広告振り返り~2021年の第三期クソ広告ブームとは何だったのか~
2022年末、2021年広告のあらすじを書いた時はそれほど気にもしていなかったのだが、2021年以前のYoutube、Twitter広告の環境は思いのほか解像度が低かったように思う。
実際の話『魔剣伝説』『おねがい社長』『エバーテイル』の3タイトルが面白く、正直その3タイトルさえ把握しておけば何とでもなるくらいには群を抜いていたので、別にそれ以上書かなくてもいいか、という気になっていたのである。年末で時間も無かったし。
ただよくよく振り返ってみると2021年、そして2020年以前の情報もちゃんと補完する価値があるなあと思ったので、改めてまとめてみる次第です。
2022年編は以下をご覧ください。
・2020年以前の広告環境~第二期クソ広告ブームと、第一期ブームの定義~
第ニ期クソ広告ブームと分別出来るのは、2018年頃に荒野行動、マフィアシティ、Voodooなどの広告が放映されていた時期だと自分は考えている。
放置少女のバナー広告が目立ち始めたのも、だいたい2018年くらいだった印象。当時は「今オ●ニーできないなら絶対にプレイしないでください」系列のバナーと同種の扱いを受けていたような気がします。
しばしば初期広告で話題になるフィッシュダムやガーデンスケイプのカジュアルゲームはゲーム内の広告で鬱陶しがられていた時期なので、ガーデンスケイプ勢が第一期と言えるだろう。
第一期~第二期当時のクソ広告の定義とは本編のYoutube動画視聴前、無料ゲームプレイ前に見たくも無い映像を見せられるという所が大きく、内容の悪どさというよりは単に快適なコンテンツ視聴を阻害する存在としての認識が強かった。
ただし第二期勢に関しては、マフィアシティが海外で暴力的な描写があるという面で問題になった経緯(※1)があるし、荒野行動もギャグマンガ日和の映像を無断使用した(広告本編削除済み)前科がある。何かしらの問題ある表現を使ってでも話題を取ろうとしたのが第二期の特徴としても良いのではないだろうか。
とはいえ広告三英傑が築き上げた第三期クソ広告ブームと比較すると、内容の巧拙や善悪よりも広告という存在自体が嫌われていた方が理由としては強いと感じている。未だにその風潮で必要以上に嫌われてしまう広告も存在するが、第三期以降はうんざりするほど過剰な表現や、シンプルに拙い出来の広告も増加してきた。正直な話、物好き以外は嫌っても仕方が無い。
・第三期クソ広告ブームの定義
2021年以前の広告の特徴として、日本大手企業の広告以上に海外ゲーム広告のはっちゃけぶりが凄かったというのは間違いない特徴として挙げられる。そして2022年後半以降徐々にくだらない広告が減っている原因は、ネット広告の可能性に大手企業から中小企業まで改めて気付き始めたのが原因ではないだろうか。
2021年がネット広告が新聞、雑誌、ラジオ、テレビの「マスコミ4媒体」の広告費を上回ったというデータを電通が出していたのだが、実際マスコミをメインに出していたような真っ当なCM群が本格的に増加し始めたのは2022年中旬以降であったような印象がある。
現に2022年5月まではスーパーウィザードが淫夢を広告に使ったり、ハンターズソウルがモンハンをモロパクリするなどという2021年の生き残りのような邪悪な広告が多数登場していたのだが、2022年8月以降から露骨に健全な日本企業の広告が増え始めた。これは2022年広告振り返りの通りである。
第三期クソ広告ブームを定義するとしたら、2020年4月の魔剣伝説が伊藤英明コラボ広告を出したタイミングから、2022年5月の最強でんでん秋葉原ジャックまでが限度だろう。それ以降はクソ広告と一般の広告が混合する新しい広告時代に入っていると考えた方が良いように思う。
ちなみに2020年時代に関しては個人的に資料をまとめ始める前なのでやや情報が足りていないのだが、概ね魔剣伝説とおねがい社長、荒野行動を主軸にたまにアイアム皇帝や日替わり内室が出てきていたような記憶がある。
余裕があれば2020年の広告環境をまとめても良いが、ちょっと古過ぎるので今回は省かせてください。気になる方は巻末付録のゲームごとのリリース日簡易表も参考にしてくれよな!
・2021年以前のTiktokはどのような存在だったのか?
自分の観測範囲がTwitterメインだったので2020年以前の広告環境でもTiktokが話題になったタイミングがいつかはかなり曖昧である。世間の動きだけ言うならば2018年の流行語大賞でTiktokが取り上げられたタイミング、そして2021年に「Tiktok売れ」が、日経トレンディの「2021年ヒット商品ベスト30」の1位に選ばれたタイミングで完全におじさん以降にも強さが知れ渡った印象がある。
逆に言えばそこからTwitter広告の注目度というのも同じくweb広告の中で注目を集め始めたような印象があるので、2021年のTiktok売れブームは「Tiktokでバズると売れる」「マスコミよりweb」という風潮を偉いおじさんに教える一つのきっかけになったと言えるだろう。
もちろんそれ以前から徐々にWeb広告の割合は増えていたのだから2022年からいきなり需要が爆増というワケは無いが、2023年の広告におけるテンプレ流し込み広告の増加や、広告ルール自体が未整備である事を良い事に複数アカウントでの投稿が目立ち始めるなど、明らかに大手広告代理店ではやらないようなテクニックが増加し始めている点からも注目度は上がっていると言って良いのではないか。
・2021年広告ダイジェスト
・2021年1月
2023年になっても元気なタイトル、パズル&サバイバルが初登場。
この頃は魔剣伝説がイースⅧと、おねがい社長がセクシー女優の深田えいみとコラボ。ほぼ魔剣伝説とおねがい社長の二強と言える状態が印象深いが、青藍の誓いブルーオースがライザのアトリエとコラボしたり、アストラ・テイルがうしおととらとコラボしたりと、他の広告も充分なネームバリューがある所とコラボしていた。
また、異境伝説はFFⅫのフランをモロパクリした広告をリリース。即座に著作権者による削除が行われてしまい、パクリが行われたという記録しか残っていません。
・2021年2月
第二期広告で話題になったアイアム皇帝の勢いがあった。しかし魔剣伝説も高橋克典コラボを行っており、伊藤英明以外の役者まで魔剣伝説堕ちさせていくのかと界隈がざわついた覚えがあります。
それ以外には屈指の真面目系広告であるシャイニングニキの登場、また現代においてもオタクを沸かせ続けるウマ娘、ブルーアーカイブの初出もこの頃です。2021年のゲーム広告界隈は、ウマ娘という超ビッグタイトルの光が影を落としたような広告も多かったですね。
またミュウツーの逆襲の映像を広告にそのまま流用したPokeRaidも今にして思うとかなりひどいし、現代ではショート動画で見る機会の多いカードローン系広告が初確認されたのもこの時。
・2021年3月
広告三英傑の一人、エバーテイルがホラー系ポケモンパクリ広告という爆弾を引っ提げて登場した記念すべき月。
2023年現在で見ると画期的だった広告としては、美女と栄光がある。NIKKEが登場する1年前から女性の尻を集中的に描写する広告をリリースしており、広告におけるケツ推しのはしりだったと言えるだろう。
またアリスギアアイギスがリリースしていた実際にゲーム内で遊べるミニゲームを紹介する広告は2022年の超次元彼女などがリリースした実際に本編で遊べるミニゲーム広告のはしり。EVONYも似たような施策をピン抜き広告でやっていたが「実際に遊べるミニゲームなんだ」という所を強く推したのは多分アリスギアアイギスが最初じゃないかなあ。ここは不明瞭な点なので、いつから実際にピン抜きゲームを遊べるようになったのか、EVONY有識者からの情報をお待ちしております。
さらに言えば、この時期になかやまきんに君の出演していたダイショー焼肉のたれの広告も大きな話題になっていた。2022年以降のなかやまきんに君ブームが始まったきっかけともいえるタイミングは2021年3月に訪れていたのだ。
露骨にウマ娘を敵視して炎上狙いの広告を出したソネット・オブ・ウィザードやウマ娘の下品なパクリじみた広告を出していたアイドルエンジェルスなど、ウマ娘の影響が色濃かった月でもある。とにかく2021年3月は見た目以上に濃厚な月だったと言えよう。
・2021年3月に初登場した広告
・2021年4月
魔剣伝説が一番ノリに乗っていた時期を挙げろ、と言われたら2021年4月を挙げるべきだろう。あのHIKAKINに案件動画を頼み、盾の勇者の成り上がりとコラボを行い、暴炎神龍セットというブランドを確立した。
FUSHO -浮生-は同じく「クソ広告」のようなビジュアルながら自ら「毎日ゲームクソ広告ばっかりなの、もう!いい加減しろ!」というキャッチコピーで、クソ広告を批判した。これも後の2022年に「また騙された!」広告として昇華された広告。
エバーテイルも毎週火曜日に広告をリリースする週刊連載ペースで新規広告を出していたので当時はエバーテイルの広告ファンがガンガン増えていたし、おねがい社長も『社長!ご決断を!』という露骨なパクリゲームが登場。広告三英傑の支配が強まっていた時期だと言えます。
・2021年5月
おねがい社長が魔剣伝説、マフィアシティ、ドット絵アレンジ、さらに三上悠亜コラボとド派手な広告戦線を築いてきたのが2021年5月の特徴。しかしそれに対する魔剣伝説もラップ広告をリリースしたし、エバーテイルもホラー広告がヒートアップ。この頃の広告は毎日面白い広告が出てくるような感じで本当に楽しかったなあ、と懐古厨になってしまうレベルの物量だ。
2023年になって勢いを増している三国志真戦が登場したのもこの頃。当時は長谷川博己とのコラボ広告で話題を獲得していたが、よくもここからゲーム内容を紹介する広告に方向転換したものである。
パクリ広告で突き抜けて話題になったのはAge of Zのウマ娘パクリ広告。露骨にサイレンススズカみたいな人間が走ってゾンビを轢き飛ばしていく、というどうしようも無い内容でオタクの話題と怒りをかっさらった。人によってはこのAge of Zのウマ娘パクリ広告が2021年で最もクソだと言う論もありますね。
またYoutubeのニュースとして、2021年6月1日収益化していない動画でも広告が出る事が発表される。確かにこの辺から広告とのエンカウント率が超増加した印象。それ以外にはいいねすると返事が来るAppleの広告も目新しかった。
・2021年6月
アイアム皇帝が「実際に金儲けができるゲーム」という形で、金策広告を始めたのが意外とデカい。この影響でエバーテイルが超懸賞祭という金策を前面に押し出した広告をやり始めたはずだし、2023年以降の妙に商品が豪華な事前登録キャンペーンにも深い影を落としていると思います。でもこの辺が問題視されるならシャドウバースのルームマッチで100万円広告もアウト臭いじゃんね。
魔剣伝説が大量の広告をリリースしながらフォーセイクンワールド神魔転生という新作ゲームを出していたのも印象深いが、おねがい社長は安田大サーカスのクロちゃんとコラボ。この2タイトルの広告が異常に多いが、エバーテイルも引き続き2000いいねを稼ぎ出した傑作ホラー広告をリリースしているし、もう第三期広告ブームの黄金期と形容してよいでしょう。
有名タイトルのクソ広告という意味では、この時期にやっていたハースストーンの広告もしばしば掘り返されますね。「ハースストーンのPvP面白過ぎて草」ってお前。
・2021年7月
極夜大陸が半周年と共に、佐藤三兄弟というTiktokのインフルエンサーとコラボ。当時はそれほど気にしていなかったが、今にして思うと極夜大陸は早い時点でTiktok広告に目をつけていたのだと思う。
魔剣伝説は倉科カナとコラボ、剣魂は1周年で山本千尋とコラボで、4399の勢いがとどまる所を知らない。エバーテイルはホラー広告からの脱却を図りはじめ、おねがい社長は相変わらずコント調の広告をやり続けた。
副業マスター山下みたいなうさんくさい広告が出てきたのもこの時期。後にYoutube広告を覆う副業、投資広告の萌芽です。
あと今にして思うとガンダムブレイカーモバイルの最大2000連ガチャってダークテイルズの無料1000連ガチャよりずっと早い段階でそういうガチャバトルをやっていたんですね。多分この時は三国ドライブの無料3594連ガチャよりは少ないしどうでも良いや、と思っていたんでしょう。
・2021年8月
島合体広告の雄、トップウォーがトランスフォーマーとコラボ。この頃から表現への凝り方は群を抜いていると思います。またYoutubeを主軸に活動するゾンビ系広告、State of Survivalが藤原竜也コラボをしながら初参戦。2023年でも見かける顔です。
また光の広告界隈に衝撃を与えた事件として、グラブルの誤字広告が挙げられる。「1000万もえらるグラブル」という形で変な映像を流す手法は明らかに海外広告の誤字を突っ込ませる手法であり、それを日本企業がやるのか、というのは中々に衝撃的だった。
Gravityの広告もこの時期から目立ち始め、2023年現在では若者が好むSNSとしての立ち位置を確立しています。
・2021年9月
剣魂の七つの大罪公式コラボ広告は広告を見るYAKISOBAが認める本物のクソ広告です。もしその辺のヤツが「アレってクソ広告だよな~w」と適当な事を言っていたらこいつを突き付けてやってください。著作権違反にならない範囲を狙った著作権侵害、単純に低クオリティな紙芝居、コラボ先を茶番に採用してしまう胆力。全てにおいてクソのMAXクオリティを見せつけてくれます。
しかも9月は天姫契約、魔剣伝説と4399勢の躍進がすさまじかった。それに対抗するようにエバーテイルも懸賞祭の広告を開始し、おねがい社長もシンプルな物量で対抗。やっぱこの時期のTwitter広告は輝いてたって……
それ以外にもすさまじい密度の広告ラッシュが続き、正直くたびれてしょうがなかった月だった記憶があります。でもTwitter広告全盛期はこれくらいたくさんの広告があったんだから、やっぱりイーロンマスク就任から広告主が離脱したってのは事実な気がするなあ。
・2021年10月
イカゲームのパロディをした魔剣伝説、そして魔剣伝説をパロディし最大瞬間風速ではパロディを上回る完成度を見せてきた三国群英伝MとMU:アークエンジェル、ARKA-蒼穹の門-。困ったら魔剣伝説の真似をしとけみたいな風潮、当時はあったと思います。そんな魔剣伝説もウルトラマンとコラボし、当時は2030年まで勢いを保ち続けるんだろうなと思っていたもんです。それが生き残ってるのは同じく2021年10月に登場したアンツだもんな……
ちなみにイカゲームをパロディした広告はおねがい社長やクレイジーカクームも出しており、広告界隈に空前のイカゲームブームが訪れていた時期でもあります。イカゲームという作品自体もう皆忘れちゃったんじゃないか。あと社長はアークナイツから背景の一部をパクっていました。キャラじゃなくて背景素材というバレづらそうなラインを突く辺りがこずるいんだよなあ。
健全な広告としては真・女神転生Ⅴが凄かった。真・女神転生Ⅴニュースと称して、4ヶ月に渡ってTwitter広告で5分ずつ情報を公開し続けるという長期的な広告戦略を見事に完遂。これは他のゲーム広告も参考に出来ると思うんですけど、真似されていない辺りそうでもない施策だったのだろうか。
・2021年11月
ファミリーファームの冒険がバッドエンド広告を開拓したのが大きなポイント。バッドエンド広告だけでなく、寒い家の中でどうにか暖を取ろうとする広告は後におねがい社長やパズル&サバイバルもパクるようなテンプレになっていきます。
2021年7月からパタポンのパクリ広告を打ち続けたクレイジーカクームが、公式バッジを獲得しておきながら凍結処置を食らったのも要注目。現在はアカウントが復帰して再度広告も見られるようになっているが、著作権でダメな所をやりまくってアカウント凍結された希少な例です。普段は著作権違反の広告があっても問題のある所を消したらしれっと広告を再開しちゃうもんね。
11月のMVP、パニシング:グレイレイヴンはニーアコラボを行い、かつパニグレのパクリ広告も流行り、目新しいキャラ紹介広告を出していたのが高評価ポイント。それまでは割とニセ広告的な物をやっていたんだけども、ゲーム広告での真面目でイケてる枠に入れたのはちょうどこの頃じゃないかなあ。
あと冒頭の文章を見るに、この頃から飛ばせないGoogle Pixelの広告や、6秒で2連発する真っ当な広告が増えてきた事でモチベが死んでいたらしい。その前は飛ばせない15秒広告(内容に興味は無い)とか少なかったんだなあ……
・2021年12月
新顔は少ないが、魔剣伝説やおねがい社長、エバーテイルなどの三英傑が元気だったのがこの月の特徴。2022年以降、広告三英傑はなりを潜めていきます。
既存の広告で面白いのが色々あったなあ、という印象くらいで目新しい新顔は無かった。新規広告は全然出て来なかったし、2022年3月くらいまで新顔の少ない、静かな広告環境が続いていた印象です。
おねがい社長リスペクターである金銭遊戯と豪商列伝が同時に出てきたのはちょっとした運命を感じます。でも残ったのは結局社長だけなんだよね……
・2021年広告を彩った広告三英傑は何故最強だったのか?
ここまでの振り返りを見て頂ければ改めて分かるように、2021年は魔剣伝説、おねがい社長、エバーテイルの年だった。
他にも濃いタイトルは多数出ていたしMVPも他のタイトルに出した事もあったが、毎月20作以上の似たような広告をラッシュで見ていた身としては正直飽きて評価が低くなるレベルで魔剣伝説の200連ガチャをごり押しされたとか、似たホラー映像でも使い回しが目についてしまうとか、茶番でも似たオチだから工夫が欲しいとか、そういう高望みで評価が厳しくなるくらいには延々三英傑が出てきていたのが実情である。
そこでここからは三英傑がどのような戦略で広告をリリースしていて、かつどこが際立っていたのか改めて確認してみようではないか。
・魔剣伝説~物量とコラボと強靭なテンプレの暴力~
魔剣伝説の強みは、以下の三種の暴炎神龍セットが強すぎた事が挙げられる。
コラボ力に関しては未だに理由がよく分からないんだけども、上記2点に関しては明確に4399が他の広告を上回っていたと言えるポイントなので、是非覚えておきたい。こうして振り返ってみると、4399は有効な仕組み作りをいち早く行う事によって注目度の高い、効果的な広告をやり続けていたんだなあと思いますね。
・分かりやすい訴求ポイントと目を引く茶番要素のテンプレ化
魔剣伝説はなろう系の最弱から最強に逆転するストーリーをベースに、200連ガチャ、神龍島イベント、シリアルコードなどを告知していたのが第一の特徴。
そもそも明確に広告で茶番パートをやり始めたのは魔剣伝説なのだが、基本的な筋書きは全て敗者、弱者からの逆転である。そうした方がキャンペーンでの訴求内容を伝えやすく、目を引くという事がよく分かっていたのだろう。
そして無料200連ガチャというキャッチコピーも、当時では最高クラスのガチャ数であった事を忘れてはならない。それまでは2019年の年末にグランブルーファンタジーが毎日最高無料100連ガチャ(※2)を告知していたのだが、その翌年に無料200連ガチャという倍のガチャ数で勝負をかけてきたのだから興味を惹くには充分だと言えよう。
とにかくこの「無料200連ガチャ」というワードは2023年になっても4399に留まらずあらゆる広告が擦り続ける魔法、あるいは呪いの言葉になったのは間違いないし、それ以降も400連ガチャ、1000連ガチャ、3594連ガチャ、100億連ガチャとガチャのインフレを招いていった元凶である。
茶番広告のテンプレがしっかりしているメリットは、ラップ広告やガチャの関係ない茶番広告まで全部面白くなる事もある。
テンプレに沿った広告が大量にあるからこそ、テンプレから外れた広告が目新しく、面白く見える。テンプレなく単にボケ散らかしている広告が何を主張したいかも分からず、ボケも滑ってどうしようもなくなっている例を見るたびに魔剣伝説を見習ってくれ、と思う事請け合いです。
・広告の初動戦略の明確化
そもそも2021年の4399はそれまで稼働していた魔剣伝説、剣魂に加えて蒼空ファンタジー、三国志グローバル、フォーセイクンワールド:神魔転生をリリースしていたのだが、この3タイトルはいずれも「偽ゲーム」「有名声優インタビュー」「有名俳優コラボ」「カッコいい、面白そうなPV」の四本柱で広告をする、というテンプレが出来上がっていた。
三国志グローバルに関しては有名俳優コラボが出来なかったようだが、それでも有名声優、偽ゲーム、カッコいい、面白そうなPVの三点は抑えており、このテンプレを使う事で効率的、かつ幅広い層に訴求していこうという戦略を見ることが出来る。
結構他のタイトルだと初動で広告する事が無くてとりあえずガチャ数自慢をするとか、とりあえずキャラ紹介だけして地味に終わってしまうような初動が多いような印象があるのだが、そこで初動にやることをある程度決めておいて話題作りを狙っていくのは良い仕組化ではなかろうか。
現代だとここに「PS5等のRTキャンペーン」辺りを加えて五本柱での広告をやっている印象があるが、このテンプレは2021年でもMU:アークエンジェルが真似しているし、2023年の現在に至ってもダークテイルズやアース:リバイバルが真似しているのだから本当に効果がある初動戦略だと認知されていると思います。
・謎のコラボ力の高さ
そもそも魔剣伝説自体初動から伊藤英明とコラボしていたんだけども、それ以降も高橋克典、HIKAKIN、倉科カナとコラボしていて、アニメで言えば盾の勇者の成り上がりやULTRAMAN、ゲームではイースⅧとコラボしていた。コラボし過ぎである。
ちなみにこれは魔剣伝説だけのコラボ実績なので、他のタイトルにも広げれば千葉雄大や山本千尋などともコラボしている。このコラボ力ばかりはよく分かりません。やっぱりチャイナマネーなのか?
とにかくこのコラボ力が、先述の新作ゲームの初動戦略を強力にバックアップしていた事は間違いありません。
・おねがい社長~徹頭徹尾コメディを極めた鉄人~
おねがい社長の特徴はゲーム内容を紹介するという広告的機能よりもとんでもない茶番をやる事を優先したコメディ性である。
自分もおねがい社長はプレイ経験があるが隠し10連ガチャなんて無いし、豚に轢かれる金持ちババもプレイした2年前はいなかったはず。しかし金持ちババも、みーちゃんも、関西ボンゴレも、広告で延々と登場し続けたんですね。
基本的な流れは「貧乏人がいる⇒ガチャあるいは投資、イベントで逆転⇒それから没落あるいは全サーバー1位等の成功ルートに進出」という流れをひたすら繰り返していただけである。そしてそれは数多く登場したおねがい社長リスペクター、『金銭遊戯』や『豪商列伝』、『社長!ご決断を!』や『商人放浪記』などが登場しては、ほとんどのタイトルは社長のようにコメディ広告をやり続ける事が出来なかったのである。
果たして後続タイトルと社長の明暗を分けたのはどこなのか?
・新しい事はすぐ試すフットワークの軽さ
社長のすごい所は、自前でネタを作る以上に新しい流行にさっさと乗り続けるフットワークの軽さである。
当然ゲームを告知するのであればゲーム内の新しいイベントを告知するとか、魅力的な新キャラを紹介するとか、あるいはキャンペーンを告知するとか、色々ある。しかし、それを告知しない。面白そうな広告のネタをパクって面白く再加工する事だけをやる。
結局広告の役割とは、幅広い人に告示する、目を引くのが最大の攻略だとおねがい社長は真っ先に決めていたのだろう。ゲームの内容、グラフィック、システム、面白さ……それらをどんなに告知しようが、結局ダウンロードされなければ話が始まらないのだ。
そしてそれはプラットフォーム面でも同じである。Twitter広告が覇権と見ればTwitter広告を重点的に打つが、2022年にイーロンマスクに運営が変わって雲行きが怪しいと見るや否や主戦場をYoutube Short、Tiktokなどに移し、キャンペーンもTiktokで始める。
広告媒体の勝ち馬、新しく強いプラットフォームに乗り換え続けるフットワークの軽さが新しい顧客を摑み続けた理由である事は間違いない。その上3周年のタイミングで地上波CMまでやるんだから、今後地上波広告が上手く行くと踏んだらさらに地上波への進出を強める可能性まであるだろう。
また表現面でもAIイラストを早めに取り入れたり、ドット絵風の表現をやってみたりと、試行錯誤のスピードも早い。結局2021年の広告三英傑で唯一生き残っているのが社長なのは、こういう割り切ったスピード感ある告知スタイルが功を奏しているのではないか。
・他所のネタはパクるが広告をつまらなくする要素は省く
おねがい社長はもういい加減にしろよってくらいパクリをしたりコメディをやったりするんだけども、困ったことにこれが面白いんですよ。大まかなテンプレこそあるが、そのテンプレに至るまでのバリエーションが豊富すぎる。
これもまた正確なゲーム内容を広告しないという割り切りが生きている。ちゃんとゲーム内容を紹介しようとしたら40秒の広告のうち10秒くらいはゲーム紹介に使わざるを得ないんだけども、ゲーム内容を紹介しないと割り切るならば広告の時間全部を茶番に使える。
その上広告でありがちな終わりのタイトル映像も使っていないので、あらゆる広告の時間を全部茶番に使える。広告においてつまらない説教臭さも、芸能人を起用しただけの飽き飽きする爽やかさも、物欲しげにバズろうとするキャッチコピーも無い。結果他の広告よりも面白い時間が長いので、相対的に他のつまらない広告よりも面白い広告を実現していたのだ。
真面目に広告したってつまらねえだの邪魔だのクソ広告だのって言われるんだから、だったらふざけ散らかしてやろうぜ! という思想自体は分からんでも無い。クソ広告と誹られようが、知名度を得られない広告はクソ広告にすらなれない。きっとそんな思想で作られている。
・コラボはおねがい社長の世界観にそぐう物にする
おねがい社長がコラボしていたのは明日花きらら、深田えいみというセクシー女優勢と、スケベキャラで売っているクロちゃん、そしてえなこと田中理恵、山田孝之である。
おねがい社長がコラボをする時、インタビューだけとか、告知時の映像だけみたいな事はやらない。おねがい社長の世界観に沿った茶番をやらせた上で、必要に応じてゲーム内実装などを行う。コラボ先の著名人に失礼かもしれないし……みたいな遠慮は無い。絶対に面白い物を出そうと言う覚悟を感じる。
何なら田中理恵をファミリーファームの冒険風広告に出演させられるのはおねがい社長くらいのもんでしょう。
コラボと言うとどこか遠慮した感じというか、お客様感が否めなかったりするものだけども、おねがい社長は違う。容赦なく社長の世界観に著名人を組み込んでいく。
「これ知名度を得るために有名人を使っただけなんでしょ?」という内容のコラボが無いのはすごいです。逆に遠慮が無さすぎますって。
・エバーテイル~ホラーテイストポケモンを完遂した悪鬼~
エバーテイルも一時代を築いたのは間違いないのだが、彼のすごい所はグロ込みのホラーパロディ広告をやるようなエバーテイルリスペクターが現状登場していない事である。おねがい社長も魔剣伝説も同業他社にパクられているというのに、エバーテイルだけは一切パクられないのだ。
ウソの広告は現代においても大量に存在するが、ここまで完璧にポケモンをパクったグロ広告、ホラー広告をやり続けたのは広告史上でも類を見ないだろう。
その魅力的なストーリーと映像から映像を考察する物好きが現れ、毎週火曜日のTwitter広告更新日には「#エバーテイル広告リンク」が盛り上がり、それに付随してさらに動画やTwitterでも考察勢が増えていき……というループが始まっていった。
正直エバーテイルに関しては自分がエバーテイル広告まとめを書いちゃったせいで評価が必要以上に爆上がりしちゃった可能性は否めないんだけども、それにしても見ている側からして考察しがいがあるというか、見ていて面白過ぎる広告だったのが悪いよ。
・全てを広告で語らないバランス感覚
今にしてエバーテイルの広告を見返すと、必要以上に全部ストーリーを語らないみたいなところが上手すぎた。広告ってどうしても商品を告知しないとならないから仔細まで紹介したくなるんだけども、そこで全部言わないで適当な所で話を切り上げる。
それにYoutube広告の場合詳細を細かく見る事が余計に難しいんだから、不思議な映像を突然流されて何のネタバラしも無しに広告が終わったら「え、何これ!?」ってなるでしょう。正直エバーテイルの広告の後に控えている本編の印象が薄れるレベルで気になっちゃうもん。すごく絶妙なラインを突くのが特徴。
正直これは広告のコツというよりは映像表現のコツって感じがする。エバーテイルだけは広告というフォーマットの中で映像とストーリーで勝負をふっかけていたのが他の広告とは違って面白かった、というのが全てな気がします。広告よりフィクションの映像作品の方が面白いに決まってるじゃんね。
・ネタをパクる事、プラットフォーム変更の判断が早い
これはおねがい社長と近い要素ではあるんだけども、流行のネタを取り入れるのが早かった。エバーテイルがホラーをやるという事がバレ始めてから評価が落ち始めていたんだけども、liminal Spaceやなぞのばしょ、進撃の巨人やチェンソーマンのパクリなど、とにかく貪欲に色々な要素をパクり続けたのが凄い。
ただ進撃の巨人パクリをやるとしてもポケモンルビーのグラードン出現シーンに寄せているし、ポケモンのパクリという事はちゃんと自覚した上でやっているような気がする。ポケモンパクリをしないと決めたらちゃんとポケモンのパクリ以外の事も出来るし、中々に万能選手である。
あとこれも社長と近い要素として、Twitterの広告だけでなくinstagramやTiktok、Youtube Shortもお試ししている辺りチャレンジ精神が旺盛だった。やはり新しい事にテンポよく取り組むのはどこのトップ層も同じなのだ。
・広告のネタの引き出しが多く、ネタを短時間でまとめるのが上手い
エバーテイルの引き出しの多さを証明するポイントとして、エバーテイルの懸賞広告が挙げられる。他の懸賞広告と違い30秒で、かつ面白さを濃縮した漫画広告をぶつけてきたのはかなり特殊。
漫画広告は大体3分~5分くらいで、しょうもない茶番が2分に長々と実績や効能を紹介する時間が2分30秒程度、そしてオチも出さないであと10秒でこの広告は終わりです、二度と表示されませんというテンプレを延々と擦り続ける物でしょう。それにショートの漫画広告だって衝撃的な映像と根拠をずらずら並べ立てて終わりだから、広告を見ているというよりも押し売りを食らっているような感覚に陥りがち。
そこでエバーテイルの30秒懸賞広告を見返して欲しいんだけども、同じ漫画広告にしても茶番パート13秒、懸賞紹介パートも15秒よ。本来それだけで充分ネタを提供出来るし面白い内容になっているんだから、わざわざ5分も広告をやる必要が無いのよ。
だから短時間で面白い広告を出来るエバーテイルはセンスがあると思うし、2023年に増えて来た衝撃的な映像を坊主捲りするような通販広告は面白くねえなって言うのが正直な感想です。
・2021年広告の総評
2021年の広告、ひいては広告第三期ブームを一言にまとめるのであれば、誇大広告、虚偽広告をどこまで面白く出来るかというチキンレースが活発だった時期だと言えるだろう。
退屈でどうしようも無い大企業の広告、あからさまに嘘だと分かるカジュアルゲームの広告、頭の上にレベルを乗せたマフィアの広告……それらの既成概念を取り払い、とにかく面白ければ良い、目を引けばよいという思想で広告を作る。面白ければダウンロードされ、そこから課金に繋がっていき、真実を伝えるよりも効率よく金儲けが出来る。
その中で頭一つ抜けた広告三英傑とは、仕組化×物量、突き抜けたコメディ、物語性溢れるパクリのホラーというそれぞれの武器を徹底的に尖らせた英傑達だったと振り返る事が出来るだろう。
その後の広告三英傑は、魔剣伝説は後続タイトルとなるモリノファンタジーに道を譲り、エバーテイルは全盛期の勢いを失い、おねがい社長は3周年のタイミングで地上波進出という偉業を達成する事になる。
魔剣伝説とエバーテイルは一見勢いを損なったように見えるが、彼らは3年、あるいは4年も運営を継続している時点でスマホゲームとしては相当に長命な作品であるし、他に広告を打つべきタイトルがあるならそちらに注力するのは妥当な判断である。
おねがい社長だけは2023年現在が一番勢いがあるまであるのだが、そんな社長も2023年後半、2024年にはどうなっているか分からない。何にせよ、広告三英傑というビッグタイトルはずっと記憶にも記録にも残る作品になったと言えるだろう。
2023年7月現在、Twitterクソ広告の黄金時代はほぼ終わりを迎えつつある。コミュニティノートという形で真実が暴かれるようになり、くだらない広告は無くなり、健全な普通の広告の方が見かけやすくなった。
しかし社会における広告の必要性は2021年よりも増すばかりであり、例えTwitterが消滅したとしてもYoutube、Tiktok、Instagramで広告は流れ続けているのだ。そして過剰な誇大広告の時代は終わり、今は胡散臭い中華製扇風機の広告と胡散臭い投資話、借金減額診断とローンの広告で溢れている。
社会は厳しく、いつまでも第三期広告ブームの揺り篭の中で笑っている事は許されない。しかしいつの日かまた新しい、とんでもない表現の広告が現れる日がやってくるだろう。
いつか社会に「第三期広告ブームの広告三英傑はぶっちゃけ面白くなかったよな」という話題に溢れる事を祈りつつ、2021年広告まとめを終えようと思う。
・出典
※1:マフィアシティのCMが海外で問題視された経緯(ニュースサイト「The Gurdian」より)
また、ホームスケイプがやっていた実際に遊べないピン抜き広告がイギリスで規制された事件も2020年に起きている。
※2:gamewith参照
・巻末付録:2021年までの各広告期を彩ったゲームごとのリリース日簡易表
※各種広告の正確なリリース日をご存知の方はコメントをください
※バナー広告期は細かく記録に残せていないので、何かバナー広告の転換期等記憶にある方もコメントをください
・バナー広告期
・「今オ●ニーできないなら絶対にプレイしないでください」系列のバナー広告(DMM GAMES) 確認されている範囲では2015年の2chまとめ記事が最初
・広告第一期(2017年12月以前~)
・EVONY 2016年4月27日
・ロードモバイル 2016年5月25日
・ガーデンスケイプ 2016年8月
・Toon blast 2017年1月20日
・Hero Wars 2017年2月15日
・放置少女 2017年3月24日
・荒野行動(iOS版) 2017年11月3日(日本展開は11月14日、全世界展開は2017年12月14日)
・広告第ニ期(2017年12月以前~)
・マフィアシティ 2018年4月27日
・日替わり内室 2018年8月28日
・Age of Z 2018年10月24日
・エバーテイル 2019年3月21日
・ビビッドアーミー 2019年3月25日
・Rise of Kingdom 2019年12月16日
・広告第三期
・魔剣伝説 2020年4月20日
・おねがい社長 2020年7月22日
・パズル&サバイバル 2020年12月15日
・商人放浪記 2021年2月25日
・三国志真戦 2021年5月19日
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