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スマブラは持ってないやつのほうが上手い

 そいつは運動から勉強までひととおり何でも器用にこなす、たまに鼻にかかる奴だった。私はというと運動はてんでダメで、特に球技は壊滅的、しかし走るのと泳ぐのだけは問題なかった。勉強は苦手ではなかったけど、中の上あたりをずっと徘徊していたと思う。
 そいつは明朗快活な奴で、いわゆるヤンキーとも仲が良く、対照的にオタク連中とも親和性の高い、水と油の両方を性質を持ったような奴だった。私はというと、ヤンキーに目をつけられてこそはいなかったが、どっちかというと萎縮していた。オタク連中とはうまくやれていたと思う。多分。

 そしてそいつはスマブラが異様に強かった。あの時代、中学生数人が集うと自然と始まるのがスマブラだ。みんなおのずとそいつの家に集まっては、毎日日が暮れるまでスマブラをやっていた。
 ある日気づいたのは、"そいつ自身はスマブラを持っていない"ということだった。当時はwiiの大乱闘スマッシュブラザーズXが中学生の必須コミュニケーションツールだった時代。ゲーム好きの奴や家がデカい奴はみんなWiiとディスクを持ってたし、マイコントローラーもみんな持ってたと思う。特にコントローラーを持っていないやつは、毎回肩身が狭くなりソファの端っこに追いやられていた。「オタクは学校来んなよ」のシチュ違いだ。

 そいつはどんなキャラを使っても器用に立ち回って、どんだけダメージが蓄積してもステージに復帰してくる。みんななんとか奮闘するも、結局最後はそいつとの一騎討ちになる。「アイテムなし終点」が私たちの合言葉だった。誤魔化せないほどに個々の力量が如実に出てしまう、経験とスキルがものをいう残酷なステージだった。
 なんでコイツはスマブラ持ってねぇのにこんなに強いんだ、って私はずっと思っていたが、別にその疑問を口に出したことはなかったし、それを解決する気もなかった。だからどうこうという話でもなかったし。そして日が暮れ始めてみんなが帰宅ムードになったらディスクの持ち主がWiiから取り出して持って帰る。なんの疑問もなかった。

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 すべての能力が平均以上な人間って、実際に接してみるとその能力差をまざまざと見せつけられる。なにせ基本的にはミスをしないからだ。平均点を超え続けるというのはこういうことだ。あの頃から私は、何事にも平均的な立ち回りができるよう努めるようになった。ずっとああいう奴に憧れてんだな多分。でもあいつも努力をしていたんだろう、見たことないけど。
 
 …そういえばそいつの家に泊まりに行ったときに、そいつのお母さんがカレーを出してくれたんだけど、あれ全然美味しくなかったな。今思い出したけど。

 

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