大須健太(Daisukenta)

エッセイスト・作家。 2023年8月15日、終戦記念日に併せたドキュメンタリー『ルソン…

大須健太(Daisukenta)

エッセイスト・作家。 2023年8月15日、終戦記念日に併せたドキュメンタリー『ルソン島に散った青年とその時代を生きた女性たち』を発売。2024年、第12回絵本出版賞・ストーリー部門入賞。

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■どんなメンバーシップか 活動を継続するためのモチベーションと緊張感を持って創作活動に専念するため。 ■活動方針や頻度 本当に私の書いた物を読みたいと心から思って下さる方への定期的な作品提供。頻度は月4回。その月によって作品の題材も変わるので作品の発表は変則的になる月もあります。 ■どんな人に来てほしいか 私の書いた作品に少しでも興味のある方に、お試しだけでもご加入頂けましたら嬉しいです。 ■どのように参加してほしいか 中々公言通りに掲載出来ない時もあるかとは思いますが、出来得る限りご満足頂ける記事をご提供出来るように頑張りますので、気長にお付き合い頂けましたら幸いです。

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マガジン

  • 大須健太・作品集 Ⅰ

    メンバーシップ会員の方に向けて書き下ろした、エッセイや写真詩、小説をありとあらゆるところから集めた作品集。

  • 大須健太・作品集 Ⅱ

    毎週水曜日に掲載している無料エッセイを集めたマガジン。

  • アーカイブ記事

    2020年7月18日から2022年7月19日までの日記。

  • 大須健太の日記

    本格的な記事にするものではない、ちょっと肩の力を抜いて書いた独り言のような、そんなものを時々載せる予定です。

  • 【日本製】から読み解く三浦春馬

    【日本製】から『役者』ではない『人間』三浦春馬の内面を、同性の視点から見つめました。

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書籍出版のお知らせ

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麦茶

 いつの頃からだったかもう覚えていないが、我が家は夏でも冬でも一年中、麦茶が冷蔵庫に常備されている。もちろん、それはペットボトルに入って売っているものではなく、…

誘惑

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 テレビを観なくなるということは、大人になることだということを子供の頃は分からなかったし、そんなことを考えたこともなかった。テレビはずっと面白いものだと思ってい…

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バレリーナ・森下洋子という生き方

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希望の落書き

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過ぎ去りし日に

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美容院

 先日、美容院へ髪を切りに行った。  子供の頃、母親が自分の行きつけの美容院へ連れて行こうとしたが、私は同じクラスの男子の手前、決まりが悪く、母親の行きつけの美…

書籍出版のお知らせ

書籍出版のお知らせ

この度、あの日から三年の時を経て、書籍を出版しました。

名前だけではありますが自分自身の出版社「春桜社・シュンオウシャ」を持ち、今、自分自身が最も書きたかった人物を選び、一冊の本にまとめました。

あんなことがなかったら、私は文章を書くことを再開しなかったと思いますし、あの当時、三年後に自分が書籍を出版することになろうとは、思いもよらぬことでした。

三度もインスタグラムを消されて、私を知る人も

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麦茶

麦茶

 いつの頃からだったかもう覚えていないが、我が家は夏でも冬でも一年中、麦茶が冷蔵庫に常備されている。もちろん、それはペットボトルに入って売っているものではなく、やかんに湯を沸かしパックになっている麦を煮出した麦茶である。

 普段飲むものが麦茶にコーヒーと決まっているせいか、冷蔵庫に他の飲料が入っていることは滅多にない。この麦茶も残り少なくなってくると、母がやかんで来る日も来る日も沸かしていた。

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誘惑

誘惑

 先日、スーパーへ買い物に行った。家を出る前に必要なものだけをメモに書き、「今日は絶対にこれしか買わぬ!」と固く心に誓って出掛けたが、残念ながら脆くも私の意思の弱さが露呈する結果となった。

 前日、友人から毎年届く見事な梅を、今年も梅干しにしようと梅仕事をしたばかりだった。それなのに、青梅一キロ四八十円という破格の値段を目にした時、私の心は大きく揺らいだ。
「もう一キロ漬けてしまおうか」「いや、

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初夏の手仕事

初夏の手仕事

 今年初めてらっきょうを漬けた。

 毎年というわけではなかったが、私の母は時期になるとスーパーの店先に並んだらっきょうを買って漬けていた。予期せぬ病の発症で今年はそれも出来なくなった。今は毎日、最低限の暮らしを送ることに精一杯となった母にとって、まだ根を詰める作業は大儀なのだろう。私が買い物に出かけた店先でらっきょうを目にしたことを伝えても、「今年は無理ね」と、どこか寂しげに諦めを滲ませて言うだ

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時空を超えて~作家・大江健三郎~

時空を超えて~作家・大江健三郎~

 テレビを観なくなるということは、大人になることだということを子供の頃は分からなかったし、そんなことを考えたこともなかった。テレビはずっと面白いものだと思っていたし、いつもスイッチをつけているものだと思っていた。生まれた時からスマートフォンがある現代の子供達とは違い、見たい映像が世の中に溢れ返っている時代に子供時代を過ごしたわけではない私のような人間は、テレビから得るものが多かった。

 大人にな

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歩行者天国

歩行者天国

 銀座の歩行者天国は酷く居心地が悪くて、私は何だか落ち着かない。そうは言っても二十代の頃は着物好きな女友だちと二人で着物を着て、よくあちこちへ出かけたものだった。 銀座の歩行者天国へ出かけたのも、ちょうどその頃だった。

 当初は出かける予定にはなかったのだが、友人がまだ帰宅までには時間があるということで、根負けして出かけたように記憶している。

 歩行者天国にはそれは様々な人々がいた。若者 や

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珈琲の誘惑

珈琲の誘惑

 世の中、様々な黒い液体が存在するが、私の黒い液体との初めての出会いはコーヒーだったような気がする。小さな子供ならば、世間の相場としてはきっとココアだと思うが、私の両親は物心ついた時からティータイムにはコーヒーを欠かさなかった。
両親が二十代の頃にはコーヒーサイフォンがあり、アルコールランプで湯をフツフツ沸かしていたという。
 急な来客があっても、我が家には緑茶の茶葉がなかったから、客人には気の毒

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字引

字引

 スマートフォンの普及により、何でもこれ一台で事足りる世の中ではあるが、私はそれでも分厚い国語辞典を常に机の上に置いている。

 たまたま、何か調べたい時や確認しておきたいことがあっても、充電中で手元にスマートフォンがない時がある。

 そういった時、やはり頼りになるのは分厚い国語辞典である、薄い紙に、きっと今までの人生で一度たりとも使ったことがない言葉が載っている筈である。

 人は、その一生の

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アパート

アパート

 引っ越した町を久しぶりに歩いていたら、随分と町の景色が変わっていた。表通りに限らず、ちょっと奥の道に差し掛かっても、それは同じだった。

 随分前から建っていた古いアパートが、とうとう取り壊されてしまった。住む予定もないアパートだが、やはり見慣れていただけあって姿を消してしまうと、それは何とも寂しいものである。

 取り壊されたアパートは、昭和も終わりの頃に建てられたのではないだろうかと思わせ

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花の代わりに

花の代わりに

 ここ一ヶ月、私は毎日の暮らしに追われていて、今日が「母の日」だということをすっかり忘れていた。

 薄暗くなった頃、スーパーやデパートの食料品売り場に買い物へ行くと、生鮮食品売り場に並んでいる魚や肉類が割引され始める。
 私は全てにおいて割引が好きな人間だが、母の突然の病気により、主婦の真似事をするようになってからは、この物価高の只中にあって、余計にこの割引が大好きになった。

 同じものを多少

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お守り

お守り

 一年前、財布を買った。振り返ってみると、私はこれまでの人生で自分で財布を買ったことが一度もなかったように思う。例えば他人様から頂いたものや、他界した祖父や伯父の物など、自分で心底気に入った財布を持ったことがないのである。
そんな私であったから、財布の中身の引っ越しをさせたのも人生でそう多くはない。

 いつの頃からか、どこの店もポイントカードというものを作り出して、それまでの財布には入り切らない

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バレリーナ・森下洋子という生き方

バレリーナ・森下洋子という生き方

 世界中にたくさんのバレエダンサーは存在するが、そのダンサーのほとんどは肉体的な衰えを主な理由として、四十歳前後で引退する。
 稀に五十歳になっても第一線で活躍を続けるダンサーもいるにはいたが、それでもこの五十歳前後を最後に引退しているダンサーがほとんどである。
 役や踊りの解釈は年を増す毎にどんどん深まり、若い頃よりも素晴らしいキャラクター作りが出来るようになり、まさにこれからが本領発揮というと

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希望の落書き

希望の落書き

 いつの頃だったか、公共の建物の塀に美しい落書きをする人が現れた。その人の名はバンクシーと言った。

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ともしび

ともしび

 何年か前のことだが、戦前の日本の母は家族の中で誰よりもいちばん偉かったと書いたことがある。    

 現代のように、どこの家にもガスが通っているわけでもなく、水道も蛇口をひねれば水が出るというわけでもなく、井戸で汲まなければならなかった家もあった。電気冷蔵庫もなかったから作り置きはおろか、生物はまとめ買いしたりもできない。したがって、買い物はきっと毎日のように野菜を求めに八百屋へ出掛け、肉を求

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美容院

美容院

 先日、美容院へ髪を切りに行った。

 子供の頃、母親が自分の行きつけの美容院へ連れて行こうとしたが、私は同じクラスの男子の手前、決まりが悪く、母親の行きつけの美容院へは行かず、自分で探して来た床屋へ行ったものだった。
美容院へ行くにはまだ時期が早過ぎたのだろう。

 それから何年も経ち、やがて思春期が訪れた高校生の頃になると、私のクラスの男子も続々と床屋のおじさんを体よく裏切って床屋を卒業し、美

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