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シロクマ文芸部

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小牧幸助さんの企画に参加させていただいています。毎週木曜日にお題(書き出しの言葉指定)が発表されます。 参加資格は、一人以上の方にコメントをする事です。
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#シロクマ文芸部

風の色 シロクマ文芸部

風の色は今日も変化を続けている。 風に色を感じるようになったのは随分前のことだ。 他の人たちは誰もそんなことは言わない。 有るか無いかの微妙な色だが、私にだけ見えるとしたら私はおかしいのだろうか。 病院には行かない。大したことではないし日常困っているわけでもない。行けば嫌な思いをするような気がする。 子供の頃、風に色があったら良いなと思ったことは確かにある。神様にお願いした訳ではないし何かの罰でもなさそうだ。このまま受け入れている。 そうは言いながらも、私は楽しんでいる

月の色 シロクマ文芸部(512文字)

「月の色がね、おばあちゃん。赤、青、緑とか色々に毎日変わるといいのになって私思うの」 昨晩、孫のマリが言った言葉を思い出す。子供って面白いことを思いつくのよね。今頃は隣町の自分のベッドで眠っている頃かしら。それとも私と同じ月を眺めているかしらね。 先日、マリのスケッチブックに描かれていたのは夜空に輝くピンク色のお日様? 星が出ているのに月ではなくて、お日様を描いたのはなぜだか分からなかったけれど、合点がいったよ。 私がマリの年頃には、大きくなったら月にロケットに乗って行

仮装 シロクマ文芸部

「懐かしい顔が揃うのが楽しみだね」 魔女はひとりごとを言った。 ハロウィンは来月だが、それは人間の祭り。 我々の祭りではないのに、わざわざ一部の本物の魔物の若者たちがパレードに参加しているとも聞く。若者たちは突飛なことをするものだが、何が面白いのやら。 そう思っていたんだがね。私の仲間たちが人間のハロウィンのパレードに参加したいと言い出してね。たくさんの若者たちが魔物ネットで楽しかったと投稿するもんだからさ。まあそういう事で仲間が集うのさ。 それで、私も参加することになり

レモン シロクマ文芸部

レモンから漂う爽やかな香りを思い出してみる。 もう何年もレモンを手にしたことは無い。手軽な濃縮還元レモン果汁を使っているから。 ファーストキスはレモンの香り、初恋はレモンの味、そんな風に言われていた少女の頃。本当なのか。その答えを知るのはまだまだ先の事だった。 幼い頃、レモンが果物屋さんで売られていたか記憶に無い。ひどくオシャレなイメージがあった。レモンというものを初めて意識したのは、外国のお話だったような気がする。 外国の児童書と出会ったのは、10歳くらいの頃。 「小

流れ星 シロクマ文芸部

流れ星はどこから来て、どこに流れていくのだろう。 地球に落ちた流れ星は、何かの使命を負っているのかもしれない。 流れ星と言うからにはそれは星なんだろう、でも考えつかないような別のものかもしれない、いや、宇宙船の名前かも。 流れ星に一度会ってみたい。と言うより乗ってみたい。星の世界ってどんなだろう。 そんなことを思いながら毎日夜空を眺めているトムリなのです。 トムリの望みは叶うのかな…… トムリがいつものように夜に外に出ると、裏庭に続く草原に彼女は立っていた。 夜にもかかわ

月下美人 シロクマ文芸部

今朝の月下美人は、すでに萎れているはずです。 昨夜、そろそろ開き始める頃だと思いながらも、おばあちゃんは居眠りを始めて、そのまま朝まで眠ってしまったのです。 あんなに花の開く日を心待ちにしていたのに。そう思うと、悔しくて、悲しくて、残念でなりません。 過ぎてしまった時間は戻る事は無いのです。 慌てておばあちゃんは月下美人を植えてある庭に走りました。 「花の咲くのを見守ってやれなくてごめんよ。あぁ、綺麗に咲いた姿を楽しみにしてたのに」 すると萎れた月下美人の花は、優しい声で

手毬(てまり) シロクマ文芸部

花火と手渡されたのは手毬。 広島の祖母が会いに来てくれることになり、私に欲しいものを訊いてくれ、忘れずに土産として私に渡してくれたのだ。 願ったものは手毬。花火はオマケのようなものだったのか。線香花火が10束ほどあった。これはこれで私たちを喜ばせた。 昭和30年代は、女の子の玩具としてお人形、ままごと道具、手毬は必須アイテム的なものだった。 前に持っていた手毬を失くしてしまった私。 母は大事にしなかったからだと、新しい手毬を直ぐには買ってくれなかったのだ。 外で遊ぶとき

名前の無い虫 #新しい自分 #シロクマ文芸部

こんな話をするのは初めてですのよ。 私の名前?ニンゲン様は、いくら待っておりましても私どもに名前をつけてくださらないので、まだ名前はありませんの。 皆様の間近におりますのに、どなたも私たちの存在に気づいて下さらないなんて悲し過ぎますわ。 私どもは皆様あっての命と申し上げましても少しもオーバーではありませんのよ。感謝しかございません。 私どもは皆様の貴重な血液をほんの少しだけ分けて頂いて生き永らえておりますの。そんな私達の存在を気づいておられますでしょうか。 たとえそん

夏の雲 シロクマ文芸部

夏の雲の中に別の世界が広がっている。大きな入道雲であればあるほど、別の世界がある可能性は高い。 そんな話を聞いたのは、祖母からだった。巡ってくる夏を迎えると祖母の話を思い出す。御伽話のような話を祖母は夏が来る度に私に聴かせてくれた。まるで夢見るように。雲の中の世界の話を。 雲の中の住人達は毎年メンバーが違っていたが、穏やかで優しい者たちがいつも登場した。人間とも動物とも違う登場人物たち。 私は幼い頃は祖母と一緒に夢みていた。成長すると、なぜ祖母はこんな作り話を楽しそうに話す

風鈴と猫 シロクマ文芸部

風鈴と猫が話をしていますよ。 厳密に言えば、風鈴に描かれている金魚と本物の黒猫が、ね。 「今年も会えたね、金魚さん」 「ええ、猫さんもお変わりなく」 「今年もチリンチリンと歌うのかい?」 「猫さんもニャンニャンと鳴くのね」 二匹はクスクスと笑う。 「君と会うと、夏なんだと思うよ。君が夏を連れて来るのかな。君とは夏にしか会えないけれど、こうやって会うのが楽しみだよ」 「ウフフ、ありがとう猫さん。猫さんは自由に歩けていいわね。私も一度でいいから棚にある金魚鉢の金魚たちと一緒に

ネズミとネコ シロクマ文芸部

かき氷屋はネズミたちにとって天職だと思われた。 ネズミの前歯は削り続けないと一生伸び続けるのだ。 かき氷屋は夏だけの店で、冬は冬で別の仕事がある。 氷は人間の所から手に入れている。場所は企業秘密なので悪しからず。 「人手(鼠手?)があればもっと削れると思うのだが」 ネズミのリーダーはため息混じりに呟く。 そこへ現れたのは旧知のネコ。 「私の爪もお前の前歯のようにほっておくと大変なことになる。お前の店を手伝わせてくれ。もちろん給金はいらない」 ネコの申し出を有難いと受け取るか

海の日のシール シロクマ文芸部

海の日を買った。海の日のシールを。 たまの贅沢は心を豊かにすると、今は亡き母も言っていた。 正直に言うと、私が買って来た海の日は、少しだけ汚れていたので一割引だった。それでも私にとっては贅沢品。カレンダーと睨めっこする。 よく考えて、7月31日に海の日のシールを貼った。 私にはどんな海の日が用意されているのだろう。 ワクワクが止まらない。 7月31日になった。 だが何も始まらない。そのまま24時間、海に関するような夢でさえ見なかった。私は粗悪品を掴まされたのか、少しの汚れが

夏の精 シロクマ文芸部

夏は夜にやって来る 月の明かりに照らされて 薄紅色の花一輪 庭の隅に隠れるように咲いていた あなたの名前は? 「うふふぅ」 そう応じたのは 花ではなく 花の中にいた 小さな小さな女の子 あなたは花の精? 女の子はかぶりを振る これ以上尋ねることは何もない 黙って女の子を見守った ツバメが姿を見せるはずだと思う 見届けたいと思う 白々と夜が明ける 思った通りツバメが現れた 東の空に見事な曲線を描きながら 振り向けば 小さな女の子は 大きな女の子になっていた ツバメを

見かえり美人 シロクマ文芸部

手紙には簡潔に結婚の報告だけが書いてあった。 ずっとあなたからの連絡を待っていた私には青天の霹靂だった。いや、こうなる事はわかっていた。 メールでも、電話でも無く、手紙であったことにむしろ驚いた。 封筒に貼られていたのは見返り美人の切手。封筒には消印が無かった。通りかかったついでに、或いはポストに投函するより私の家の郵便受けに直接入れる方が遠回りにならなかったのかもしれない。あなたの実家はここからさほど遠くないところにある。 この家の前をあなたが通ったのだと思えば、追いかけ