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ピアノ技術に関すること

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技術といっても専門的なことじゃなく、いつもの仕事での出来事や思った事柄をだらだらと
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アドバイスを乞う

アドバイスを乞う

今までしたことのない修理をした。
40年近くピアノ技術者をしていて、一度も出会わなかった不具合に遭遇したわけ。
話には聞いたことがあるのでおおよその修理手順は分かるのだが、失敗したくないので技術者仲間数名にアドバイスを乞うた。
修理方法やコツなどは自分の貴重な経験の積み重ねで習得しているので、おいそれと簡単には教えたくないはずだけれど、皆、速攻で親切に色々とアドバイスをしてくれた。
いい奴ばかりさ

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たまつくり

たまつくり

そんなに手先が器用なわけではないのです。 手を使う職業に就いているのに不器用なのは苦労するのです。 人並みにできるようになるまで同じことを何度も繰り返すので、なんとかやってますけれどね。 努力とか、根性とかそんなカッコええもんと違います。

ピアノの弦を貼る方法の一つとして、部分的に(あるいはメーカーによっては全部)弦の一端に「輪っか」を作り、それを鉄フレームに打ち込んであるヒッチピンに引っ掛け、

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とばっちり

とばっちり

10才のお嬢ちゃんがピアノを習っている。
ピアノの先生のところでは上手に弾ける天才少女なのに、
自宅ではどうもうまく弾けない
 だってうちのピアノ鍵盤がちょう重いんだもん!

君はやる気がない、センスがないなどと親はため息混じりの嫌味を呟く。
そんなネガティブな雑音に耐えながらも練習を続けている。
 だってピアノ好きなんだもん。

この楽器の場合、鍵盤が重いのは音を止めるダンパーという部品の不具合

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手に伝わってくるもの

手に伝わってくるもの

ネジの溝にドライバーがしっくりとはまると 金属同士が触れ合う柔らかい音が聞こえる。
ドライバーを握る力をクッと強めると、木の部品は乾いた声で「締まりました」と合図する。
この瞬間が僕は好きだ。
特に古い良いピアノのそれは、手に伝わる感触と枯れた木の音がたまらない。
ピアノのアクション「打鍵機構」には400本くらいのネジがついているだろうか。
でもこの緩くなったネジを締めなおす「増し締め」はものの数

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四半世紀のお付き合い

四半世紀のお付き合い

りんごの花が風に揺れる頃、年に2度のピアノ調律、春の部に赴く。
かれこれ25年続いているので、50回以上この邸宅に通っていることになる。
長いお付き合いもここまでくると歴史だ。

 ピアノの持ち主の現役時代は大学病院の外科医だった。
今年85歳になられた。
趣味のピアノ演奏はどうも最近気力がなくなりつつあるとか。
それでも定期調律は欠かさない。

毎回、調律作業が終わると次回の訪問日を決める。

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