選評「便器の騎士」
今回の佳作に選ばれたこちらの作品ですが、注目すべき点はいくつかあります。まず、バケツを便器に置き換えることによって生まれる、テキストの異化作用ですね。それを、原作を忠実になぞりつつ最後まで完走したのは、称賛に値すると思います。カフカに負けじ劣らず、というより原作者カフカのおかげで、老いの哀しみ、折れた自負心、とでも言いますか、それが現代の後期資本主義的な抑圧と静かに相対しており、便器にまつわるアイテムとして紙オムツを選んだ時点で、この作品の一定の成功は約束されていた、とも言え