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読書日記91 【深夜特急1】

 沢木耕太郎さんの若き日の旅行記。冒頭から旅の途中であるインドのデリーの暑さと悩める自分との葛藤が書かれている。デリーの安宿に泊まり、喧噪の中で動けないでいる。熱波と騒音がバックパッカーを飲み込んでいく。同宿のフランス人を見て狼狽する。オランダ人がピエールと言っていたフランス人はただ天井を見つめる。目は冷たくなる程、虚ろになっている。

 ピエールは旅にでて四年半になるらしい。カナダ・アメリカに渡り、日本・オーストラリア・インドシナ半島を巡りインド・中近東を経てフランスに帰り、またインドに戻ってきていた。著者にあった時に日本の童謡を突然歌い始めた。

 カーゴミ カーゴミ カーゴノナーカノ トレーハ イト イト デーヤール
 それにしても、この虚ろさはどうしたことだろう。籠の鳥と違ってどこにでも自由の飛び立てるはずなのに、異国の安宿で、薄汚い寝袋にくるまり、朝、茫然と天井を眺めてみじろぎもしない。その姿には、見ている者をぞっとさせる、鬼気迫るものがあった。慄然としたのはそれが決して他人事ではないと思えたからだ。

 宿をでる著者。その当時インド・パキスタンは紛争状態にある。電車でいけという、ニューデリー駅の係員に「バスで行きたい」と嘆願する。何故、ユーラシアなのか?そしてバスに拘るのか?日本にいるときの友人と賭けにあった。インドのデリーからロンドンまで、乗り合いバスで行くことを、友達と賭けをしたのだった。「ロンドンの中央郵便局で「ワレ成功セリ」と電報を打つよ」と約束して、著者は旅に出る。

 正直そこら辺から、よくわからない。何故にという所が曖昧だし、そして計画の立て方も適当だ。チケットを求めて、旅行代理店をはしごしていると、インド航空の安い片道チケットがみつかる。買う段階になって、旅行会社の事務員が首を傾げる。

 「本当に「東京→デリー」で作ってよいですか?」 詳しく聞くと、途中、二か所までなら立ち寄ることができる。結局、その特典をいかそうと、香港へ立ち寄ることにする。あと1つをタイのバンコク決める。香港やバンコクは2、3日いればいいと思っていたのだけど、それが何週間も滞在することになる。泊まったのは「黄金宮殿」だった。

 「ゴールデン・パレス・ゲスト」と名乗った連れ込み宿に、滞在を始める。香港の街の屋台の美味しそうな臭いが鼻をくすぐる。人との交流も、英語でなく広東語でもなく、筆談でという、東アジア独自の漢字文化がある。メモ用紙とペンを片手に、香港人と交流を始める。そして、フェリーに乗って香港島に向かう。食事をしたり、街を見物したり、そしてこの章のクライマックスのマカオへと向かう。

 その当時は、まだポルトガルの統治下におかれているマカオで、大小という賭け事を始める。著者はあまり賭け事をやらないのだけど、雰囲気にのまれて旅費をどんどんつぎ込んでいく。サイコロを3つふる。合計の最大は6×3で18になる。最小は3で、4から17までを2分して、4から10までを「小」11から17までを「大」とする。ゾロ目は親の総どりで、お店のものになってしまう。ただ、ゾロ目にも賭けることはできるし、賽の目を当てるものもある。ルーレットの東洋版といった感じらしく、テーブルにお金をはっていく。

 増えたり減ったりする中、取り返さなきゃと焦る著者。みるみる内にお金は減っていく。賭けていく内にある法則があることに気づく。サイコロを振るディーラーの目が大なら大を、小なら小を続けて出している。すると、客は次は大が出る。次は小が出ると、いっぱい集まったところで、ゾロ目を出して親の総どりをしていた。他のカジノ店もやり方は違うが、お客を集め、たくさんお金を賭けさせた時に、ゾロ目を出す。

 少ない軍資金のなかで、ゾロ目にお金をかける著者。ゾロ目は24倍になる。「今だ!」著者は少ない金額をゾロ目に賭ける。そしてサイコロはゾロ目になる。息を吹き返す著者。まるで、博打の本を読んでいるような。「大小」という賭け事のディーラーとの駆け引きや、お客の態度、ギャンブルにのめり込んでいく著者が、書かれている。最後は少し負けの状態で終わり、マカオを後にするのだけど、そこまでの道程が虚しく儚い。

 著者の書く世界はすごく、夢の中というか、リアルなのか幻想的なのかの線が曖昧で、まるでファンタジーを読んでいる感じさえある。カジノ店でそんな素人が簡単に、必勝法を見い出せたら苦労はない。旅の計画性もない。バックパッカーなんてそんなものだよと言われたら、納得するしかないけど、幽玄的な表現が満載で、この旅の意味さえもわからない感じさえある。

 ただ、ここら辺がこの旅行記の面白さでもある。目的も行き先も、全てが漠然として、ただ、歩いているだけの放浪する感覚がしっかりと読み手に伝わる。バスに拘り、予定をはるかに超えて、旅は続いていく。バスでの移動なのになんで「深夜特急」なのか?それは、冒頭に書かれている。

ミッドナイトエキスプレスとは、トルコの刑務所に入れられた外国人受刑者たちの隠語である。脱獄することを、ミッドナイトエキスプレスに乗るといったのだ。

 だから?というのはある。だから、なんでバス旅行なのに題名が「深夜特急」なんだよと、その意味がわからないから、この旅行記はすごく面白いんだろうというのが、読み終わると結論として出てくるのが正論。意味などはどうでもいいのだと思える作品。

 

 

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