「自分を許す」ことのむずかしさをほどいてくれた、2冊の読書体験
「ひとりで生きていけるようにならなくてはならない」と心の底でずっと思っていました。人に頼れず、なんでも自分でできるようにならなくてはならないと。そしてそれゆえに、人と比べて落ち込んで、劣等感に苛まれる。
そんな自分に気づいて、受け止めて、少しは生きやすくなったと思っていたけれど、その奥にはまだ違う思いがありました。
それは、「今の自分をずっと許せないでいる」ということ。
それに気づくきっかけになったのが、土門蘭さんの『死ぬまで生きる日記』。そして、「許すためにどうしていけばいいのか」というヒントになるのが、吉本ユータヌキさんの『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ 僕の心を軽くしてくれた40の考え方』です。
2冊に共通しているのは、自分を許す(ありのままの自分を受け入れる)ためのヒントがあること。読むことで、その準備になること。
このnoteでは、そんな2冊の感想や、「そもそも、わたしはどんな自分を許せないでいるのか」などについて書いていきます。
2冊同時に本の感想を書く、というのはすこし変則的です。けどどうしても、同時に取り上げてみたいとおもいました。お付き合いいただけたらうれしいです。
ひとりで生きていけるようにならなくてはならない、とおもっていた
わたしは13歳ぐらいのころから去年くらいまで、ずっと、「ひとりで生きていけるようにならなくてはならない」とおもっていた。
あれもこれも全部がんばって、誰にも頼らずにひとりで何でもできるようにならないとダメだ。何でもできる、しっかりしたわたしじゃないと、価値はなくて、誰にも見向きもされない。そんなことを。
どうしたって思い出すのは、自分が中学1年生のころ。小学校から中学校への進学というタイミングで、転校したときのことだ。
小学校時代から続いているコミュニティが存在している教室の中、うまく馴染めなかった。自分の発言と行動が、ある生徒の不興を買ったことで、無視などをはじめとするいじめを受けるようになった(それはおよそ1年続くのだけれど、色々なことが重なって、その後一応解決はした)。
被害を受けているとき、親に助けを求めることは、どうしてもできなかった。
「あなたのむすめは、いじめを受けるような子です」という事実が、かなしくて、苦しくて、悔しくて、やるせなくて、情けなくて、自分はなんてダメなやつなんだろう、とおもったからだ。同時に、わたしはいじめられても仕方のない人間なんだ、と諦めもあった。
あのときのことは、10年以上経ち大人になった今も、わたしのなかに影を落とし続けている。
わたしは、誰かに愛される資格なんてないんだ。こんなわたしに愛されるなんて、相手がかわいそうだ。たとえば家族以外の誰かと一緒に生きるなんて、きっと無理だ。だから、「ひとりで生きていけるようにならなくてはならない」。そんな風に繋がっていったのだとおもう。
今の自分をずっと許せていなかった
「ひとりで生きていけるようにならなくてはならない」という思いに気づいたのは、コーチングスクール「THE COACH Academy」でプロコースを受講し終える直前、2022年6月のこと。コーチングを通して、自分自身と向き合い続けたときのことだ。
それまで、わたしはずっと(今も完全に拭い切れたとは言えないけれど)、他人への強い劣等感に苛まれ、漫然とした焦燥感が自分の中に漂い続けていた。
だから、誰にも頼れない、ひとりで生きようとしていた自分を見つけたとき、「とらえた!」と腑に落ちた。納得した。それは決して、誤りではない。
けど、それは底じゃなかった。
もっと奥にあったのは、「今の自分をずっと許せないでいる」ということ。
そのことに気づくきっかけとなったのが、文筆家・土門蘭さんの著書『死ぬまで生きる日記』だ。
『死ぬまで生きる日記』は今の自分を許すまでの記録
10歳から35歳のころまで、ずっと希死念慮――日々の中で「死にたい」と思い続けていた土門さん。『死ぬまで生きる日記』は、そんな自分を見つめるために著者がカウンセラーと対話をし続けた2年間の記録だ。
そもそも、わたしは土門さんの文章が好きで、書き手として憧れている。どこか淡々としているのに、決してつめたくはない、うつくしい文章。初めて桜林直子さんとの共著『そもそも交換日記』で、そのうっとりするような文章を読んでからすっかりファンになった。
そんな人が書いた、自身のこころを見つめた対話の記録。惹かれない理由が見つからなかった。WEB連載の存在は知っていたけれど、書籍化する前は一部が非公開になっていて、もうすべては読めず。けど公開分を読んだだけで、「そばに置きたい文章だ」とおもった。
だからTwitterで書籍化のお知らせを見つけた時は心の中でガッツポーズをした。予約ができるようになったことに気づいたら、すぐその場でカートボタンを押した。
同著は、土門さんが「今の自分」を許すまでの記録だとおもう。
はじめて書籍を読んだとき、ここで涙が出た。
「なんか私、ずっと頑張ってない?」という言葉が、自分へ向けられたような感覚がしてドキッとし、続く文章に「わたしもそうなんです」と、うなずきっぱなし。
こんなにぴったりと、自分の中に起こっていたこととリンクするような文章、あるんだ……、と驚いた。
ああ、そうか。わたし、いじめを受けてしまった自分のこと、ずっと、許せなかったんだ。
許していける、希望がある。許すためのヒント集『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ』
「今の自分」を許せない自分がいることに気づいた。でも気づいた後はどうすれば良いんだろう?
そんな時、自然と頭に浮かんだのが、吉本ユータヌキさんの『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ 僕の心を軽くしてくれた40の考え方』だ。
同著も、SNSで出版報告を読んだときから、刊行を楽しみにしていた本だった。
著者のユータヌキさんは、実は自分が学生時代から活動をひっそり追いかけていた漫画家・イラストレーターさん。しかも偶然同じコーチングスクールの受講生同士であったり、同著の編集担当が「バトンズの学校」でお世話になった田中裕子さんだったりと……とにかく自分の琴線に触れる要素が多かった。
同著は、上記3つの構成でできていて、日常の中で生まれるモヤモヤに対し、「こんな視点から見てみては?」「こんな考え方があるよ」と提案している一冊。個人的には、コーチング入門編としても(勝手に)胸を張っておすすめしたい。
『死ぬまで生きる日記』とはまた打って変わって、ユータヌキさんのイラストが大変かわいらしい、ポップな書籍というか。読書が得意ではない人でも読みやすい、読むハードルが高くない本だとおもう。
2冊を読んだ順番は、最初が『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ』で、その次に『死ぬまで生きる日記』だった。
けれど『死ぬまで生きる日記』を読んだ後、『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ』の内容は、“自分を許すための工程”のヒントが書いてあるのではないか、と思い至った。
というか、「気にしすぎな人」って、自分と同じように「今の自分を許せないでいる人」なんじゃないか、と。
「今の自分を許せない」ことが強い表現だとすると、もっと身近に、軽やかに捉えるとき「気にしすぎ」に言い換えられるのではないか。
性格ではなく、考え方のクセ。この考えを読んだとき、まさに目から鱗で、とてもよいことを知った、とおもった。
過去の経験から来るような、コンプレックスになっているもの(思考回路)も、「クセ」と捉え直せば、後天的に治せる。それは希望ではないか。
この本はきっと、許せない今の自分と、どう付き合っていくかのヒント集だ。
自分の心の穴を知って、埋めていく
この2冊を読むと、「自分を許す」ことは、「ありのままの自分を受け入れる(受容する)」ことだとわかる。
突き放してしまうような、つめたい言い方になってしまうけれど、結局のところ、自分のことは自分でしかなんとかできない。
自分のことは、誰よりも自分で納得しないとだめなのだ。自分のことを許せるのは、自分だけしかいない。
だけど同時に、「それはとてもむずかしいことだ」ともおもう。
わたしは「今の自分を許せていない」状態にいることには気づいたけれど、まだ100%「今の自分」を許すことはできていない。
どうしたら許していけるんだろう。許していけるのかな? そんな問いが浮かぶけれど、この2冊を読み終わった今、「たぶん大丈夫だ」と確信めいた感覚がある。きっと雪解けが始まっていると。
『死ぬまで生きる日記』にこんな一節がある。
「諦め」と「安らぎ」は同居する。この同居状態が「許す」ことだとすると、そのためには「自分の心の穴」を確かめることが必要になる。
たとえば、わたしはいじめの経験を、「もう過ぎたことで、いつまでも囚われて良いことではないだろう」と目を逸らし、まるで無かったことのように扱おうと努めてきた。けどそれは逃げているだけで、結果、ずっと過去はわたしを追いかけてきた。
今の自分を許すことができない状態が一生続くとしたら、それは、つらくて、しんどい。
わたしは今、1年ほど掛けて、自分を知ろうとしている渦中にいる。それは要するに、自分の心の穴を、自分で確かめている最中なのだということだ。
そして、その穴を何で埋めていくのか、何が埋めてくれるのか。
やっぱり「許す」って、むずかしそうだぞ、とおもう。でも決して、できることが何もない八方塞がりな状態というわけではなく、許せる道筋が見えてきたことに、ホッとしている。
この先は希望ばかりだと、2冊のお守りを抱えて、まっすぐ信じていきたい。
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