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創作

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自分からは言えないことを架空の人々にお話してもらっています
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#小説

孤独を抱いて飛べ。

2xxx年。 ベーシックインカムが世界中で導入され、人間は金銭のための労働から解放された。 何をせずとも生きていける世の中で、一部の人間は、自分の生きる意味を問い直し、行動した。 起業、慈善活動、創作活動、、、血の通ったそれらの活動は、AIに慣れきった人々を惹きつけ、生活を豊かにした。 そのような社会の流れに合わせるように、公教育も変化した。いわゆる”自分のやりたいこと”を見つけるためのメソッドが授業に導入された。そのため、早くから将来の目標を見つける者が大多数を占めた。

それから。

「生きている意味が分からない」 美術部の佐伯夏菜子は醒めた目で言った。 「楽しいことなんて何一つない。絵だって描けない。この先もきっと何もない」 「こんなことならいっそー」 「いっそのこと死んでみるか?」 夏菜子の担任教師である、都倉孝洋は無表情のまま言った。 「良い死に方を教えてやろうか」 2人しかいない放課後の教室。 時計の針の動く音が、かえって静寂を強調する。 夏菜子は目を伏せた。 ーーーーーーーーーーーーーーー 高校から車を走らせて40分。 おもむろに

親の心、子知らず。

線香の煙が目の前を淀んでいる。 1ヶ月前、母が逝った。 彼女の人生は、彼女にとって満足のいくものだったのか。彼女は幸せだったのか。彼女の人生は何だったのか。大きなお世話かもしれないが、ぐるぐるとそんなことを考えていた。 ーーーーー 一人っ子の僕はお母さん子だった。お母さん子といえば聞こえがいいかもしれないが、いわゆるマザコンだったと思う。親父は仕事でいつも帰りが遅かったから、ずっと二人の生活だった。 親父はたまに早く帰ってきても家のことをしようとしなかった。おまけに小

アフターライフ

「お前の人生で一番楽しかった12月24日に戻してやろう。」 赤い服に白いひげを蓄えた男は俺に向かってそう言った。誰だこいつは。 「わしはサンタクロースだ。知らないわけないよな?」 「今年はプレゼントの調達が間に合わなくてな。代わりに楽しかった思い出をプレゼントすることにした。お前の人生で一番戻りたい12月24日に戻してやる。」 こいつがサンタ?なんちゅう高圧的な、、 それにタイムスリップだと? 「おい、何とか言ったらどうなんだ?」 「頭が追いつかないんだよ。サンタク

透明人間

自分の輪郭が世界に溶け出していく。 初めてそう思ったのはもう10年以上も前のことだ。今ではすっかり自分の姿は透明になってしまって、他人からは見えなくなってしまった。自分ですら、何年も自分の姿を見ていない。駅のトイレの大きな鏡にも、雨上がりの水溜りにも、自分の姿を見ることはない。 原因は分かっている。 中学校のころだ。クラスメイトには幼いころから仲のいい友人がたくさんいた。でもいつからか、僕らの価値観はいくつにも分岐した。目には見えない「あの人たち」がいくつかできて、力関係