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たまつくり

そんなに手先が器用なわけではないのです。 手を使う職業に就いているのに不器用なのは苦労するのです。 人並みにできるようになるまで同じことを何度も繰り返すので、なんとかやってますけれどね。 努力とか、根性とかそんなカッコええもんと違います。

ピアノの弦を貼る方法の一つとして、部分的に(あるいはメーカーによっては全部)弦の一端に「輪っか」を作り、それを鉄フレームに打ち込んであるヒッチピンに引っ掛け、ピアノに張る方法があります。
その「輪っか」を作ることを「たまつくり」と呼びます。(大阪環状線の玉造とちゃうよ)  ピアノ技術者の登竜門的な作業で、ピアノの弦を自由に曲げ操るにはちょっとしたコツが必要です。

東京でピアノ修理の修行をしていた頃の話です。
尊敬する師匠から「たまつくり」の手ほどきを受けるのですが、なかなか彼のように手先が動かないんです。なんせ不器用なもんで…
すると突然、隣にいた先輩職人がすごい剣幕で僕を貶し始めました。
下手くそ、お前はダメだ、辞めちまえ、そのうち人格否定まで…        
今で言う、いぢめ、パワハラの類に属するのかな? 反骨精神を養うべき叩き上げの職人の荒っぽい、そしてアイスピックのように刺々しく冷たい言葉でした。
じっと耐えてというか、かなり落ち込みながら、皆が退出したのち一人工房に残って綺麗な「たま」ができるまで練習しました。


今、こうしてピアノ技術の仕事を続けているのは、決して彼の発した冷たい言葉を自分なりにポジティブに解釈して次のステップにしたからではないよ!
明朝、ゴミ箱いっぱいになった「輪っか」の出来損ないを見て
無言で頷いていた師匠の顔が僕を救ってくれたんですよ。  ーまー

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