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嘘つきになった


小学生の頃
「みさきちゃん(私)はすぐに人の秘密をバラすから、みさきちゃんには何も話してはいけないよ」
という子供ながらの注意喚起がクラス中に広まった。

私は全く心当たりがないので仲の良い(と思っていたが今考えると一方的な気持ちだったのかもしれない)友達のヨルちゃんに一体何が起こっているのか聞いてみた。
するとヨルちゃんから不思議な話を聞いた。

「みさきちゃんに私の体重を教えたじゃん。あれ、秘密だったのにみんなに言ったでしょ。」

私の頭の中は“はてな“でいっぱいになった。
私はヨルちゃんの秘密を誰かに言った覚えはないし、そもそも私はヨルちゃんが言うその秘密とやらを知らないのだ。
知りもしないことを一体どうやって言いふらすというのだ。
そして秘密を知っていようとも、ヨルちゃんの体重に興味を持っている人がいてその人とヨルちゃんの体重の話をして盛り上がりたいなどという思考を持ち合わせていないので、絶対に有り得ないと私は思った。

「私言ってないよ。」

そう伝えてみたが、

「そんなわけないよ。みさきちゃんにしか言ってないもん。」

と返されてしまった。
おいおい、ヨルよ。嘘つきはきみではないか・・・と思いながらも当時子供だった私には上手く弁護出来ず、一時期「秘密をバラす、嘘つきなみさきちゃん」と化したのであった。

どれくらいで「嘘つきみさきちゃん」が終わったか覚えていないが、ナイーブな時期でもあったのでかなり嫌な思いをした。
みんなで輪になって話しているところに私が入ると不自然に静まり返ったり、面白がりながら別の話題に切り替えたりして、私にだけ知られないように「秘密の話」をみんなでしていた。
みんなで「秘密の話」なんかをしたらそれはもう秘密ではないだろう、なんて馬鹿馬鹿しいんだ。そう思いながら耐えて過ごした時間はとても長く感じた。

何も知らない私が嘘つきになる謎の現象。
今までやその後のヨルちゃんの言動を見ても、どうやら私を恨んでいるとか、嫌っているなどという風には思えなかったし、ヨルちゃんは控えめな性格の子だから例え嫌いだったとしても、その感情で人を陥れようと思うようには見えなかった。
だからきっと本当に誰か違う子と私を勘違いしていたのだと思う。

じゃあその勘違いされて何も言われず済んだ、真の「秘密をバラす、嘘つきちゃん」は誰だったのだろう。
もしかしたら、その子もその子で、当時は罪悪感で押し潰されていたかもしれない。または「よかった」と安堵していた可能性もあるが。



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