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小松随三
2024年3月28日 01:20
私はこのように聞いた。 横たわる青年の腋に山河がある。胸から腹の肉の筋は弓弦のように引き締まっている。その髪は月のさらわれた夜よりも黒々としていた。 絨毯から体を起こし、シッダールタは饗宴のなかを歩いて行った。足もとでは酔い潰れた女たちが手や脚を絡めて寝息を立てている。群青や紅の着物は輝かしいけれど、はだけた肌は酒や果物をまぶして嫌な匂いがした。 シッダールタは妻の姿を求め、女たちを踏まな
2024年3月14日 21:55
酒を飲んだ帰り道、中央線の車内で口論になり、男の顔を思い切り殴った。 男は警察に連れて行くと喚いた。T駅のプラットフォームに降りた中年の背中を蹴り上げると、取っ組み合いになり、私から二、三発殴り、頭突きを入れた。男の口もとに鮮血が滲んだ。 なにか大声で抗議して、私に血を飛ばしてくる。喚くなと言うと、腹いせに血の混ざった唾を吹き掛けてきた。私のシャツに粘度のある、赤いまだら模様が浮かんだ。黒い
2023年11月17日 23:12
彼女と会ったのは、鉛のように重い、雨の日の午後だった。 上司に指示されて、S駅の東口から少し離れた〈レアリア〉というカフェで彼女の訪れを待った。 店内は挽いたばかりの豊かなコーヒーの匂いがしたけれど、カフェインの受け付けない女性を相手にしたことがあった。 結局、私はジンジャーエールを口にしながら、出入り口に目の届く席に座り、女性を待ち構えているのでもなければ、リラックスしているのでもない姿