーの片方に乗ってもシーソーは動かないだろ。黙って見守っているんだけど歯がゆいよ。 もしかして、

てるてる坊主のラブレター

てるてる坊主の隣に、ふれふれ坊主が揺れている。 明日の遠足のため、エミがてるてる坊主を吊るしたら、お兄ちゃんが意地悪して、ふれふれ坊主を吊るしたのだ。 お兄ちゃんはアカンベをしてどこかに逃げて行く。 両親は留守。エミはベランダで泣きだした。 その声を聞いて隣のタカシ君がベランダ越しに顔を出した。 「どうしたの?」 エミがふれふれ坊主を指差す。 タカシ君はすぐにわかった。 「エミちゃん、大丈夫だよ。ボクもてるてる坊主を作って吊るすから。てるてる坊主の数が多いと、きっと晴れる

奇岩シューズ 毎週ショートショートnote

あたしは蛸なので靴を履く事は無いが。 こんな事を言うのも、最近靴の片方だけが海に浮かんだり沈んだりしているのだよ。中には良いものもあるんだ。 でもね、あたしが一番好きだと思った靴は白い色の華奢な靴でね。 これは、懇意にしているイルカ嬢に随分前にもらったのさ。 なんでもハイヒールと言うらしい。踵を高くして歩くもので、人間の女性を美しく見せるとか。よくわからないけど、海の生き物の中で踵なんて物がある生き物はいたっけね。 あたしのコレクションはあの岩場の奥にいくつか隠してある。

祈願上手 毎週ショートショートnote

代参りとは誰かに代わって神社仏閣にお参りに行く事を言う。 神様も神様がお気に入りの人間が参詣に行くと、多少なりとも心配りがあるとか無いとか。 そして今、私が気になっているのが姪の凜子。まだ小学一年生だが、間違いなく神様に目をかけられていると思う。 彼女の望む事はかなりの確率で叶っているのだ。 彼女に私の代参りをしてもらいたい。そう思い、凜子に頼むことにした。 「ねえ、凛ちゃん、私の代わりに、神様にお願いして来てくれる?」 「いいよ。なんてお願いするの?」 「私に素敵な彼氏

記憶冷凍 毎週ショートショートnote

最近、かなり記憶力が落ちた。 夜眠る度に記憶の幾つかが消えていくような気がする。 私担当のAIロボ、ミドリは言う。 「あなたの記憶の消失分は私の中に冷凍保存されています」 そうだ、私の記憶が私のものではなくなるって事だった。私は納得できないがミドリと争う気は無い。 「ね、ミドリ。散歩に出かけない?」 「はい、ご一緒します。最近歩いておられないので心配でした」 久しぶりの外気。最近の空気製造装置はかなりのレベル。私の好みにも合う。映像の自然の中を歩くが嘘っぽさもかなり修正