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大人なのさ。こう見えて。

今日、友達の家で遊んだ。
その前に韓国風チキンみたいなやつを食べた。ASMRの人が食べてるアレを公園で食べて待ってた。
味は塩っからくて二口食べて二度といらない。と思った。付け合せがオーロラソースで助かった。
友達が日傘を差して笑って登場した。
私は楽しくなって昨日聞いた話をしてあげた。

蛇に睨まれた蛙が動けなくなるのはなんででしょう!それはね、恋しちゃったからなんだよ。

と言うと友達は蛙になってしまって次の瞬間ケタケタ笑った。
誰の受け売りなの?
どうやら私は信頼されていないみたいだ。しゅんとしていると好きな子から教えて貰ったんだね。と心を見透かされた。察しすぎるのも良くないぞ。

公園はかなり田舎にあって空気が美味しかった。私の住んでるところは田舎なりに栄えているので毎年梅の花も桜の花も自宅付近じゃ見たことないのに、友達の家付近じゃ沢山見られて素敵だったしタバコも美味しかった。タバコを吸う時日傘でガードしてくるので少し離れてタバコを吸った。世間のタバコに対する縮図がそこにはあった。

久しぶりにブランコを漕いでみた。
鎖が細くて頼りなかった。あの頃はあんな小さな手でしっかり握っていたのか。今は手もすっかり大きくなってよりしっかり握れているはずなのに。不安で仕方がない。小指を鎖の中に入れて指切りげんまんをする。「振り落とさないでね。嘘ついたら針千本飲ます。」という事故に合わないおまじない。よく考えれば小さな小指を掛けたからってぶっ飛ばされないわけない。むしろ小指だけちぎれて他は宙を舞う可能性の方が大きいのに。身体と精神はつりあってないみたいだ。
あの頃より何倍も重くて成長した私たちをブランコは「何よ今更」と言わんばかりに冷たかった。
競争しようよという話になった。ビデオに撮って収めてみた。
2人で漕ぎ始めて限界点まで行くとカックンと落ちる。
そのふわりと舞うようなお腹の底が冷えるような感覚がスリルで好きだったのに。
青空が果てしなくて吸い込まれそうだった。もし鎖から手を離して飛んでいっても気が付かないくらい空は果てしなく澄んでいて怖かった。
もし死んでもいいように青空をしっかり睨みつけた。どうせ最後に死ぬなら地面やヒールじゃなくて青空をみて死にたい。
2人で放り出されそうになりながらゆっくりと元の位置に戻る。昔は立ち漕ぎしてたのにね〜。と笑いながらブランコの上にたつとあとすんでの所で頭がつきそうだった。月日とはこいうことだと突きつけられている気がした。

次に鉄棒をした。逆上がりできる?地球周りは?そもそも頭つかないでしょうね。と笑いあった。前回りをして着地する時の音があの時より遥かに重くて年齢を感じた。あの時はふわっと着地していたのに。今じゃ、ドスン。という音。ヒールだったことも相まってガタンという音だったかもしれない。
地球周りが怖くて逆さまになるだけで精一杯だった。逆上がりの神様なんていないんだ。なんだか泣きたくなって思いっきり小石を蹴った。

小学生たちが話しかけてきた。
缶けりしない?人数足りないの。
ギリルール覚えているくらいの缶けりに参加することにした。さっきも書いた通り私は身体と精神が釣り合ってない。ヒールを脱いで靴下を脱いで本気で缶けりをする。
まずみんなの名前を覚えることからはじまった。黄色い帽子のマキちゃん。おかっぱ頭のリンくん。色が白いユウキちゃん。仮面ライダーのベルトをしているユウダイくん。
人の名前を覚えてからお姉ちゃんはなんて呼ぶの?と聞かれた。
ハイバラお姉さんだよ。というと友達はびっくりした顔しながらも相槌を打った。
灰皿から来てるらしい。好きな子からの命名だ。ネーミングセンスはどこから来てるのだろう。スパムからだったらどうしよう。才能を得る為に食べてしまうかもしれない。私はスパムが大嫌いだ。
え〜!コナンに出てくる人だ!と一応の認識を持ってもらい缶けりがはじまった。
因みに友達の名前はイブちゃんだ。EVEクイック愛用者だかららしい。
ライダーベルトのユウダイ君が鬼だ。マキちゃん曰く「とっても足が早いんだから」と笑って教えてくれた。お姉さんだって負けないよ。お姉さんは運動神経いいんだから。というと横のイブが笑ってた。実はこの前リングフィットを一緒にしたとき、一面のラスボスも倒せない。スクワットのやり方もわからない。走れない。腿が上がらない。頭上にあげたリングを押せ!といわれても押せない。それどころか機械側に不備があると思われているなど散々な醜態をイブは知っているからだ。
言い訳をさせてもらうと体力がないのと運動神経が悪いのはセットじゃない。体力はないけど運動はできるのだと力説したい。確かに体力はない。バスに45分も揺られただけで腰が痛くてなんども姿勢を変えてしまうけどバスケもバレーも球技はなんでもできる。逆立ちもギリバク宙もできる。常に一発本番なだけだ。
マキちゃんは足の速さよりも私たち2人の髪色の揺れるピアスに興味津々だ。
なんで髪かわいいの?爪もかわいいね、星が揺れてるねと質問攻めだった。大学の発表ですらこんなに質問攻めにされたことはないのに。小さな手で星を掴む姿がピーターパンのワンシーンだった。
大きな声で話していたからか私たちはすぐ見つかった。ユウダイ君は私たち3人の名前を高らかに叫んで缶を抑えに走ってしまった。
一気に囚われの姫だ。たすけてー!うわーん。と叫ぶとリンくんが囮になっている間にユウキちゃんが助けてくれた。典型的な「ちょっと男子!ちゃんと掃除して!」の勝気な女の子だった。その子に手を引かれながらまた隠れる。
ユウキちゃんには少し哲学的な質問をされた。

「大人って楽しい?」

楽しいよ!
と胸を張れるような人生じゃない。小学生から右も左もわからないまま受験させられて結果親の言う通りにしておいてよかったと思い、中高生で楽しかったのは中二まで。そこからはなんで生きてるのかと思いながら大学生になってさっきやっとタバコとお酒を触れる以外で大人になったことを実感した。

「楽しいよ。大人になればなるほどね。未来で待ってるよ。」

って、かつて私が誰かにかけて欲しかった言葉を吐いて頭を撫でる。未来で待ってるよ。なんか言いたいセリフ。でもほんとに楽しいもんね。
ユウキちゃんはそっか〜はやく大人になりたいと呟いて隠れるため、丸くなった。
大人になりたいってことはまだ子供なんだね。私は子供に戻りたいからもう大人になっちゃったんだよ。というと難しいことは聞きたくないというふうにしっ!とされて鬼を睨んでいた。

子供の頃、当然ながらカラコンはしない。そして揺れるピアスも付けてない。全ての子に当てはまるわけじゃないが、大抵の子はそうだ。
そして私はここでも大人になったことを知る。
イブとリンくんが捕まってしまい、囮作戦と失敗したマキちゃんも捕まってしまい残りは二人となった。もう一度囮作戦を実行するチャンスが訪れた。
「ハイバラお姉さんが蹴ってよ」
と託された。私はこんなことは向いてない。爆発物があって、青線と赤線どっちを切るかと言われて赤線を切り無事、お陀仏になるタイプだ。
ユウキちゃんがしなよ。と笑ってもユウキ姉御は聞かない。
「ダメ!」
の一点張りで渋々私が引き受けることにした。ユウキちゃんはわざと枝をパキパキ鳴らしながら隠れながら移動していった。
ここまでお姉さんは見せ場ゼロだ。
「ユウキちゃん!」
というユウダイ君の声を聞いた途端に走り出す。
カラコンが乾く。ピアスがちぎれる。あの頃より体が重い。昔はクラスの男子にも負けないくらい足が早かった。かけっこ、徒競走、リレーのアンカーだって男の子に負けたことなかった。そんな過去の栄光はどこへやら。
でもどうやら足が遅いと思っていたのは私だけみたいだ。周りから「はやーい!」と声が湧く。思いっきり蹴飛ばして!といきたいところだけどさすがに大人気ないので、カンカラコンと飛ばすだけにした。
ユウダイ君はしまったー!といいながらも缶を追いかけていく様子が可愛かった。
私はというと細く細く息をして文字通りハアハアと呼吸していた。薄い胸が前後していた。
あの頃より身に纏うものが増えたからこんなに足が遅いのかな。
と後になってイブに聞く。イブは一応の考えたフリをして、ウンウン唸るだけだった。ネイル、時計、ピアス、カラコン、メイク、羞恥心、そして時間。
それらが積み重なって走るのが遅くなるのだろうか。それが大人になるってことなら全てやめてしまいたいし、簡単なものだ。

あの後、みんなに大人の財力を見せつけ(ジュースを奢った)解散となった。みんなジュース一本を大事そうに抱えてまた遊ぼうね!とランドセルを背負って帰っていった。
子供は「また」を信じてる。また遊べる。また会える。また話せる。明日が当たり前にあることを信じている。私たちの「また」は二度と来ない。また遊ぼ。また会お。また話そ。明日は来ない。また明日。は永遠にさようならと同義だ。
私もそろそろ帰ろうかなとイブに笑うとバス停まで送って行ってくれるらしい。
足を冷たい冷たいと洗いながら水が切れるまで待って靴下とヒールを履き直す。
星が綺麗だった。私のネイルとどっちが綺麗?と聞くと無言で空を指された。そういう奴だイブは。
バス停は梅の花の真下だった。
梅の花ってこぼれるっていうだよね。でも椿は首からボテっと落ちるから落ちるよね。涙がこぼれて悲しくて死ぬのがいい?首切られるのがいい?
とイブに聞いてもAirPodsのせいでなにも聞こえなかったようです。外界から遮断されている。碇親子かよ。と突っ込んでもイブはエヴァをみてないようで怪訝な顔をされてしまった。だから私は碇シンジが大嫌いなのだ。

バスが来る。
手を振ってわかれる。イヤホンから流れるindigo la Endが若干その場を色付かせる。雨が降る。梅の匂いが窓から漂う。
涙がこぼれて悲しくて死ぬのと、首を切られて死ぬのと、どっちがいいんだろう。
私は前者かもしれない。でも何で悲しいのかにもよる。好きな人のことだろうなどうせ。きっとあることないこと考えて喉にわたあめが詰まったように苦しくなって呼吸が浅くなって過呼吸が治まらなくてないているのか好きな人の事を信じられない自分が嫌なのか分からなくなって喉の奥がヒクヒク痙攣した時に死ぬ。
泣いたくらいで死ねるならもう私はとっくに死んでる。高校生二年生の夏に。転落死のように。
indigo la Endのプレイリストが中々終わらない。
足元からじんわり疲れと眠気がやってくる。足元からあっという間に目蓋まで侵食された。目薬をさしてカラコンに気をつけながらゆっくり目を瞑る。
雨の匂いが心地よい。不安になってLINEを薄目で開く。返信は来てない。スマホをしまってindigo la Endにだけ集中する。
結局、君のことが好きなんです。
とindigo la Endが言う。
そうなんです。結局ね。
と思いながらゆったり眠りにつく。誰かのことをこんなに想えることが大人なら、悪くないのかもしれない。

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