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花の代わりに

 ここ一ヶ月、私は毎日の暮らしに追われていて、今日が「母の日」だということをすっかり忘れていた。

 薄暗くなった頃、スーパーやデパートの食料品売り場に買い物へ行くと、生鮮食品売り場に並んでいる魚や肉類が割引され始める。
 私は全てにおいて割引が好きな人間だが、母の突然の病気により、主婦の真似事をするようになってからは、この物価高の只中にあって、余計にこの割引が大好きになった。

 同じものを多少の鮮度の違いはあれど、味はちっとも変わらないのに、高い値段で買うのはやはりバカバカしい。どこまでケチな奴なのかと笑われそうだが、同じものを食べるのなら少しでも安い方がいい。

 料理愛好家の平野レミさんではないが、喉を通れば皆同じ。コロッケはコロッケであり、イモやひき肉をバラバラに食べても喉を通って胃袋に収まれば、手間暇かけようがそうでなかろうが、それはもうコロッケなのである。
 秋刀魚も今日が腹に収まるにはベストの状態だとはいえ、明日食べても大して味は変わらない。秋刀魚がヒラメになることはない、秋刀魚は秋刀魚である。

 そんなわけであるから、今日も私はデパートの生鮮食品売り場に足を運んだというわけである。

 そことは別の一角に目をやると、なんだか妙に華々しいコーナーが目に留まった。何でもかんでも花が目に飛び込んでくる。菓子箱、花束、鉢植え、生花、花という花。しかもカーネーションが色鮮やかに、所狭しと棚に並んでいる。そこには決まって、家族連れの中にお母さんらしき女性の姿があった。

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