転調

「あっついあっついオレンジジュース出てきたから帰ります!」
イベント会場で一人の客の声が鳴り響いた。
それにつられて、どんどん帰っていく客たち。
無料サービスのお茶がいつのまにかオレンジジュースと入れ替わってしまっていたようだ。
イベントが終わるのはまだまだ先なのに、客は残り数人となってしまった。
バンドコンテスト、漫才コンテスト、豪華景品ビンゴ大会はどうなってしまうのか?
客が戻ってくることを信じて実行委員長はイベントをそのまま進めることにした。

バンドコンテスト開始の時刻が迫ってきた。
優勝候補のバンドのギタリストがウォーミングアップとして速弾きをしている。
とにかく速い。
速すぎて一音しか聞こえない。
みんなが速弾きに心を奪われていると、バンドコンテストの予定時間は終わっていた。
だが誰もそのことに気がつかない。
少し経って速弾きの速度超過によりギターの弦が発火。
我に帰った一人がギタリストにバケツいっぱいの水をかけて消火。
バンドコンテストの予定時間が終わっていることにみんなが気づき、愕然としている。
頭を抱える実行委員長。
バンドコンテスト中止という結末を迎えた。

バンドコンテストの失敗から、漫才コンテストは出番前のネタ合わせが禁止された。
これでバンドコンテストで起きたような悲劇は防ぐことができる。
実行委員長のリスクマネジメントが光る決断だった。
だが優勝候補の漫才師がネタ合わせができない緊張から変な表情に。
みんながその変な表情に心を奪われていると、漫才コンテストの予定時間は終わっていた。
だが誰もそのことに気がつかない。
時間が経ちみんなが変な表情になっていた。
異変に気づいた実行委員長。
再び頭を抱える。
漫才コンテストは全員優勝ということで幕を閉じた。
優勝賞品不足のため、ビンゴ大会の豪華景品が優勝者に配られた。
ビンゴ大会はどうするのか?

ビンゴ大会は無事開催。
景品がないのに大盛り上がりを見せた。
今までの失態を挽回するような実行委員長による司会がみんなの心を奪ったのだ。
景品を配るための盛り上げ役ではない、ビンゴ自身の面白さを引き出した類を見ないイベントであった。