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誰もいない博物館の2階の映像展示で流れているBGM

 ときどき、ふと思い出す光景がある。
 市街地から少し離れたところ、住宅街が近くに迫って来ているような閑静な場所。そういうところにある、あまり人の気配のない博物館、あるいは謎の偉人の記念館。

 昼間だと言うのに薄暗い館内、受付口の小さなアクリルの向こうに生気のない人がいて、NPCのように来客対応をこなす。日付の捺印された入場券と、無駄に枚数の多いパンフレットを受け取る。

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 なんてことない、簡素な年表と、遺物らしきものがガラスケースの中に安置されている。人っ子一人いない館内、聞いたことの無いBGMがエンドレスで流れているだけの、不思議で心地よい遠い異国のような空間。

 ひとつ呼吸を終える前にすべての展示を見終えてしまう。そのとき2階にも展示があることに気がつく。町を歩いていると寂れたスナックから聞こえてくる誰かの歌声のような、2階から微かに漏れてくる別のBGMの存在に、私は小躍りした。

 大きくも小さくもないモニターが、1階よりさらに薄暗い部屋に置いてある。その前には異様に低い腰掛けが2個程置いてある。
 そのモニターには、よくわからない人形劇のような不鮮明な映像が淡々と映っていて、それはさらに移り変わる。幼い頃のトラウマのようなBGMに私は暫し釘付けにさせられた。私の心の脆くて切ない部分を、グッと握られたようで、私は感情も抵抗もないまま、そこに立っているしかなかった。

 誰でも多分、そういうノスタルジー、あると思う。

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