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読書日記22

 コインロッカーベイビーズ

 村上龍の初期の長編小説で「限りなく透明に近いブルー」で鮮烈デビューしてからの本格小説になる。コインロッカーで生まれた孤児のキクとハシが九州の炭鉱で生活をしているところから物語が始まる。ハシが自分の母親を探しに上京して行方不明になる。それをキクが探しに行くというので物語が始まっていく。

 キクとハシの物語と思いきや、そこにモデルでアネモネが出てくる。時代背景は「近未来」なんだけど、「薬島」という治外法権的なスラムの島が出てきたり、キクが世界を破壊したいと願うところやワニを買っているアネモネやスター歌手となるハシの心の動きと仮想近未来都市である東京での人々の軌道を逸脱する行動が凄く印象に残る。「母親を探す旅」の果てでこの3人の未来はどうなっていくのか?

 色々な人が影響を受けた作品。村上龍がテレビで「書いたもん勝ちなんだよね」と言ってるのが印象的だった。ロック歌手が書いたらホントにこんな風になるんだろうと思ったし、こういう世界になっていたかもというのは昔は治安が悪かった。そういう並行時空の世界を純文学の作家が書くというのは凄く新鮮でSFでもなく心の葛藤を書くものでもなく、村上春樹が刺激を受けて「羊をめぐる冒険」を書いたといわれていた。

 村上春樹を知る人なら「違うな?」と思うだろうけど僕は村上龍では1・2を争う作品な気がする。「五分後の世界」も好きだけど、翻訳したリチャード・バックの「イリュージョン」も面白いけど(面白いの多いな)その中でも群を抜いている。村上龍は文章がうまい作家ではない気がするけど、それでもこれだけ人気なのはわかる気がする。

 村上龍は昔に「NHKでやってた「明るい農村」というのを朝みて泣くらしい」と久米宏が番組で話していた。徹夜で文章を書いて懸命に労働をする人をみて泣くらしい。そういう感性なんだと思いながら、「へんな人だな」と思ったのを覚えている。「Ryu's Bar 気ままにいい夜」というトーク番組をやっていてなんかカッコいいな~と思った印象もあった。作家が人前で話してそれがクールで決まってとかあまりなかった気がするのでそれも稀有な作家だなと思う。

 話は変わるけど、昔に地元の新聞で「トイレで赤ん坊が泣いていて汲み取り便所の下に赤ん坊がいた」というのがあった。コインロッカーもびっくりの話で女性が(高校生か未成年ではないかと推測されたらしい)トイレで子供を産んでしまってそのまま放置したんではないか?ということが書かれていた。もう20年以上前の話だと記憶しているんだけど、衝撃は走ったがその子供が無事なのとそのまま施設で生活が決まったというので、あまり話題にしてはいけないというのかニュースも小さく取り上げられた。

 村上龍は破壊というか何かを壊すというのが好きみたいで、この小説でも破壊をテーマに書いてあるシーンがある。破壊というか現状を悪としてそれを壊すことで浄化する考えというのは昭和という時代にはすごくあった。世紀末思想というか人間は滅ぶんだ。革命だというのはなんかすごくあった気がする。ただそうはならないしそういう破壊は犠牲も大量に生むのを理解するとみんな静かになった。

 不思議な世界の話というのではSFではなくリアル世界に近いところが凄く切迫感がある。表現とかはうまくないけど頭の中にある部分ではホントにすごい世界が想像されているんだろうと思う。その部分と得意の主人公の心の動きがしっかり書かれるところがすごくマッチしている。40年も前に書かれた作品にはとても思えない。

 伊藤計劃とかのSFがすごく近い感じがする。SF作品は感情が少ないと言われるけど(心の部分も書いてたら話終わらないしね)日本の作品って感情もしっかり書いてある作品も多い。そういう意味では村上龍のこの作品というのは分岐点にもなるのかなとは思う。もう少し時間ができたら村上龍の他の作品も読んでみようと思った。

 

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