遺愛

現実と創作の境目。

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現実と創作の境目。

最近の記事

東京って、なにもないのね。

東京のとあるホテルの最上階にかえってきた。 電気をつけずにソファーに倒れ込む。ここに泊まってはや2日になる。自分の家のような安心感。ここに私を傷つけるものはいないし、悪いことはなにも起こらないと直感する。 目下には池袋駅と東京タワーがみえる。 今日は一日中、だいすきな君と一緒にいた。「今度はピアス買おうね」「リング買おうね」と言って買わないのは、約束事を引き延ばしておきたいから。というのは私だけなのだろうか。 カバンの中からペットボトルとスマホを探す。スマホにウォークマンと

    • 空間の猫

      就寝前、電気を消したその時、部屋のどこかから猫の鳴き声がした。 あわてて電気をつけると鳴き声がおさまる。 気のせいだと思って電気を消し、ベッドに潜るとまた鳴き声がする。さっきより近い。 電気をつけると、また静かになる。 今度は電気を消してその場に佇んでみる。にゃおにゃおと聞こえる。 部屋を見渡すと私よりも遥かに高い位置で黄色い双眸がこちらを見ていた。 私の部屋全体の暗闇が大きな黒猫になっていた。 「君どこからきたのかい。迷子なのかい?」 と聞いても先程と変わらずにゃおにゃお言

      • 世界の終わりはアップルパイと共に

        久しぶり、元気かな? 僕はいまアップルパイを焼きながら遺書を書いてるよよ。 THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの『世界の終わり』みたいにパンを焼きながら終わるのを待っていようと思ったけど、パンは途方もない時間がかかるから冷凍パイシートでアップルパイを作ってる。 焼きあがって君がここにくる時には僕はもういないけど。 部屋に漂うリンゴと甘いスパイスの匂いだけでもかぎにきてほしいな。 そして出来れば、後片付けもよろしくね。首を吊るためのネクタイ、弟のなんだ。

        • スパゲッティの誕生月

          スパゲッティは一人で食べるものだと思ってた。 それは私の家庭環境がとても特殊で、普段私たちは仲が良いのにご飯の時になると各々部屋にもっていって食べてしまうからである。もちろん家族4人で食べることもあるけど、物凄く静かだし、お通夜状態である。 それと同時に『スパゲッティーの年』のせいでもある。あれを読んだ時、たしかにスパゲッティは一人で食べるものだと思い続けてはや5年になる。 そして私はお誕生日にはじめて誰かとスパゲッティを食べることになる。 5月の陽射しが眩しかった。梅雨に

        東京って、なにもないのね。

          東京を寝かさない女はバンドマンじゃなくて良かったと。

          バンドマンじゃなくてよかった。本当に。 もし私がバンドマンだったら、過去好きだった人とか愛した人に向けた曲を20曲作ってる。私は片想いしてた人が多かったので27曲とかかもしれない。 過去に向けて愛を叫ぶのってなんて美しくていじらしいんだろう。 過去なんて変えられないし、消えていく一方で消えていく過去が惜しくて人は美化していくだけのものなのに。 あの日、笑ったあの子の笑顔の可愛さとか、意外に短いまつ毛をなんだなって思った時の嬉しさとか、別れ話をした時の喫茶店で流れてた音楽がいや

          東京を寝かさない女はバンドマンじゃなくて良かったと。

          影踏み

          大人になったら結婚しようね。 子供の時の微笑ましい約束。誰しも一度は経験があると思う。 かく言う僕も、その一人。いまでも覚えてる。 みさえちゃん。 幼稚園の名札にはそう書いてあった。漢字は分からない。僕が4歳の時にみさえちゃんは引っ越してしまったから。 引っ越す前日の朝に挨拶をしに来てくれたみさえちゃんの目は貯金箱のお金を入れる口くらい細くて泣き腫らしていた。 僕は「遠くに行く」ということイコール死ぬことだと思っていたから同じくらい泣いた。 2人で泣いて、親が困ってた。

          影踏み

          かさねあわせ

          あと四回辛いことがあったら死のう。 私はそう決めていた。 一回目は、一緒に飛び降り自殺を図ったが、友達だけ入院した時だった。 二回目は、四年前に急に連絡が取れなくなった彼と会った時だった。 三回目、四回目はまだかまだかと思っていると、辛いことがなにも起きなかった。そうして死にたい気持ちが峠を越えると急にばかばかしくなる。 だが友達が急に部室に遊びに来るように突然に辛いことが起きる。そのショックで何回目か分からなくなる。 その繰り返しで私は辛いことを何度も繰り返していまを生きて

          かさねあわせ

          ひとつとして同じ輝きをもつことのない鉱石です。

          「あなたの目は本当に特別ね」 と母は笑う。 物心ついてはじめて鏡をみたとき、私の目は濁っていた。白目である部分は乳白色で黒目である部分は栗川色だった。筆洗にぽとり、と絵の具を落とすとぼわん、と広がっていった時にできた模様が私の左目だ。 子供は時に残酷だ。バイ菌だ!病気だ!と避けられたことも数え切れないほどある。 そんな時の心の拠り所は図鑑だった。 父は読書家だ。ひとたび書斎に入ると埃っぽい匂いと紙の匂い。私と同じ色をした陽射しと暖かい木の机。入ってすぐ右側にあるのは私のため

          ひとつとして同じ輝きをもつことのない鉱石です。

          触れられない体温

          私は声が出せない。 出せないというより出すのが面倒くさい。 はじめて固定電話を見た時の事を今でも思い出す。その電話は無機質で、冷たくて、雨の日のコンクリートみたいによそよそしくて冷たい銀色だった。赤と黄色のボタンと、押すと凹むという単純な仕組みさえ私は楽しく感じた。トルネードポテトのようにくるくると回った形をしているコードを無意識に触る。 「まず電話がかかってきたら相手の名前を聞く。要件を聞く。自分の名前は言わなくていいから。」 と母に言われる。防犯上の意味もあっただろうが

          触れられない体温

          大人なのさ。こう見えて。

          今日、友達の家で遊んだ。 その前に韓国風チキンみたいなやつを食べた。ASMRの人が食べてるアレを公園で食べて待ってた。 味は塩っからくて二口食べて二度といらない。と思った。付け合せがオーロラソースで助かった。 友達が日傘を差して笑って登場した。 私は楽しくなって昨日聞いた話をしてあげた。 蛇に睨まれた蛙が動けなくなるのはなんででしょう!それはね、恋しちゃったからなんだよ。 と言うと友達は蛙になってしまって次の瞬間ケタケタ笑った。 誰の受け売りなの? どうやら私は信頼されて

          大人なのさ。こう見えて。

          一つくらい忘れていけよ。

          朝、目を覚ますと背中から温もりを感じられなかった。微睡みながら人の形に若干凹んだシーツを見て居ないことを確認する。 喧嘩した次の日はいつもそうだ。 些細な事で喧嘩した。 誕生日を忘れて飲み歩いたことだ。 俺は優しい。いつもはやめに謝る。言い訳もせず、逆ギレもせず、目を逸らしながら 「悪かった」 と謝る。 「気にしてないよ」 と目を逸らしながら許してくれたのに、昨日はそうもいかなかった。 女はめんどくさい。 昨日は説教が凄く長かった。この前もこうだったよね。その前もこんなことし

          一つくらい忘れていけよ。

          死にたくなっていたあの日から

          カチリと横のボタンを押すと青白い光が私の顔を照らした。 私は死にたかった。 別に両親が離婚したとか、学校でいじめにあってるとか、そういう事ではない。 ただ、同じ毎日を繰り返すのに飽きたのだ。毎朝同じ道を通って通学していると、その道に私の足跡がつくんじゃないかと思う程、毎日が同じことの繰り返しなのだ。大人になって、例え通っていく道は違っていくにしても、その先何十年も同じ毎日を繰り返すのなんて私には耐えられない。 だから、死にたいのだ。 真っ暗な部屋の中でスマホを弄ると目が悪くな

          死にたくなっていたあの日から