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0の可能性(ショートショート)
ある日曜日。
とある民家のタンスの上。
銀行の通帳が開きっぱなしだ。
通帳の中から、何やら話し声が…
「子供達が一番最初に習う算数は足し算と引算だよね、やっぱり数学の基本中の基本、一番大事な計算だと思う」
2 が小さな声で話し出す。
「勿論そうさ。そして子供達の最初の壁は掛け算。苦労して九九を覚えている姿は感動ものだ」
辺りに人がいない事を確かめながら
そう続けるのは 5 。
「苦労という点では割り算も同じくだ。ここで算数が好きになるか、嫌いになるかが決まると思うよ」
隣の数字に流し目を送りながら
6 も付け足す。
立ち上がったのは 0 。
一瞬緊張が走り、数字達はざわめく。
「あなたは我々の希望です。あなたは本当に素晴らしい方だ!」
大げさな憧れの眼差しで
1 は0を持ち上げる。
「0の発見があったからこそ我々は生き残れた」
博識の披露が何より好きな
4 は微妙な発言をする。
「あなたは美しい」
密かに3に焦がれている
9 は的外れなゴマをする。
「本当にそうです」
皆んなのアイドルを自認する
7は流れに乗ろうと慌てて賛同する。
3と8 は素晴らしい笑顔で拍手を送る。
短い沈黙の後、0 は口を開く。
「そんなに気を使わなくても、ここのみんなとは掛け算はしないよ」
一同に安堵が広がる。
だが一番胸を撫で下ろしたのは、ほかでもない、通帳だった。
しかし、この通帳の持ち主は別の事を思うだろう。
数字の末尾に、ゼロがたくさん欲しいと。
まあ、それもあるけれど…
彼女の心の声としては…
いつになったら、通帳の名義が変わるのか、それが問題なのだ。
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