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魔法使いの弟子(ショートストーリー)
「ねえ、おばあちゃん。お願いがあるの」
「なんでも言ってごらん」
おばあちゃんは、いつだってそう言ってくれる。
挨拶のようなもので、話を聞いてくれるだけがほとんどだけど。
おばあちゃんに話を聞いてもらうと、それだけで半分解決した気分になるんだ。おばあちゃんの事、大好き。
だけど、おばあちゃんは皆んなのおばあちゃんとは同じようでかなり違う。
だって、私のおばあちゃんは魔法使いなんだから。
勿論、これは家族だけの秘密。
おばあちゃんの息子の私のパパは、魔法使いにはなれないの。だって男だから。
ママは普通の人だし。
おばあちゃんの家系は女しか魔法使いになるためのDNAが無いって聞いた。
だから私は、13歳になったら魔法使いの修行を始める事になってるの。
おばあちゃんの血を引く、ただ一人の後継者だから。
だけど。
「ねえ、おばあちゃん、私は魔法使いになりたくないの。ママみたいに普通の女の子でいいの」
「また、その話かい。リンちゃん、おばあちゃんを悲しませないでおくれ」
おばあちゃんの返事は聞かなくてもわかっている。いつも同じ。
だって、魔法使いになってどうするのよ。御伽噺の世界では、魔法使いは大抵悪者だし、人が魔法使いに求めるのは、ゲームで主人公のお供をする事しか無いじゃない。
まあ、ハリー・ポッターが出てきて、少しは見直されたかも。
あとひと月で、おばあちゃんと修行の旅をするなんて。私は魔法使いになりたくないのに、誰もわかってくれない。どうしたらいいの、私。
修行をしたからって、どの程度の魔法使いになれるかわからないのよ。
おばあちゃんは、どれほどの魔法使いなのかしら。
そもそも、魔法使いって、なんなの?
何ができるの?
何をしなければいけないの?
あれから、2ヶ月が過ぎた。
結局、私はおばあちゃんと修行の旅に出かけて、昨日帰って来た。修行の旅とはいっても、それで魔法使いになれるわけじゃない。ほんの入口に立っただけ。
修行の内容は他言出来ない。それが掟なの。でも思ったよりハードじゃなかったし、結構私も楽しんだし。おばあちゃんは肩の荷が降ろせたって喜んでくれた。
私、魔法使いになる。当分は魔法使いの弟子だけど。
夏休みの宿題が、まだ手付かずのまま。おばあちゃんに助けてって言ったけど無駄だったけどね。
そうそう、これは秘密ではないから教えてあげる。
私ね、おばあちゃんと偉い人に会ってご挨拶をしたのね。魔法使いとしての心得を教えて頂いたの。
そして、その方から、私、黒猫を頂いたのよ。魔女に黒猫と思っていたけど、魔法使いにもなんて、驚きでしょ。
おばあちゃんの猫は白猫とばかり思っていたけど、もう随分歳をとって、黒猫が白猫になったんだって。まさかの白髪だった。彼女はとても賢いの。おばあちゃんの大切な相棒よ。
私の黒猫の名前、今考えているんだ。男の子よ。言葉も教えなきゃ。これが私のLesson1なの。
「これから二人で、ステキな魔法使いになろうね。
名無し君」
抱き上げると、彼は「ニャ」と返事をしてくれた。
「おっと、宿題、誰か助けて!って、そんな魔法あるかも知れない!おばあちゃんに聞いてこよう」
するとおばあちゃんの声が飛んできた。
「リンちゃん、魔法使いの修行も人間の修行も大事だよ!ズルはダメ!」
人間としても、魔法使いとしても本当の修行はこれからだね。ぼちぼち頑張るよ、おばあちゃん。
私は心の中で、つぶやいた。
だって、おばあちゃんは私の人生の先生。
そして私は、魔法使いの弟子だもの。
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おしまい
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