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およそカフカ的な、AI文学に対する最後の悪足掻きの、記録。極上の音楽を添えて。論理は2…

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およそカフカ的な、AI文学に対する最後の悪足掻きの、記録。極上の音楽を添えて。論理は2番目に大切です。よろしくお願いします。

最近の記事

インディゴブルー

地下鉄の車内で、Kは窓の外を眺めている。靴を脱ぎ、子供のようにちょこんとシートの上で膝立ちになっている。 停車駅でダチョウが乗り込んでくる。ぎこちない足取りで、ダチョウは空席を捜す。大型鳥が腰を下ろせるだけの余裕はどこにもない。乗客たちはひどく迷惑がる。ダチョウはぎょろりと車内を見渡して、自身の存在を誇示するように羽をばたつかせる。それから、ひょいと吊革に首を突っ込む。重症のムチウチ患者が、包帯でぐるぐる巻きの首筋を吊るすように。実際、首ではなく、ダチョウの左脚には白い包帯

    • 選評「便器の騎士」

      今回の佳作に選ばれたこちらの作品ですが、注目すべき点はいくつかあります。まず、バケツを便器に置き換えることによって生まれる、テキストの異化作用ですね。それを、原作を忠実になぞりつつ最後まで完走したのは、称賛に値すると思います。カフカに負けじ劣らず、というより原作者カフカのおかげで、老いの哀しみ、折れた自負心、とでも言いますか、それが現代の後期資本主義的な抑圧と静かに相対しており、便器にまつわるアイテムとして紙オムツを選んだ時点で、この作品の一定の成功は約束されていた、とも言え

      • 錯乱

        16世紀のプレミア・チケットが手に入り、Kは大学都市へ向かう。広場は観衆でひしめきあっている。三日目のフィナーレに突入したようで、異様な興奮に包まれている。とりわけ刑場の周囲は、見物場所の確保に忙しい人だかりだ。前日の、メアリー・スチュアートの公開処刑が、よほど盛りあがったらしい。牛をひく田舎者も、売春宿の女将も、人々はいまだ余韻に浸っている。「あれこそ女王として完璧な最期だな」「あんなに綺麗な死装束、あたしゃ観たことないね」。断頭台へ歩を進めた女王メアリーのドレスは、黒褐色

        • アクアリウムにて

          ひときわ大きな水槽のなかで、潜水夫がふわりふわり作業をしている。時代物の、頭部をぐるぐる捩じ込むダイビング・スーツを着ている。宇宙服のようだ。水槽の底にはテーブルと椅子が並び、椅子の数だけランチョン・マットが敷いてある。どうやらディナーの準備をしているらしい。銀の皿、銀の盃、ナイフやらフォークやら、なにもかもをセットできちんと揃え、潜水夫は準備に余念がない。そのうち、彼の瞳の奥に湛えられた哀しみが、今夜の客人がおそらく来ないだろうことを物憂げに伝えてくる。どこか間の抜けたスロ

        インディゴブルー

          安息日

          コンドームに穴を開けられる。 おそらくピンで一突き、密封した袋ごと刺したのだろう。 気づいたのは、女が神妙に、それでいてどこか勝ち誇ったように、ほくそ笑んだからだ。例によってコトが終わり、一服しようとKが火を点けたときのこと。なぜか女はシャワーに向かわず、仰向けに寝ているKの下腹部を覗き込んだ。にんまり「おめでとう」と言った。 げんなりした局部の先っぽには、はちきれそうなゴムの膨らみが白濁色に充満している。そこから上に数センチ、ちょうど臍あたりに三滴・四滴、たしかに漏れ

          枷の行列

          駅裏でKは順番を待っている。中央駅のプラットホームから、コンコースから、次々と発着する臨時列車に乗ろうとして、人々が溢れている。不自然に無口な行列の、その最後尾に並んでいるのだ。お行儀よく、ただうなだれる人々は、よく見れば、羊——。 羊たちは、各々、爪先立ちでぴょんぴょん小さくジャンプして進む。ふわふわの毛を、たがいに隙間なく寄り添わせている。新たに到着した車両の数だけ、順々に前へ進んでいく。並びからはみださないか、サーベルを手にした憲兵たちが居丈高に目を光らせる。なかには

          枷の行列

          鳥籠のように

          ある奇術師が世界中を回っている。旅から旅を続けるのは、華々しい興行のためではない。うらぶれた安酒場で、いつも酔払いや遊女を相手にするばかり、所詮はその日暮らしの生業である。切り裂いた新聞紙にミルクを入れて花束を取り出そうが、見えない糸でトランプを宙に回転させようが、浴びるのは、冷やかしの罵声とお慰みの拍手だけ。誰も、奇術師がときおり見せる憂いの影には気づかない。 出番のおしまいには、必ず山高帽をひっくり返してウサギを放り込む。あっという間に瞬間移動させるのだ。 いつだった

          鳥籠のように