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向日葵

「カメラの使い方が分からないの。」

学校からの帰り、駅まで20分もある道を炎天下の中歩いていたら急に話しかけてきたお婆ちゃんがいた。

え?

「これ、数年前に買ったデジタルカメラなんだけど電源がつかないの。」

その人は電源のボタンとは全く違うボタンを押していた。
ここ押せば付きますよ。と電源ボタンを押したらカメラが起動した。撮り方も撮った写真を見る方法も分からなかったらしく一から全て教えた。

「駅前にね大きい向日葵が咲いてたの、でも撮り方が分からなくてね、、」

私はその向日葵を夏の間毎日見ていたからすぐに話している事が分かった。今駅に向かっているけど一緒に撮りに行きますか?と伝えると嬉しそうな顔をしていた。
ここから駅までは10分程度。
お婆ちゃんの歩く速度に合わせながら写真が好きな話、若かった頃の話、先月亡くなった旦那さんの話、たくさん聞いた。

駅に着くとカメラの使い方は忘れていた。また一から教えた。向日葵を撮ると満足そうにして今まで撮った写真を見せてくれた。風景、花、お孫さん、そして沢山の旦那さんの写真。

「素敵な人だったの。沢山話せて楽しかった有難う。」

そう言うと来た道を戻って帰って行った。
30分に一本しかない電車、4本逃した。その日私は電車でいつも聞いていた音楽を聞かずにすぐに家族に連絡をした。
家族大切にしてね。
その一言が忘れられなかったからだ。


花言葉「あなただけを見つめる」

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