倒産企業の小説を読んだ感想

素人臭い小説というか、実際に素人が書いた小説であったので、やはり拙いものであったのだろう。それでもハードカバーから文庫本になっているのは、社会的に耳目を集めた事件の当事者が書いたものであったからだと思うが、読む人が読めば、価値を見出せたのだろうか。

実際のところ、3分の1ほど読んで読むに耐えないと判断したので、死蔵していた。手放さなかったのは、一度手を着けた以上は読了したいという愚かなこだわりがあったためだが、そのこだわりは放棄したつもりでも、つい手放すタイミングを失していた。
今回、つまらないと思いながら無理に読了したのは、人に譲るためであった。人との会話の中で、その小説の舞台となった会社の話題が上がり、その本の存在を思い出したので、譲ることにしたのであった。このような理由から敢えて本を読むのは、私にとっては稀有なことである。

読みながら、つまらない小説の要件についても考えていた。
・主人公(筆者)にとっての都合よい展開
・実在した企業をモデルにしていると公言しているにもかかわらず、登場人物の書き方について公平ではなく、好悪や善悪を色分けしている。
・自己正当化と自分の美化。(これは見苦しい。)
・取って付けたような情緒的な描写挿入の唐突さ。

本人は頑張って書いたものだろうと思う。それにしても、大企業の幹部が内幕を暴露すると謳って、この程度の内容の「小説」であるとは、期待外れもいいところであった。あるいは、デリケートな部分の多くを削除しすぎたのであろうか。それにしても、である。
自分を美化して書いている部分には、筆者の人間性が表れているが、こういう「浅い」人間が要職にあったということが、やはりその解体された企業グループの真実の一端なのであろう。

ジャンルとしては経済小説ということになるのかもしれないが、高杉良などのプロが書く小説とは比べ物にならない。
筆者が一定レベルの実務家であったことは確かだろうが、文章の書き手としては素人としか言いようがない。しかしながら、つまらない小説に敢えて時間を割くという体験から、得るところはあったかもしれない。こういう体験は二度とご免蒙りたいが、小説の面白さの要素を文学的に考える参考の一つとしたい。
当該の本は人に「本当につまらないものですが」と言い添えて譲った。業界人としての評を聴きたい気もするが、人に譲ったものは忘れた方がいいだろう。

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