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奇妙な感覚をなぎ払いに。

今回の話は遡ること半年前、4月に端を発する。

大阪に住む自分と、東京に住む相方。

世の中はまさに緊急事態宣言下で、窮屈な生活を強いられていたものの、遠距離という自分たちの世界線で特に大きな変化はなく、いつもと同じように仕事終わりのどちらかが先に「おつかれさま」とLINEを送り、時計の針が上を指す頃には、当たり前のように電話をしていて、それがたまにビデオ通話になる時もあった。こうして1年。それが自分たちの日常であり、自分たちにとって会いたくても会えないという当時の状況自体には、すでに体が慣れていた。相方の職場が休業、自分は在宅勤務となったこともあり、不謹慎だがむしろお互いのコミュニケーションのための時間を取りやすくなっていたことも事実だった。

とはいえ、世界の時間が一斉に凍りついたかのような、奇妙な感覚がきっとひとりひとりに植え付けられたに違いない。それは例外なく自分たちの中にもあって、植え付けられた感覚をなぎ払う薬が自分たちには必要だった。そしてそれはまごうことなく、非日常を味わうことであり今思えば、他でもなく、それは旅行でしか得ることのできない代物だったのだと身をもって分かる。

4月のある夜、究極的に自然な流れで、僕らは泊まりたいホテルを探していた。

相方は実家暮らしだったがゆえ、東京で落ち合う時にはいつも東京のホテルを予約していた。僕らはホテルのチョイスにほんの少しだけこだわりがあった。行先は日本の首都である。アパホテルや東横インなど、予約しようと思えば何も思案せず、すぐに予約できるホテルが数多くあるなか、ブッキングドットコムやアゴーラで互いが気になったホテルのリンクを、LINEに貼り付けては、「ここ天井がコンクリ!」、「ここはユニットバスだ・・・」など、1つ1つ吟味、批評していた。オリンピック誘致決定も相まって、近年できた新進気鋭のホテルは、クオリティと料金のバランスもよく、財布事情に一抹の不安を抱える20代の自分たちにとっては、思っても見ない恩恵となった。東京は比較的多くのホテルに泊まってきたため、これはまた別の機会にまとめて紹介したいと思っている。

そんななか、偶然相方が1つのリゾートホテルを見つけた。

「フォア・・・?何て読むのかなここ。ここよくない?」

送られたURLをタップした自分が目にしたのは箱根にあるリゾートホテルだった。

「フォーレって読むらしいよ。北欧調のリゾートホテルだって。 ここ絶対俺らが好きなホテルだな。」

「めちゃめちゃいいよね〜!」

「箱根か。今度行く?」

「え、いいの?行きたい。」

「温泉もあるし、最高やん。ここ行こうよ。涼しい時にでも。」

こうして、何気ない会話から端を発し、約半年後の10月に2名1室、薪ストーブの暖炉付きの部屋を、その夜のうちに予約した。

(夏の昼、東京は銀座にて)

うだる夏と不景気の波、仕事のストレスに鞭打たれながらも、僕らはなんとか初夏と真夏を越え、秋を迎え入れようとする10月、ついに箱根へ行くこととなった。

伝え忘れていたが、箱根での1泊2日の時間はたくさんの写真に閉じ込めた。フィルムカメラのNikonFE2とデジタル一眼であるNikon D610。その両方のファインダーでたくさんの世界を切り取った。それでも溢れ出るほどに気持ちが満たされた旅行だった。写真と言葉は似て非なるもの。とは言え、似てはいるのだから、言葉として残しておくのも悪くない。そう思って、今回の旅行について書くことを決めた。

つづく

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