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SHIFT INNOVATION #43 「アビリティ1」(連想力編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 SHIFT INNOVATION #42 「クリティカル思考3」(能力編1)において、「枠外」のアイデアを導出するために必要となる能力として、「情報力」「批判力」「抽象力」「連想力」「収束力」があることを説明しました。

 各々の能力に関して、有効な情報を想起する上で、多様なケースを抽出するための「情報力」、今までにはない情報を想起する上で、固定観念を排除するための「批判力」、異なる情報を想起する上で、事象を抽象化するための「抽象力」、枠外のアイデアへ導く上で、関連性の低い事象へ移行するための「連想力」、そして、対象となる事象と新たに抽出した事象を関連付けるための「収束力」が必要となります。

 今回は、これの能力の中でも、「連想力」の詳細な内容に関して、「サーフィンテック」の事例に基づき説明することとします。

 「サーフィンテック」とは、「快適な生活環境を作る完全自動化のサーモスタット」というコンセプトに基づき、「サーモスタット」と「フィンテック」を融合することにより導出した「快適な温度と環境に配慮した温度との差異により節約した電気料金を、フィンテックを活用することにより、目的口座(節約)に移管するサーモスタット」というアイデアとなります。

 なお、説明する内容に関しては、結果から導いた内容であり、実際の思考プロセスにおいて、脳内で思考もしくは知覚した内容とは異なる場合もあること、また、科学的根拠に基づいた内容ではないことを前提にお読みください。

【「サーフィンテック」の思考プロセス】 ※参考

コンセプト設定
「快適な生活環境を作る完全自動化のサーモスタット」
アブダクション事象
「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」
問題提起
「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」
アブダクション事象の抽象化
「厳しいけれども、より良くなる」 ※反転「楽である」→「厳しい」
アブダクション事例
「厳しいトレーニングをすることにより健康な体を作ることができる」トレーニングを想起
アブダクション仮説
「厳しい温度設定により地球環境をより良くする」
アブダクション事象
「厳しい温度設定するのは大変である」 ※反転「良くする」→「大変」
問題提起
「本当に厳しい温度設定するのは大変であるのか」
アブダクション事象の抽象化
「厳しいけれども、楽しい」 ※反転「大変」→「楽しい」
アブダクション事例
「難しい(厳しい)ゲームをするのは楽しい」ゲームを想起
アブダクション事例
「eスポーツは、厳しい試合に勝ち抜けば賞金がもらえる」eスポーツ・賞金を想起
アブダクション仮説
「地球環境へ配慮した温度設定することにより、節約した電気料金を貯金に回す」節約・電気料金・貯金を想起
アイデア
「快適な温度と環境に配慮した温度との差異により節約した電気料金を、フィンテックを活用することにより、目的口座(節約)に移管する」(「サーフィンテック」) フィンテックを想起

【「サーフィンテック」の事例における連想力】

 「サーフィンテック」の事例の場合、「サーモスタット」から「フィンテック」へ転換しましたが、どのようなプロセスにより連想できたのでしょうか。

 そのプロセスとは、「サーモスタット」から「トレーニング」「ゲーム」「eスポーツ」「賞金」「電気料金」「節電」「貯金」「フィンテック」へと連想することにより、新たなアイデアである「サーフィンテック」を導出しました。

 「サーモスタット」から「トレーニング」を想起したきっかけは、「サーモスタット」に関する「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」を抽象化した「楽をして良くなる」を「厳しいが良くなる」に意図的に反転させたことにより、「厳しい」事象として「トレーニング」を想起しました。

 「トレーニング」から「ゲーム」を想起したきっかけは、「トレーニング」における「厳しいが良くなる」を「厳しいが楽しい」に意図的に転換させることにより、「楽しい」事象として「ゲーム」を想起しました。

 「ゲーム」から「eスポーツ」を想起したきっかけは、「ゲーム」から、スポーツ競技としての「ゲーム」を連想(主観)することにより、「eスポーツ」を想起しました。

 「eスポーツ」から「賞金」を想起したきっかけは、「eスポーツ」から、競技に勝つとお金を稼ぐことができることを連想(客観)することにより、「賞金」を想起しました。

 「賞金」から「電気料金」を想起したきっかけは、サーモスタットに関わる「温度」と賞金である「お金」を意図的に関連付けることにより、「電気料金」を想起しました。

 「電気料金」から「節電」を想起したきっかけは、温度に関わる「電気料金」と地球温暖化に関わる「環境」を意図的に関連付けることにより、環境に配慮した温度設定による「節電」を想起しました。

 「節電」から「貯金」を想起したきっかけは、「節電」するとお金を節約できることを連想(客観)することにより、「貯金」を想起しました。

 「貯金」から「フィンテック」を想起したきっかけは、「貯金」から、目的に応じて、個別に貯金することができる「目的別口座」を連想(主観)したことから、「フィンテック」を想起しました。

 これらの結果、「サーモスタット」と「フィンテック」を結合することにより、「快適な温度と設定した温度の差異により節約した電気料金を、フィンテックを活用することにより、目的別口座(節約)に移管する」(「サーフィンテック」)というアイデアを導出することができました。

(「サーモスタット」から「フィンテック」へのプロセス)
 1.「完全自動化」にすると「楽」になる ※連想(客観)
 2.「楽」から「厳しい」 ※意図(反転)
 3.「厳しい」といえば「トレーニング」 ※連想(主観)
 4.「トレーニング」をすると「体が良くなる」 ※連想(客観)
 5.「体が良くなる」から「楽しい」 ※意図(類似)
 6.「楽しい」といえば「ゲーム」 ※連想(主観)
 7.「ゲーム」といえば「eスポーツ」 ※連想(主観)
 8.「eスポーツ」をすると「賞金」が稼げる ※連想(客観)
 9.「賞金」から「電気料金」 ※意図(関連「温度」)
 10.「電気料金」から「節電」 ※意図(関連「環境」)
 11.「節電」すると「貯金」できる ※連想(客観)
 12.「貯金」といえば「フィンテック」 ※連想(主観)

 「サーフィンテック」の事例の場合、「サーモスタット」から「フィンテック」へ連想したプロセスにおいて、連想には「客観的連想」と「主観的連想」があり、また、意図的に行った「反転」「類似」「関連」「結合」がありましたが、さらに詳細な内容について説明します。

【客観に基づく連想】

 一般的に言われる「連想」の中でも、事象における「原因」から「結果」を導き、そして、導いた「結果」が、次の事象における「原因」になるというプロセスを連続させる「連想」があります。

 例えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」の場合であれば、「風が吹く」と「砂が舞い上がる」、「砂が舞い上がる」と「盲目者が増える」、「盲目者が増える」と「三味線引きが増える」というように、「原因」と「結果」を繰り返した結果、「桶の修理が増える」と「桶屋が儲かる」、よって、「風が吹けば桶屋が儲かる」という結論になります。

 これらのように、事象における「原因」と「結果」の関係性において、因果関係に基づいた「客観的連想」と称することとします。

(「風が吹けば桶屋が儲かる」) ※客観的連想
 1.「①風が吹く(原因)」と「②砂が舞い上がる(結果)」
 2.「②砂が舞い上がる(原因)」と「③盲目者が増える(結果)」
 3.「③盲目者が増える(原因)」と「④三味線引きが増える(結果)」
 4.「④三味線引きが増える(原因)」と「⑤猫が少なくなる(結果)」
 5.「⑤猫が少なくなる(原因)」と「⑥ネズミが増える(結果)」
 6.「⑥ネズミが増える(原因)」と「⑦たくさんの桶が噛まれる(結果)」
 7.「⑦たくさんの桶が噛まれる(原因)」と「⑧桶屋の修理が増える(結果)」
 8.「⑧桶の修理が増える(原因)」と「⑨桶屋が儲かる(結果)」

【主観に基づく連想】

 一般的に言われる「連想」の中でも、事象におけるコンテクストをイメージすることにより、新たな事象を想像するプロセスを連続させる「連想」があります。

 例えば、「サーフィンテック」の場合であれば、「楽しい」に対して、楽しいコンテクストをイメージすることにより「ゲーム」を想起し、「ゲーム」に対して、ゲームのコンテクストをイメージすることにより「eスポーツ」を想起するなど、「楽しい」というイメージから「eスポーツ」を導き出すというものです。

 これらのように、事象に対してイメージするコンテクストは、人によって、また、その時の状況によって異なり、一意に決まるものではないため、「主観的連想」と称することとします。

(「サーフィンテック」) 主観的連想
 3.「厳しい」といえば「トレーニング
 6.「楽しい」といえば「ゲーム
 7.「ゲーム」といえば「eスポーツ
 12.「貯金」といえば「フィンテック

【意図的な思考(「反転」「類似」「関連」「結合」)】

 「サーフィンテック」の事例の場合、全てのプロセスにおいて、無意識に進められたものではなく、プロセスの途中において、意図的に思考した箇所がありました。

(反転)
 「トレーニング」を想起した箇所に関して、「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」という固定観念に対して、「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」という本質探究の問いを発しました。
 そして、本質探究の問いにより抽象化した「『楽をして』良くなる」に対して、通常とは異なる視点により、発想をしようとしたことから、「『厳しい』が良くなる」というように、意図的に事象を反転させたことにより、「トレーニング」を連想しました。

(類似)
 「ゲーム」を想起した箇所に関して、「厳しいトレーニングをすることにより健康な体を作ることができる」を抽象化した「厳しいが『良くなる』」のままであった場合、類似するコンテクストをイメージすることができませんでした。
 そこで、「厳しいが『良くなる』」を「厳しいが『楽しい』」へ意図的に類似する事象に転換させ、「楽しい」というコンテクストをイメージしたことにより、「ゲーム」を想起しました。

(関連)
 「電気料金」を想起した箇所に関して、「枠外」のアイデアを導出する上で、連想することにより、はじめの事象に対して関連性の低い事象へ移行(「ずらす」)必要がある一方で、最終的には、はじめの事象に関連するアイデアを導出する必要がありました。
 そこで、意図的に事象を関連付けさせるため、「サーモスタット」に関わる「温度」と賞金である「お金」を関連付けることにより、「電気料金」を想起しました。

(結合)
「サーフィンテック」を想起した箇所に関して、個別に貯金することができる「目的別口座」を連想したことによる「フィンテック」と完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる「サーモスタット」を意図的に結合することにより、節約した電気料金を貯金できるよう、銀行の目的別口座へ貯金できる仕組みに関わる「フィンテック」を連想しました。

【「枠外」へ飛躍的な発想をするための「主観的連想」「意図的反転」】

 「枠外」のアイデアを導出するためには、事象に対して関連性の低いコンテクストを連想することができる「主観的連想」が重要になると考えます。

 例えば、「客観的連想」の場合、「トレーニング」をすると「体が良くなる」、「eスポーツ」をすると「賞金」が稼げるなど、事象における「原因」から「結果」を推測することは可能であることから、事象に対して収束することとなるため、「枠外」へ飛躍的な発想をすることは困難であると考えます。

 一方で、「主観的連想」の場合、「楽しい」から「ゲーム」を想像するなど、イメージするコンテクストは、自身が保有する範囲において、様々なコンテクストを想像することができることから、事象に対して拡散することとなるため、「枠外」へ飛躍的な発想をすることが可能であると考えます。

 これに関して、「楽しい」から「ゲーム」を想起し、「ゲーム」から「eスポーツ」を想起した結果、「楽しい」から「eスポーツ」へ移行しましたが、例えば、「楽しい」から想像できるコンテクストとして、「旅行」を想起した場合、「旅行」に対して想像したコンテクストが、「ロケットで月面を間近に見たい」であれば、「月面」を想起することとなり、「楽しい」から「月面」へ移行することとなります。

 これらのことからも、事象に対してイメージするコンテクストは、人によって、また、その時の状況によって異なり、一意に決まるものではないことから、主観的連想をすることにより、「枠外」へ飛躍的な発想をすることが可能であると考えます。

 また、「主観的連想」とあわせて、意図的に「反転」「類似」「関連」「結合」をする、特に批判的思考により「反転」をすることによって、真逆のコンテクストを想像することができることから、「枠外」へ飛躍的な発想をする可能性を高めることができると考えます。

 これに関して、「サーモスタット」から「トレーニング」を想起したきっかけは、「サーモスタット」を抽象化した「楽をして良くなる」を「厳しいが良くなる」に意図的に反転させたことにより、「厳しい」から「トレーニング」を想起しましたが、「楽をして良くなる」を維持し連想することにより、「楽をする」から「自動運転」を想起した場合、「完全自動化のサーモスタット」と類似するコンテクストとなります。

 これらのことからも、真逆のコンテクストを想像することによって、今までとは異なる発想をするきっかけとなることから、意図的に事象を反転させることにより、「枠外」へ飛躍的な発想をすることが可能であると考えます。

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