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【考察】新訳 大阪LOVER

 大阪府民の府歌(ふか)こと、DREAMS COME TRUEの「大阪LOVER」。大阪と東京という離れた土地で遠距離恋愛をする1組のカップルの逢瀬を歌った、恋しくも憎らしい名曲である。いわずと知れたこの名曲をいまさら解説することもないと思うのだが、私にはどうも、この曲の歌詞がところどころ引っかかるのだ。
 インターネットで大阪LOVERの解説、考察をしているサイトや記事を見てみると、だいたいは曲内に登場するカップルの恋愛模様や心理描写にスポットを当てているようだ。だって恋愛ソングだから。わかっている。んなもん歌詞を見てりゃだいたいわかる。
 私が興味を持ったのはそこではなく、東京と大阪、この2つの土地柄や地理的な部分。とりあえず、さっそくやってみよう。

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新大阪行きの最終便

のぞみ号

 「最終に間に合ったよ 0時ちょい前にそっちに着くよ」
 という印象的なフレーズからこの曲は始まる。新大阪駅、最終、0時、という単語から考察するに、おそらく主人公の女性は東京方面から新幹線で向かってきているのだろうと想像ができる。この曲が発表された2007年時点での東京駅からの新幹線の最終電車は21時20分発、新大阪着は23時45分である。ここで0時"ちょい"前と言っているが、私の感覚からするとこれは"ちょい"ではない、結構前だ。
 ちなみに、2022年12月時点での東京発の新大阪行き最終の新幹線は21時24分発で、到着は変わらず23時45分。この15年で実に4分もの短縮に成功しているのだ。あっぱれ、技術革新。

 東京(または品川)を21時台に出発した新幹線の車内で、大阪で待つ恋人にハッピーメールを送ったのだろう。ここで「メール短すぎたかな」とある。正確な文面はわからないが、冒頭の「最終に〜着くよ」を仮に文面だとするのなら、これ結構長くないか?
 わざわざ「最終に間に合ったよ」と書いているあたりマメである。私なら、「今乗った。23:45着」と送る。新幹線の到着時刻さえ伝えれば、それが最終電車であることは大阪府民なら容易にわかる。
 この女の子は普段からマメなメールを送っているのだろう。さらに「私もそっけないけど」とあるので、いつも送っているメールはもっとキラキラしているのかもしれない。この日に限って、そっけなくて短い文面を送ったのは何故なのだろうか。

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男は新大阪駅まで"何"で迎えに来た?

 場面は変わって最終電車が到着した新大阪駅。彼女は待っている彼氏に会いに行く。
 ここで議論すべきなのは、彼氏は"どうやって"彼女を迎えに来たか、だ。

 🔺パターン1:徒歩

 「迎え」の王道パターンである。新幹線口の改札を抜けた先で彼氏が柱の陰で待っている。俗に言う牧瀬里穂スタイルである。
 ここで「いつも履いてるスウェット」とある。ひと目でスウェットとわかったと仮定したらば、全身が一度に見える徒歩待ちパターンが有力だ。ガラガラとスーツケースを引っ張って改札を抜けてくる女の子と、普段着で待ち構える男。新大阪駅で腐るほど見る光景だ。
 

 🔺パターン2:車

 これまた「迎え」の王道パターン。ていうかお迎えってこの2パターンしかない。
 どちらかというとこちらのほうが有力である。根拠としては、この曲の2番のAメロに「御堂筋はこんな日も1車線しか動かない」という歌詞があるからだ。新大阪駅前にはタクシーなどが停車する2層のロータリーもあり、駅の東口などは車通りも少ないのでお迎えの車も停まっている。新御堂筋が駅の西側を通過しており、南北に交通の便はよい。車で迎えに来ること自体はなんら不自然でもない。

 と、ここで「御堂筋(みどうすじ)」をよく知らない人のために説明する。

JR大阪駅前から難波までを南北に縦断している
冬の御堂筋はライトアップされて非常に目に悪い

 上の写真が御堂筋だ。写真を見るとわかる通り、御堂筋とは、JR大阪駅と難波を南北に繋ぐ地上道路のことを言う。ちなみに、JR大阪駅以北は「新御堂(しんみどう)」と呼ばれ、夜間帯には速度無制限のアウトバーンと化すことでも有名だ。つまり、新大阪駅の西側を通過しているのは御堂筋ではなく新御堂ということになる。
 余談だが、大阪府民の中で「御堂筋」というと、「大阪メトロの御堂筋線」と上記の「車道としての御堂筋」の2つを指すことが多い。呼称は同じなので戸惑うが、だいたいは会話の文脈でどちらを指しているかわかる。これは大阪府民にのみ与えられたアビリティである。


 閑話休題。
 男は果たしてどの手段で新大阪駅に迎えに来たのかということだが、とりあえず仮決定します。『パターン:2 車です。』
 車で迎えに来たと主張する根拠としては、この曲の2番Aメロの歌詞が心強い。「通い慣れた道がいつもより長く感じるこの空気 御堂筋はこんな日も1車線しか動かない」という点。1車線しか動かない、と言っているのでまぁ車でほぼ間違いないだろう。

御堂筋。8車線もある上に一方通行という無茶苦茶ぶり。



 ん?ちょ待てよ、二人が落ち合ったのは0時ちょい前だよな?そこから車で難波方面へ南下して行っていると思われるのだが、いくら大阪の中心をぶち抜く幹線道路といえど0時以降も1車線しか動かないほど混雑するものなのだろうか。彼女が新幹線に乗ってやってきたのはおそらく金曜日の晩だろう。いわゆる金晩、大阪の中心地は酔っ払いを拾うためのタクシーやら何やらで混雑することは言うまでもない。が、本当にそこまでなのか?
 結論から言うと、深夜帯で1車線しか動かないというのは、区間にもよるがあり得なくもないそうだ。気になって調べたのだが、大阪LOVERのWikipediaに同じような記述があったので、そちらも参照されたい。

 かなり確率は低いが、タクシーで家に向かっている可能性も否定はできない。つまり新大阪駅でタクシーを拾って御堂筋を南下している説。ありえなくはないが、そうなると彼氏はスウェット姿で電車か何かで新大阪駅に来たことになるので、可能性としては低い。てか、あってほしくない。南大阪のカスカップルならあり得るが。


どこに行くの こんな夜の中

 さて、1番のAメロに時を戻そう。これだけ話してるのにまだ1番のAメロから進んでいないぞ。
 「今日も家へ直行か」という歌詞がある。ここが実はかなりミソだ。
 まず第一に、0時ちょい前に落ち合ったというのに、これからどこに行こうとしてるんだという話だ。普通は家行くだろう、こんな時間なんだから。一人暮らしやったらホテル行く必要ないし。
 このあとの歌詞に「明日さ たまにはいいじゃん」とあるので、今行きたいところと明日に行きたいところは別にあるのだろう。明日行きたいところ、これはおそらく万博公園の太陽の塔のことだと思われる。

 では彼女は、家に行く前にどこに行きたかったのか。彼女は「いつも履いてるスウェット」を見て「今日も家へ直行か」と察している。ということは、彼氏側もオシャレ着か何かを着て行くようなところだと推測できる。
 しかし、いくら大阪といえど、こんな時間から開いている場所なんてないし、ましてやデートする場所なんてない。当の万博公園は通常夕方ごろには閉園するし、秋ごろのライトアップ期間だとしても21時までの開催なので、これも可能性としては低い。太陽の塔はというと、2022年時点で23時ごろまではライトアップはされているようだが、0時ちょい前には消えている。万博公園の横を通る大阪中央環状線に乗り込んでも、太陽の塔が見えるのは一瞬だし。

ビーム出してきそう


 ていうかまず、大阪の中心で車移動って、デートにはかなり不向きだ。交通量は多いし駐車場はない。あったとしてもクソ高い。それこそ御堂筋(ここでは地下鉄の意)を使ったほうが、天王寺にも梅田にもアクセスが良く圧倒的に便利だ。まあそもそも0時ちょい前には地下鉄も終電なのだが。
 久しぶりに大阪に来た彼女、もう時間は遅いけれど、このまま家に直行して一発やってハイおやすみは確かに味気ない。どうせ明日は休みなんだし、ちょっと深夜のドライブでもしようよという気持ちだったのかもしれない。深夜ドライブであれば車から出ないのでスウェット姿でもかまわない気がするが(男は多分みんなそう思ってる)、ここは彼女側の繊細な女心を表現した歌詞なのだろう、ということにする。


 最後に。「今日も家へ直行か」の「も」の部分。「も」がレギュラー化しているということは、イレギュラーがあったということ。おそらく、最初のうちは彼氏側も楽しませようとオシャレ着を着て深夜ドライブやら何やらしてあげていたのだろう。ただ、新大阪起点で深夜ドライブなんて、南北にしか移動は難しい。北に行っても箕面の山しかないし、南に行っても混雑してるだけ。東西に移動しようにも京都は遠いし、兵庫も神戸あたりまで行かないとめぼしい夜景スポットはない。上記のことから、何回かやっているうちにめんどくさくなったのだと推測できる。ていうか早く寝たいから、普通に。

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2人の人物像

 最後に、この曲に出てくるカップルの人物像としてはどのようなものなのか。

 ここでは二人とも社会人であると仮定して進めていこう。

 まず、彼氏は車を持っている。そして一人暮らしをしている。ここまでは歌詞からも推測できる。そして、居住地はおそらくJR大阪駅以南。社会人何年目までかはわからないが、お金にはそれほど困っていないと見える。彼氏は関西弁を使っているので、実家もおそらく関西圏だろう。ということは、関西で生まれて関西で就職し、大阪で一人暮らしをしているということになる。 
 次に彼女、彼女はおそらく関東の人間だろう。関西弁に憧れを持っているようであるし、いいじゃん!などのセリフはいかにも関東っぽいし。


 そうなると、二人はどこで知り合ったのかということになる。考えられるのは大学しかないが、この場合、どちらかが関西or関東に行ったことになる。

①彼女が関西の大学に進学後、Uターンして地元就職
②彼氏が関東の大学へ進学後、Uターンして地元就職

 この2パターン。これに関しては正直わからない。①については、彼女が関西の大学に4年いたにしては全然関西弁が身についていないし、4年いたのにまだ太陽の塔を見たがっているので、可能性は低い。太陽の塔は一度見れば向こう10年は見なくてもいいものなので。
 どちらかというと②のほうが可能性としては高いかもしれない。彼氏が関東にいたという確実な描写はないのだが、消去法でこうなる。
 ②の論拠を強めるとするならば、大阪LOVERのアンサーソングである「あなたと同じ空の下」という曲の歌詞を見るとなんとなくわかる。この曲のサビには「地下鉄や電車もサッと乗れるし」や「急なお義母さん来襲」という、彼女目線のものらしき歌詞がある。
 大阪の地下鉄網はシンプルに見えて意外とややこしい。もちろん東京には及ばないが、梅田の地下世界のスケールは長年大阪にいても慣れない。JRもそれに複雑に絡み合い、さらに阪急電車や阪神電車などもあるので、柔軟に乗りこなすには感覚をつかむまでは難しい。「サッと乗れる」とあるので、東京の人だから路線網に慣れている、または初めは慣れなかったけどすぐに慣れた、と仮定できる。
 また、急なお義母さん来襲というのも、彼氏の実家が関西にあるから(すぐに来られる)と考えられる。

OsakaMetro 公式サイトより

まとめ

さて、こんなところだろうか。大阪府民として、名曲に茶々を入れられるだけ入れてみた。いや、改めて曲を聴くと本当にいい曲ですね。女の子のいじらしさというか、それが上手に描かれていると思います。「やっぱ好きやねん」「大阪ロマネスク」に並ぶ、三大大阪曲として、私はこの曲を語り継いでいきたい。

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