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影を測る*

煌々とまばゆい照明の下、天秤計りは鎮座する。実物の北極熊でも測れそうな大きさだ。その部屋へ、ヤトゥンバの血を引く者たちが集まってくる。新月の夜、ひっそりと世間は寝静まっている。整列したヤトゥンバの若者たちは、順に巨大な天秤計りに乗る。左側の上皿に乗ると、右側のそれにはすぐさま分銅が持ち寄られる。釣り合いをとるのだ。大小さまざまなバーベルの分銅で、微細な単位まで目盛を読み取る。次には照明を落とし、真っ暗な部屋のなかで同様の計測を繰り返す。ペンライトだけでは、さすがに読みにくい。だが、ヤトゥンバにとっては真剣そのもの、0.1グラムのミスだって許されない。一回目の灯りの下の重さ、二回目の真っ暗の重さ、この二回の測定数値を引き算する。その結果、ある者は嬉々として隣室で控える割礼師のもとへ駆け込む。またある者は、悔しそうに歯ぎしりをしたかと思うと、あたかも先祖伝来の呪詛にでも縛られたかのように慟哭する。

こうして計測される影の重さが、何グラムを境に上記の違いを生むのか、それはヤトゥンバにしか分からない。ひとつだけ確かなのは、影の重さは死者から抜け出る魂よりも重い、少なくとも現世を生きるヤトゥンバにとっては間違いなく重く、かつ儚い、ということである。




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