歩く、止まる、以下繰り返す。 笑いを捕らえよ!#14

空が好きだ。

この世を明るく、時に暗く覆い尽くす空が。


日光が僕を照らしつける。

セミの断末魔がほぼ無人のホームに聞こえる。

無情にも電車は走り出す。

車両内には、僕と知らないお兄さんの2人だけ。

夕風が吹き抜ける。

聞き慣れない車内アナウンスに、聞き飽きたセミの声。

お兄さんは、光り輝くブルーライトを一心に見つめている。

人がいない電車はこんなに寂しいものなのかとひとりでに思う。

ああ、僕に彼女でもいれば、お兄さんに向かって降りろ降りろと念じて、数少ない2人きりの時間を堪能できたかもしれない。

「辺りは夕闇に包まれた。車内には僕と彼女だけ。ふと目が合い…」

なんてロマンティックなことを。

電車が息を吐いて静かに停車する。

新鮮な空気が入ってくる。

そそくさと出て行ったお兄さんを尻目に、僕は優雅に駅を出る。

少し歩くと、ガタンゴトンと音がする。

もう出たのかと振り返るが、電車はそこにある。

周りを見渡すと、絵に描いたような貨物列車が遠くの橋を渡っている。

あの貨物列車はどこへ行くのだろう。

青春ドラマのように追いかけるのもいいと思ったが、あまりにも遠すぎたので涙ながらに断念する。

再び僕は歩き出す。

しばらくして、大きな川と大きな橋が目前に迫る。

いつ見ても美しいよなぁ、と感嘆する。

小学生の頃、休日に家族で車に乗り、この偉大なる橋を渡った先に厳然と佇む温泉へ行ってはしゃいだものだ。

間近で拝むのは初めてかもしれない。

なむなむと呟き、橋の前で左折する。

川に沿って、ぼうぼうの草を開拓したと見られるサイクリングロードがある。

階段を降り川沿いを歩く。

時折ビュンビュンと風を切りながら自転車を飛ばす屈強な男たちとすれ違う。

上半身裸の強者もおり、思わず「四畳半タイムマシンブルース」を思い出し顔が綻ぶ。

自分より背の高い草を見つけ、自分のちっぽけさに気づく。

それでも僕は前を向いて歩く。

視界が晴れる。

荒れ放題だった草は刈り取られ、眼下にサッカーフィールドが広がる。

だだっ広いグラウンドを見ると、視野が広くなった気がする。

戦友たちの姿が見える。

僕はボールを取り出す。

スパイクに履き替えながら、ふと空を見上げる。

世界の全てを包む空が、少し大きくなったように見える。

それは僕がちっぽけになったからなのか、視野が広くなったからなのか。

そんなことは誰にもわからない。

でも、今日の空は文字通り晴れ晴れとしていて、暗い暗い闇から抜け出したようであった。


美しい梅雨明けであった。


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