見出し画像

第2章④ 決心と決断と運だめし

飲食店を開業してからというもの、ヒロとは喧嘩が絶えなくなっていた。それでも、休みの時は2人でのんびりと過ごし、束の間の幸せを感じていた。


お店にいる時も、なるべく喧嘩にならないように、ヒロにかなり気を使っていた。職人のヒロがいなければお店は成り立たなかった。


それを承知で、ヒロも頑張ってくれていたが、それが原因で傲慢にもなっていった。気持ちを分かり合えない時間が増えていった。


原因不明の八つ当たり


特にヒロは、私の関係者が来ると態度が悪かった。


最初は私の気のせいだと思っていた。でも、実際に嫌な態度は度々あった。私は地元にずっと住んでいるので、ヒロよりは知り合いが多い。


中学校や高校の同級生が来てくれたり、親、兄弟、娘たち、2番目の夫なども来てくれた。


2番目の夫はお店を借りる時の、保証人になってくれており、ヒロもそれは承知だった。元夫は私より9歳年上で、大手企業に勤めるサラリーマン、転職もしたことが無なく、社会的信用の塊みたいな人だ。



もちろん、私の知り合いの中で、私とヒロの関係を知っている人は、いなかった。親友とA子だけしか知らない事だった。



私の知り合いは、お店が終わった後に、私と少し飲みたいと思って来てくれている場合が多い。



気持ちは分かるし付き合いたいという気持ちもあったが、閉店後の片づけや掃除の事を考えると、座って飲んでその後が面倒だった。



それでも、たまの事だし、少しくらいお喋りもしたかった。



でも、そんな事は出来なかった。ヒロがドンドン機嫌が悪くなるからだ。



閉店時間になっても帰らない私の知り合いに、嫌がらせの様にBGMを切ったり、店内の照明をドンドン消して行ったり。



私が慌てて「店長、後は私一人で片づけて変えるから、もう上がって」と言うと


炭台の片づけできるんですか?!今まで一度もやった事ないクセに!いいですよ俺やるんで!好きにやってきてください!


これじゃ~みんな気を使って帰る(笑)



私の知り合いは、私がオーナーなのだから店の中では、自由が利くと思ってる。


それなのに、せっかく来たのに、あゆは冷たいよね…という意見はごもっともで、これを境に友達は減っていった。そもそも、何十年も会っていなかったのだから友人とは言えないかもしれない。


バイト不足の救世主現る


経営者とか店長って、お店の中ではリーダー的存在だと私は思っている。私たちのお店はそんなに大きなお店ではないけれど、最低3人いないと回せない。



宴会が入ったら最低4人は必要だ。



しかし、リーダーである店長のヒロが、自分の正しさを主張するのでバイトも続かない。



正しさより楽しさが大切だよ・・・バイトは特に褒めて伸ばす方がいいよ。と言っても、、、



そんな甘い気持ちで働くならやめちまえばいい!



って感じの、突然「昭和の頑固じじい」のような事を言いだす始末(笑)



ここまで頑固だと、怒りを通り越して笑いが出てしまう(笑)でも、そうは言っても、人がいないと店は回せない、入場制限をすれば売り上げは減ってしまう。



お客さんに楽しんでもらうのが、飲食店の醍醐味ではあるが、売上が少なければ、お店を続けられないのも事実だ。



そんな悩みを抱えている時に、私の娘、次女から連絡が入った。



次女は、某有名料理学校を卒業後、都内のフレンチレストランで働いていた。勤務時間も終わりが遅い為、店の近くに一人暮らししていた。



その次女から、シェフが高齢の為、店を閉店する事になり、我が家に戻るとの連絡はいったのだ。



私は返信で、スグにうちの店で働かないか聞いてみた。


「いいよ」


こうして、次女はうちのお店の看板娘になったのである。


仕込みもできる助っ人


次女は、店の常連さんに「お嬢」の愛称をつけられ、スグに可愛がられるようになった。



実は、ヒロも常連さんからは、とても可愛がられていて、「店長~若い子が入ってよかったね~!!あ、いつもママがいるから手出しできないね~(笑)(笑)」としばしば、からかわれる事もあった。



次女が来てからというもの、メニューも豊富になっていった。



マンスリーメニューを毎月2品出していて、焼き鳥屋なのにフレンチも出せる店という事で、若い女性やデートに使ってくれるお客さんも増えていった。



ヒロも、仕込みを綺麗にこなせる次女が来てからというもの、二人仲良く仕込みをし、少しだけ負担が減ったからなのか、明るさを取り戻していた。



しかし、まだまだこの時のヒロのマインドは酷いもんだった。


誰がいてもお構いなし


次女が来てから、3人の息はピッタリだった。



ヒロの機嫌さえ良ければ、満席の店内のお客様を3人だけで、手早く回せたのである。



大きな宴会が入ると、アルバイトに来てもらったが、仲が悪い3人の割には仕事はテキパキと出来た。



だた、ヒロがイライラしだすと話が変わる。お客さんかいても、次女や私に怒鳴り散らすので、私も次女の委縮してミスがでる。



更にヒロは不機嫌になる。



今思えば、常連さん達が心の広い人たちで、本当に助けられたと思う。ヒロが怒鳴ったあと、私がお客さんに謝りに行くと


店長は若いんだしさ!真面目なんだよ!わかるよ~俺だって若いころは熱かったよ~!!


店長さんはオーナーとお嬢に甘えてるんですよ~(^^)ホントの家族みたいでいいじゃないの~


こんな優しいお客さんがいてくれたお陰で、私はお店を続けてこられたのだと心底思っていた。


もう終わりにしよう


次女が来てから1年以上が経っていた。


お店も2周年を過ぎて毎日忙しくしていた。三女も高校受験を控えていた。毎日、店と家との往復で、受験生の三女とロクに話も出来ていなかった。



思春期の三女だったが、同居していた私の両親と、時々いざこざはあったようだが、不良になるような事はなかった。



深夜まで親が不在の家庭で、三女が真面目に生活できたのは、年が10歳ほど離れている長女のお陰だと思う。



進路の相談や勉強方法など、全て長女が面倒を見てくれていた。




私は、せっかく自分の店を持っているのだから、娘たちを店に呼んでたまには店で食事をさせようと思っていた。



その事をヒロに話すと、別に良いですよと答えた。店では次女がいる為、ヒロは私には敬語だった。




忙しさが落ち着いてくる時間帯に、長女と三女を呼んでいた。そして、次女を早めに上がらせて、3人で食事をさせる事にした。




オーナーとはいえ、娘たちの食事代は私が支払うつもりだったので、伝票に娘たちのオーダーを取って、ヒロに渡した。



ヒロは不機嫌だった。



なにが気に入らなくて不機嫌なのか聞いてみると、俺はパンダじゃない怒っていた。



なぜパンダか・・というと・・・



焼き台の前が、ガラス張りになっていて、客席から、焼いている姿が見えるのだ。そのガラスは、客席に熱や煙がいかない特殊なガラスなのだが、その説明を娘たちにしていた時に


パンダの檻もガラスだよね~人気者はガラスの中にいるんだよ~(笑)


私がこう言ったことが気に入らなかったのだ。



え?単なる冗談だよ。ヒロがパンダなんて言ってないじゃん。なんでそんな事でいちいち怒るの?娘たちが来ているのが気に入らないの?




私の知り合いが来るのがそんなに嫌なの?あなたの家族が来た時に、私がそんな態度取った事があった?



自分の家族だけに優しくするなんて本当に「マザコン」だよね



小声で精いっぱいの反撃をした。今までの我慢も限界に達していた。言わなくてよかった事かもしれないけれど、口から勝手に言葉がでた。



ヒロは店内に響き渡るような大声で怒鳴った。


うるせーーーーー!!!


私は驚かなかった。本当に頭に来ていた。私が三蔵法師なら、この男の頭に孫悟空と同じリング禁錮児呪(きんこじじゅ)をはめて、きつく締めてやりたかった。


営業中です。お客さんいますよ、よく考えて下さい。


冷静に私がそういうと、バタバタと大きな音を立ててオーダーの入った串を焼き始めたヒロ。



機嫌の悪い母親が、食器をガチャガチャ洗う時の様な、イライラが店中に伝わるような乱暴な音だった。



それでも、怒りが収まらないのか、ヒロは焼き台の後ろにある冷蔵を思いっきり蹴飛ばした。



ドカン!!



店内に物凄い音が響いた。



娘たちは唖然としていた。自分の実の父親でさえ、2番目の夫でさえ、怒鳴った事は一度もない穏やかな人だった。




乱暴な男性を見る初めてのは初めてだったと思う。




私は、ヒロの近くに行きこう言った「店終わったら話そう」ヒロは無視していた。



なんとか、その日の営業を終え、娘たちを先に帰し、ヒロに話しかけた。ヒロは無視していた。




無視をしても話し続けた。




二人の関係を秘密にしているから、私の家族にひどい態度なのか?なぜ、お客さんがいても自分のイライラを出すのか?いくつか質問した。なにも答えない。



私はずっと我慢してきた思いを伝えた。そして最後にこう伝えた。


もう、私はヒロと別れたい。そして、店は閉める事にしたよ。


ヒロは「勝手にしろよ」と言っていた。



何年も同じようなやり取りをしてきたから分かっている。頭に血が上っている時に何を言っても無駄なのだ。



そして、明日、冷静なるとこういうのだ「ごめん、俺が悪った」「別れえるなんて言わないで」「二人で頑張ろう」



ダメンズの典型(笑)




でも、今回ばかりは謝ってももう遅い。完全に私はこの男の、人間としての小ささに嫌気がさしていた。



更に1200万円も借金し、貯金も使い果たし、それなのに私の自由にならず、ヒロの顔色を伺う毎日。




それでも、いままで一緒にいたのは、店があるからだと思っていた。




だから、店さえ手放せば、もうヒロとの関係も必要なくなる。幸い、お店も人気店になっていたことで、借金もほぼなくなっていた。



私は早速に、店舗売却サービス会社に登録し、店を査定してもらっていた。この事は、ヒロにはまだ知らせていなかったが、私の条件は店舗を作った時の費用の約半額で売る事だった。



当時の店舗売却の営業マンには、こんな高い金額では売れないと言っていた、200万円が限界だろうと言われたが、私はこの3倍の金額で売れたら店を手放そうと決心していた。



運を天に任せてみたかったのだ。



とはいえ、営業さんにはこの金額では絶対に売れない。不可能に近い、もっと安くしろと言われていたのだ。



この事を、今、頭に血の上っているヒロには話す事はできない。冷静になった時に、次女とヒロに「私抜きで2人で店を続けるか?」それとも「店を手放すか」を確認してから、物件を売る話しをしようと思ってる。



しかし…この話が、思わぬ方向に急転回する事を、私はまだ知らなかった。


つづく


無名の私の文章に興味を持ってくれてありがとうございます!今後の活動のための勉強代にさせて頂きます!私の文章が、誰かの人生のスパイスになれば嬉しいです。ありがとうございます!