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挨拶が“横行”……?

「挨拶をしてはいけません」
そう言われたら変だと感じる方は少なくないでしょう。我々は子どもの頃から挨拶は大切、挨拶がコミュニケーションにつながると教わってきたのですから。
(今時は防犯上、子どもが外で知らない人に挨拶しないように、というのはあるかもしれませんが、それは置いといて……)

けれども、特定の業界に向けて、挨拶を否定する文脈の記事が出てきました。

【今なお横行 バス運転中のあいさつ】
バス運転士がバス同士のすれ違いの際に挙手をして挨拶するという危険行為が未だに横行している、という記事です。

まずこの記事を目にした時に“横行”という文言に引っかからずにはいられませんでした。「悪いものでしかない習慣が続いている」という前提がなければ書かれ得ない文言です。

大前提として、運転士が挙手に気を取られてしまう状態は危険です。挨拶以外のこともジェスチャーでやり取りしようとして、わき見運転になって事故に繋がったというケースも存在します。挨拶を超えたコミュニケーションに発展して気を取られないために、表向き挙手禁止とされることには納得がいくのです。
しかし、挙手は挨拶です。バス運転士という仕事は1人で運転をし続ける孤独な仕事でもある反面、実は周囲のバスと連携をとってスムーズな運行を進めるチームプレーな面もあります。挨拶を「しなくてもよい」ではなく「徹底的に禁止」ともなれば、運転士同士の関係がどうしても殺伐とし、連携が上手くとれないこともあります。また、孤独な仕事の中のほんの束の間の仲間とのやり取りで、元気を取り戻したり気を引き締め直したりということが出来るのです。
挨拶は営業所内のみですればいい、と思われるかもしれませんが、全員が毎日違う時間に動く仕事ですから、営業所内では滅多に会えない人も出てきます。少なくとも今日初めて会う同僚に何の挨拶もしないで通り過ぎるなんて、良識的に無理じゃないですか?

挙手は片手運転になるから危ない、という意見もたまに見ます。が、ハンドルから一瞬も片手を離せないようであれば、MT車のシフトチェンジも不可能な上、運行中に必要な機器の操作もできません。片手運転になるからという切り口で論じるのはあまりにも無理があります。

それでも挨拶の挙手を禁止された時、多くの運転士は代わりに会釈を始めます。やっぱりすれ違いざまに挨拶無しで通り過ぎるのは心が痛むのです。
ところが、ここであれ?と感じるのは運転中の視野の問題。挙手は運転中の視野を保ったまま横目で見れば済むのに対し、会釈は頭を下げる瞬間に必ず目線が下がり視野が狭くなるのです。自分自身、職場で挨拶の挙手禁止と言われ会釈をしてきましたが、会釈の方がかえって危ないのではと体感しています。だからこそ、今までは挙手という形の挨拶が、最も運転に差し障らない挨拶ということで自然と編み出され続けられてきたのではないでしょうか。

話を最初に戻して。これでもバス運転士の挙手を“横行”と呼べるのでしょうか。
今まで挨拶の挙手が広く根付いてきただけに、職場に挙手を強制する空気を生まないため挙手禁止を掲げることには意義があるとは思います。先に書いた通り、挙手に気を取られれば危ないのは事実です。
しかし、挙手という行為そのものを絶対悪のように扱われるのは納得しかねます。先の記事では挙手のみならず会釈にまで言及され、もはや挨拶というコミュニケーションを否定するかのような内容もありました。挨拶ほどごく簡単に人間関係の潤滑油になるコミュニケーションは無いと思うのですが、それを頭ごなしに禁止されれば職場環境は悪くなる一方に違いありません。だからバス運転士は現場で、安全な範囲で最も安全な形を模索して挨拶を続けようとするのです。
挙手を絶対悪のように語る人には、今一度現場の事情をよく理解した上で語っていただきたいものです。

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