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ショートストーリー

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短い創作小説を置いています。
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#創作

小さなキツネ(ショートストーリー)

海を見ているのは小さなキツネ。 お月様がとても大きく、とても明るい夜。 お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも眠っています。 夜ひとりで外に出たのは初めてでした。 「お月様」 小さな声で呼んでみました。 するとお月様の光が少しだけ明るくなりましたよ。 風が小さなキツネに声をかけます。 「ボクと遊ぼ」 でも風は小さなキツネが答える間もなく、通り過ぎて行きました。 お星さまは、たくさんの友だちがいるようです。 皆んなでチカチカ、ピカピカとお話をしているみたい。楽しそうですね。

黒猫ジジのハロウィン

ここ、動物のタレント事務所は、夏になると黒猫タレントが引っ張りだこになる。 言わずと知れた、ハロウィンの写真撮影の追い込み。 事務所の商標は、魔女の宅急便のジジによく似た黒猫になっている。魔女の宅急便が上映されるより前からなので商標はジジではないのだが、殆どの人は商標はジジだと思っている。事務所はわざわざ否定はしない。 しかも、黒猫タレントにジジと名前をつけている。今のジジは何代目だろう。ジジの名は霊験あらたか。 そんなわけで、ジジは猫タレントの中ではダントツの稼ぎ頭。

国道69号線(#2000字のホラー)

車に乗っていて、不思議な世界に迷い込む話は時々お目にかかるが、私の場合は少し違う。 我が家のマイカーは3年前に廃車にした。 私達夫婦は共に七十代を迎えるのを機に、免許も返納したが、交通環境に恵まれた土地に住んでいるので問題無く過ごしている。 夫婦のアルバムには、結婚してから五台の車にお世話になった事が明確に示されている。家族構成が変わる度にアルバムは増えていく。その頃は活気があり、車も張り切って私達を運んでくれ、子供達が巣立って行くと、車は歳を重ねた私達夫婦を柔らかい時間

妹(ショートショート)400文字

妹が言うの 自分の中に誰かが居て とても窮窟だって え、彼氏なの そう聞いたの私 違うのよ 悲しそうに そう妹は言ったわ じゃあ誰よ 私は投げやりに尋ねたの 妹は少し考えていた そしてゆっくりと 私の目を見て こう言ったのよ 中にいるのは 知らないおばあさんだって だから助けて欲しいと そんな無断侵入者 出て行ってもらいなさい 私はそう簡単に言い放つ 妹に凄い目で睨まれた 今のは妹じゃない 乗っ取られてしまったのね 得体の知れぬおばあさんに どうしたらいいの

氷の坊や(140字小説)

氷の坊やが帰って来るよ お母さーん ボク帰って来たよ 私の坊や おかえりなさい 今度の旅はどうだった 早く帰れたね お母さん 話してあげるよ 氷の世界はきれいなんだ 風の話もたくさん聞けた だけどね 氷達は溶け始めたよ 少しずつ ボクも小さくなっちゃった ボクのお母さんは海なんだ ボクはお母さんの中に戻るんだよね 140文字 南極の氷が溶け出したら、水位が上がり被害を受ける場所が増えていきます。氷の坊やが海に帰るのは、現実にはメルヘンではないのですが。

魔法使いの弟子(ショートストーリー)

「ねえ、おばあちゃん。お願いがあるの」 「なんでも言ってごらん」 おばあちゃんは、いつだってそう言ってくれる。 挨拶のようなもので、話を聞いてくれるだけがほとんどだけど。 おばあちゃんに話を聞いてもらうと、それだけで半分解決した気分になるんだ。おばあちゃんの事、大好き。 だけど、おばあちゃんは皆んなのおばあちゃんとは同じようでかなり違う。 だって、私のおばあちゃんは魔法使いなんだから。 勿論、これは家族だけの秘密。 おばあちゃんの息子の私のパパは、魔法使いにはなれないの

灯り(277文字のお話)

ねぇ、おじいちゃん ん? お星さまって、見えるけど、とっても遠いところにあるって、ほんとう? 本当だよ おばあちゃんが亡くなった時、おじいちゃんは、おばあちゃんが遠いところに行ったって言ったでしょ そうだよ、お星さまより遠いところだよ そうか、だから見えないんだね。淋しいね でもね、おばあちゃんからはコチラが見えるんだよ うん、ママも言ってたよ なんて? おばあちゃんは、いつも見守ってくれてるよって そうとも、お星さまもな 空を見上げている二人に、お星

星の船(お話し)

とても遠くにある星なので、地球に住んでいる人には見えないかもしれません。 生まれたばかりの小さな星。 その小さな星の名前は キラ と星神さまが名づけてくださいました。 キラの隣りに ピカ という少しお兄さんの星がありました。 ピカは、ひとりぼっちて寂しく思っていたので、嬉しくてなりません。 早速、小さな星に話しかけます。 「ぼくはピカ、君は?」 「キラ」 それから2人は仲良く、いろんな話をしました。まあ、少しお兄さんのピカがキラの質問に答えるという事が多かったですけど

廃屋の鏡(夏ピリカ応募作)

昔は立派な邸宅であった事が、容易に想像できるその廃屋は、流れゆく時の中を漂う。かつての面影は敷地面積の広さからも思いを馳せる事が出来る。 今はただ、危険を伝える看板と厳重な金網等に囲れた孤独な佇まい。 100年も前の建物と思われるこの廃屋は、富豪の城。そう呼ばれていた、華やかで美しく優雅な邸宅であった過去を覚えているのだろうか。 この廃屋には、嘘か誠か一つの不思議が伝わっている。 大勢の召使いに傅かれて住んでいたのは三人の娘と、その両親。 三人の娘、皆美しく人目を引い

飛行機雲

私は今、占い師の前に座っている。 ここへ来るのは初めて。占い師と言う人の元を訪れるのも初めてだ。 薄暗い所を想像していたが、気持ちの良い風と明るさが占いを受けるらしく無かった。 ここの占い師を紹介してくれたのは妹。彼女はこの占い師を信頼しているようだが、まだ私にはなんの評価もできない。 占い師は、その職業に見合わない化粧っ気の無い女性だった。 占い師という人たちは神秘的に見えるような独特な化粧をしていると思っていた。 裏切られたような気がしたが、それは私の勝手な先入観に

黒と白のアレ

何がキライかって、ヘビとゴキに決まってるだろ。男だって、イヤさ、怖いさ。 君も、そう思うだろ? ヘビが怖いのはまだ分かる。 だけど、ただの昆虫にすぎないゴキがなぜ怖いのだろう。 君んちにはいないの?僕んちは古いアパートだからな、いくらでもいるさ。 夜、電気を点けると、一目散に驚く程の数のゴキが散っていくよ。一瞬でね。 しかも彼らは飛ぶだろ。飛距離は長くは無いけど、ぼくらの顔をめがけて飛び掛かって来るのは…、あーもうイヤだ! だからさ、食糧の置き場所には本当に困ってい

命の玉(創作)

昔のお話。 ある所に住んでいるお爺さんとお婆さんは、ずっとお爺さんとお婆さんなのです。 もうすぐ100歳を迎える近所のお爺さんは「ワシが子供の頃から、あの夫婦はもうお爺さんとお婆さんだった」と、証言しているのです。 本当でしょうか。本当なのです。 昔の戸籍台帳にもちゃんと記載されています。 そんな馬鹿な。200年近くも生きているなんてあり得ません。 そうです。あり得ません。 でも、こんな噂があります。 ええ、噂です。 その老夫婦の住んでいる家に命の玉があるのでは、

0の可能性(ショートショート)

ある日曜日。 とある民家のタンスの上。 銀行の通帳が開きっぱなしだ。 通帳の中から、何やら話し声が… 「子供達が一番最初に習う算数は足し算と引算だよね、やっぱり数学の基本中の基本、一番大事な計算だと思う」 2 が小さな声で話し出す。   「勿論そうさ。そして子供達の最初の壁は掛け算。苦労して九九を覚えている姿は感動ものだ」 辺りに人がいない事を確かめながら そう続けるのは 5 。 「苦労という点では割り算も同じくだ。ここで算数が好きになるか、嫌いになるかが決まると思う

神様はトイレを使用中

一人の神様がトイレの個室に入っていかれましたよ。 神様も排泄行為をするのかと、ビックリな話だと思われたでしょうけど、それは早合点と言うものです。 神様は、穢れだらけの人間達を見守っているうちにオリが溜まってしまわれるの。 好き勝手な場所に捨てるわけにもいかないので、人が使うトイレに捨てておられるのですよ。 あなた、無いですか? トイレをノックしたら、入ってますの合図のノック返し。でも、なかなかトイレから出て来ない中の人。仕方なく別の個室の前に移動した事、ありますよね。