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結婚指輪

 結婚してもうすぐ三か月になる頃、宝石店から手紙が届いた。夫と一緒に結婚指輪を買った店だ。

『ご購入からもうすぐ三か月が経ちます。もし、指輪をお持ちいただければ、感謝の気持ちを込めて、無料で、リフレッシュ(磨いて傷を消します)させていただきます』

 夜、仕事から帰ってきた夫に、
「ねえ、今度の休みに行ってみない」
と言ったら、
「うん、いいよ。行ってみよう」
と言った。夫の左手の薬指にはシルバーのマリッジリングがはまっていたが、新婚旅行の頃よりは傷がついてくすんでいるような気がした。

 夫と並んで店内に入ると、
「いらっしゃいませ」と店員の方たちが気持ちよく出迎えてくれた。
「先日、お手紙をいただいて、結婚指輪のリフレッシュをお願いしようかと思ってきたんですけど」と言うと、若くて綺麗な店員の方が、
「ありがとうございます。リングはいったんお預かりしまして、三日後には出来上がります。よろしいでしょうか」と言った。
 あ、この場ですぐ磨いてくれるわけじゃなかったんだ、と思いながら、夫に「せっかくだし、いいよね」と話しかけた。
 すると、夫は「うーん」と浮かない顔をして、薬指の指輪を触っている。

 そのとき、若い店員の先輩格に当たる綺麗な店員の方が、
「まあ、もしかして、ご主人様は結婚指輪を片時も外したくないってことなんじゃないかしら。すてき」
と言った。
 夫は顔を真っ赤にして、
「え、まあ、そのとおりです。なんだか恥ずかしいな。はっはっは」
と笑った。
 二人の綺麗な店員も一緒に笑った。わたしも、笑った。
 世界中の人と一緒に、笑った。











 



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