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井の頭自然文化園に行った話の続き

さてとうとうお待ちかねのリスの小径に足を踏み入れることになった。

『リスの小径』はリスが放し飼いされている大きな檻の中にニンゲンが入らせていただく、というもので、心配していた「リスが引き上げてしまう」というのは檻の中にニンゲンが入れる時間が16時半までということで、わたしが想像していたペーターの指笛でリスがぞろぞろ集まって秘密の通路を通って夜用の檻的なところに帰っていくものではなかった。それはそれでちょっと見たかった気もするけど。

二重扉の上、係員さんもいて、リス逃すまじという東京都の心意気を感じる。
靴の裏をきちんと消毒してわたしたちはとうとうリスの小径に入檻した。

リスがいますよ

そこかしこにリスがいる。
あっちからもこっちからも縦横無尽に走って来てはどこかに消える。

想像以上にリスの動きが速い。撮影しようとずっとスマホをむけているのに見失ってばかりいた。
「どこ?!」「あ!リス!」「どこ?!」「リス!」「リス!」
わかっとるわ!と突っ込みたくなるようなことを100万回くらい言った。

わりとはっきり写っている

ただ中にはサービス精神旺盛な個体もいて、まるでお立ち台のような場所でカリカリカリカリとずっと胡桃に歯をあてているリスがいた。たまたまそのアリーナ最前列にいたのが赤ん坊を抱えたお父さんで、リスは撮りたいリスと赤ん坊のツーショも撮りたい動画も撮りたい赤ん坊にもっと近くでリスを見せたいとこの世の欲望をすべてひっくるめたような状態でてんやわんやになっていた。

サービス旺盛リス


赤ん坊は最初こそ「あー」だの「うー」だの言っていたが、なんせリスが動かない。ひたすらカリカリ胡桃を噛み続けているだけで大きな動きがない。
赤ん坊は飽きてぐずり始めたのに父は動かず、ひたすらリス(と、我が子)にカメラを向け「〇〇ちゃーんリスさんだよ〜」と譫言のように何度も言い、その後ろでお母さんはスマホをいじっていた。多分こっちも飽きている。
わたしも含めアリーナ後列は(ちょーっとそろそろどいてくれないかなー)という空気を醸し出しているのに、父には通じなかった。まあいい、リスのフンを踏んだことに気づかずスニーカーの底の溝にしっかり埋まって帰宅後玄関がいつまでもほんのり臭くなりますようにと小さな呪いを彼にかけてわたしはそのまま進んだ。

休憩リス

あげ子はしゃがみ込んだりあっちこっちへ移動したりしてアグレッシブに撮影していた。楽しそうで何よりだ。
突然、わたしとヒヨコの横にいたペラペラのポリエステル100%ワンピを着用なさった20代女子が隣の男子に「リスってネズミ?」と聞いた。
え?と思う間も無く「リスって猿?」と声は続いた。
おおおおお……動物園の根源を揺るがす質問だ。
ネズミはまだなんとなくわかる。わかる??わかるというか、まあ系統としては。ほら手とかネズミっぽいといえばネズミっぽい。でも猿はなかろう、あ、でもリスザルってのもいるしな、ああでもきっと彼女はそんな答えが欲しいわけじゃない。
何て答えるのかなと思って動かずにいたのに彼は答えなかった。
そんなこともわかんないのかよ〜かわいいやつめ!と思ったのか、不思議ちゃんアピールかよと思ったのかわからない。もしそうなら別れの予感@テレサテン。それとも彼もわからなかったのかもしれない。
リスはカンガルーだよ、お嬢さん。ほら尻尾が大きいとことか似てるでしょう。

50枚に一枚くらいこーいうラッキーリスが撮れている。

あげ子がずっとSNSで見て楽しみにしていたリスの小径はとてもとても良かった。きっとあと1時間はいられる、ベンチでもあれば。でも当然ながらないので後ろ髪引かれまくりのあげ子をせき立てながら檻から出た。

リス尻
ヘイ!尻!
リス、いるはずなんだけど
たまにいるぼんやりさん

近くの鳥舎では木の枝の奥に潜んでいたフクロウだったか野鳥をいないいないと騒いだ挙句ヒヨコが見つけ、おーーと感心していたところでちょうど隣にいた推定四歳男児に「どこ?どこにいる?」とナチュラルに聞かれたので、「ほーらあそこだよ」と自分の手柄のように得意げに教えて承認欲求を満たした。

ところで井の頭自然文化園には動物園だけではなく彫刻館というのもあった。
彫刻家・北村西望の作品が展示してある。お口ポカンとなるほど馬鹿でかい作品がある館内の撮影は禁止なのだが、外にもいくつか展示があってそれは撮影できる。

ハマの番長

「わ、リーゼントやん」
「ハマの番長!」
「ハマの番長なのに…」

ジャイアンツ

「わ、めっちゃ長い槍持ってる」
「本田忠勝か」
「……知らない」
「知らんのか、大河見てなかったの?去年の」
とか言いつつトントゥ(フィンランドの妖精)みてぇだな、と思っていたら、作品名を見たヒヨコが大声を出した。
「わ!キヨ!!」
ヒヨコが大声を出すのも大概珍しい。あげ子もヒヨコも比較的もちょもちょ系だ。大声出すのはおれだけか。
ん?キヨ?ヒヨコが興奮するキヨといえば。
「え?加藤清正なの?このトントゥ」

キヨとヒヨコ、略してキヨコ

加藤清正だった。

「こんなところでキヨに会えるとは!」

多分今日イチの興奮を見せるヒヨコ。ヒヨコは名古屋に来るたび早朝の名古屋城に行って加藤清正像を撮影してLINEのグループトークにアップするのだった。キヨに会うためにだけ名古屋城に行くヒヨコ。そして今回もキヨと会えた、とちょっと嬉しそうに言うのだが、そりゃ会えるだろうよ。キヨは動かない。名古屋城ですらこんなんなのに、熊本城に行ったらどうなるんだろう。それともヒヨコはキヨ自身が好きなのではなく、像としてのキヨが好きなんだろうか。像としてのキヨってなんだよ、キヨって呼ぶな。

お気に入りの画像

ああ他にもおもしろいことあったのにどんどん忘れ去ってしまうこの灰色の脳細胞がにくい。
井の頭公園にも寄って久しぶりに弁天様にご挨拶しようとしたらもう閉まってたとか、おしゃれなアジアカフェに行ったら白菜みたいな生春巻が出て来ておいしかったとか、そのカフェは犬OKだったけどわたしたちが出た後、中からぐったりしたワンコを抱いた人が出て来て3人で心配してしまったこととか。
この日はとても暑かったのだ。
なのに吉祥寺には昼間から犬を連れて歩いてる人が大勢いた。
それを見かけるたびわたしたち3人はむっとした。それぞれ事情があるのかもしれないけど、こんな暑い日の昼間に犬にアスファルトの上を歩かせることをヨシとする事情なんか絶対にないと思う。靴履かせてた人もいたけどそんなことするくらいなら日が落ちてアスファルトに手を当てて熱くないのを確認してから散歩しろよ。

と、ぶぅぶぅ言いながらわたしたちはそれぞれの帰途についた。
ベリーハードな1日だったけど楽しかった。
遠足の終わりはいつも同じ感想になっちゃうね。

トーチみたいでもある


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