見出し画像

孤独を抱いて飛べ。

2xxx年。
ベーシックインカムが世界中で導入され、人間は金銭のための労働から解放された。

何をせずとも生きていける世の中で、一部の人間は、自分の生きる意味を問い直し、行動した。
起業、慈善活動、創作活動、、、血の通ったそれらの活動は、AIに慣れきった人々を惹きつけ、生活を豊かにした。
そのような社会の流れに合わせるように、公教育も変化した。いわゆる”自分のやりたいこと”を見つけるためのメソッドが授業に導入された。そのため、早くから将来の目標を見つける者が大多数を占めた。


そのような社会に生きながら、”やりたいこと”を見つけられない者たちも少数存在した。
康介もその一人だった。

康介が生きる時代において、”やりたいことがない”は、罪に等しかった。
両親には問い詰められ、周りからは蔑まれた。
なにより、やりたいことがない自分が許せなくてたまらなかった。
康介には居場所がなかった。

いつしか彼は嘘をつくようになった。
”将来は画家になりたい”と言うようになった。
仲のいい友人が画家志望だったため、なんとなくそうした。

それからは、周りにとやかく言われることもなくなった。
しかし、康介のもやもやは消えなかった。


ある日、その友人からメールが届いた。
画家志望の集まりに行かないか、というものだった。

はじめは断ろうと思ったが、あまりにも熱心に誘ってくるため、半ば気圧されて集まりに参加することにした。


夕暮れの小さな洋館には、すでに十数人の若者が集まっていた。

康介はその中の数人と話をした。
その誰もが目を輝かせながら、自分の描きたい絵を熱心に語っていた。

それを聞くたびに、康介は苦しくなった。

なぜ自分は興味のない話を延々と聞いているのか。
なぜ自分はここにいるのか。
なぜ自分は生きているのか。


次の瞬間、康介は洋館を飛び出していた。
呼び止める友人の声は、彼には届かなかった。

暗闇をどれだけ走ったかわからない。
彼は自宅マンションの屋上にいた。


康介は、自分を偽ることに疲れ切っていた。
”やりたいこと”がない自分への絶望感すら枯れ果ててしまっていた。

何かに目を輝かせている人を見ると、妬ましさで気が狂いそうだった。そんな醜い自分と向き合うことが苦しくてたまらなかった。
なぜ生きているのか、それを考えるたびに、底の知れないブラックホールに吸い込まれていきそうだった。


「ぼくには何もない」

そう呟いて、彼は暗闇を舞った。



2xxx年。
世界の自殺率は過去最高を記録した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?