見出し画像

第2章② ど素人経営者の私VS店長になった彼

2015年に「全席禁煙の美味しいワインの飲める焼き鳥屋」をオープンさせた。私が資金を出したので、店のオーナーとして経営者になった。



ヒロは焼き鳥屋に修行に行き、元々、食肉関係の仕事をしていたことから、店長として、仕入れから仕込み、焼き鳥全般を仕切っていた。



オープン3か月目にお店は潰れそうになるが、敏腕飲食コンサルタントに助けてもらい1周年の頃は繁盛店になっていた。


いちいちキニイラナイ病


閑古鳥のお店を立て直すために、私はコンサルタントからの学びを実践した。顧客リストを取り、DMでオファーを掛ける。



SNSを使って毎日配信をし、商圏に住んでいる人たちに、友達申請を繰り返した。お店はみるみるうちに評判になった。



今でこそ、全席禁煙のお店が義務化しているが、当時は「飲み屋の禁煙なんて、自殺行為だ」と言われていたが、「禁煙」を前面に出すことで、圧倒的なファンが増えていった。



お店が繁盛した理由として、マーケティングの力は確かに大きいが、最大の理由はヒロの焼く「美味しい焼き鳥」だった。



私たちのお店は、客単価が高かった。食材にこだわり調味料にこだわり、旬のものを多く揃えた結果、高くてもお客さんは喜んでくれていた。



その中でも、白レバーが当店のナンバーワン商品だった。



レバーって焼く人の技術で、味がこんなにも変わるのか?というほど難しい食材だが、ヒロはその絶妙な火加減でとろけるような白レバーを焼き上げていた。



仕込みも丁寧で、厨房関係の事は殆ど任せていた。



私は、マーケティングと野菜関係の仕込みをやっていた。前にも話したが、SNSを使って配信していたので、常に私はスマホかPCを見ていた。



ヒロにはそれが、気に入らなかったのだ。



事情は話していたが、SNSで遊んでいるように見えていたのかもしれない。



Facebook経由でお客さんが来てくれても、お客さんの粗を探しては私に文句を言ってきた。


忙しいのにベラベラ話しかけてきゃがって、あゆもいちいち相手にすんなよ!ほかのお客さん待たせてんだぞ!


こんなやり取りはしょっちゅうだった。


せっかく集客しても、文句しか言わないヒロに、いい加減うんざりしていた。



ヒロは、自分が疲れていたり、思い通りに周りが動かないと機嫌が悪くなり、周りに当たり散らしていた。アルバイトも次々辞めていった。



事あるごとに、閉店後、喧嘩だ。激しく言い争うだけでなく、時々モノを投げつけたりと、激しいヒロに父の姿が重なった。



そして、最後に必ずヒロはこう言った、、、


じゃあ、お前が焼き鳥焼けよ!お前の店だろ??馬鹿らしくってやってられるか!ヘラヘラ笑ってるだけで何がオーナーだよ!


休みは週1回、お店の営業時間は17時~24時。仕込みは遅くても13時から始めていたヒロ。



私自身も睡眠時間も不規則。当時、中学生になった三女に、お弁当を作る為、寝てはすぐ起きて食事の支度とお弁当でぐっすり寝る間もない。



お店を続ける為、借金を返すためにも、店に出ている時間の他に、集客やリピート対策が必要だった。なのに集客しても文句を言われる。



そんな毎日を1年間続けて、2人とも肉体的にも精神的にもボロボロだった。ヒロも心底、疲れていたと思う。



そうとは分かっていても、ヒロに嫌味を言われ、私もムシャクシャしていた。


わかった。じゃあもう来なくていいです。明日の予約のお客さんには私から連絡しておきます。焼き鳥は出せないけど、他の料理を出してしばらく繋ぐ。だから、もう、来なくていいです。お世話になりました。


こんな事、当時の常連さんが知ったら悲しむだろうと思う。でも当時は、毎日が精一杯だった。ギリギリだった。


自分の機嫌を自分で取る余裕さえ無かったのだ。


こんな事なら、店なんてやらなきゃ良かった・・・ヒロがいなければ、焼き鳥屋が成り立たない事は十分分かっていた。頼りにしすぎたのかもしれない。


でも、お客さんが来なければ、美味しい焼き鳥が焼けたとしても、無意味だ…そんな事も分からない男なら、もう別れる。と決心した。


そして私は、追い打ちをかけるようにヒロにこう言った

今までありがとうございます。別れましょう。お元気で、さようなら。私はオーナーとして、この店に関わった全ての人を、突然裏切るなんてできません。後は任せて下さい。お給料は清算して振り込みます。


ヒロは壁を蹴りつけ、激しくドアを開けて出ていった。


最終的に謝るのは、いつも・・・


翌日、Facebookにお店の業態変更と、ご予約いただいているお客さんへのメッセージをアップした。



オーナーとして、ヒロの限界を、考えてあげなかった事は悪かったと思う。でも、「店でヘラヘラしている」とヒロに言われた時に、こんな男とはもう付き合えない。そう思った。



Facebookの投稿を見た飲食店仲間が、心配してメッセージをくれていた。


返信をするか迷っている時にヒロから電話が入った。


Facebook見た・・・本気なの?


本気も何も、ヒロが言い出した事だ。私は冷静にヒロに伝えた。


私は、店でヘラヘラする事しかできないけど、主婦歴があるので、料理なら得意です。焼き鳥は焼けないけど、私は集客のノウハウを学びました。本気です。別れたんだから、もう連絡してこないでください。


少し沈黙があり、ヒロがこう言った。


本気じゃなかった。ごめん。あゆを困らせたかった。今日も店に行って良いですか?


内心ほっとした(笑)



でも、私はキツイ口調でこう言った。


私は、モノを投げたり、1人でイライラしたり、お客さんの粗探ししたり、スグにかっとなったり、そういう小さい人間とはやっていけない。でも、お客さんに迷惑をかけたくないから、ヒロか店に来たいならくればいい。でも、私たちは終わりです。

母を見ていたせいか、男が女性に向かって威嚇したり、怒鳴ったりするのがどうしても許せないし負けたくなかった。



ヒロは少し黙って、本当に悪かったと何度も謝っていた。もう二度としない。だから別れたくない。と



お互いに疲れているんだ、きっとそうだ。


そんな気持ちもあり、今回の件は仲直りする事になった。しかし、この後もちょくちょく小競り合いがあった。



何かある度に、最終的にヒロが謝ってきた。



その時はヒロが悪いと決めつけていたが、今思えば、私にも足りないところは沢山あったと思う。本当に今はそう思う。


でも…私がこの後、本気の本気で別れようと決意する事件が、起こるのであった。


つづく


無名の私の文章に興味を持ってくれてありがとうございます!今後の活動のための勉強代にさせて頂きます!私の文章が、誰かの人生のスパイスになれば嬉しいです。ありがとうございます!