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お寺の事業にも逆算の視点を

前回の記事では、江戸のお寺で行われていた、意外な事業について紹介しました。
なぜ、寺がこれらの事業を行なっていたかというと堂宇を維持するための”資金繰り”が大きな目的ということでした。

翻って、現代の日本のお寺はどうかというと、お寺のハードの維持に最も苦心するという点では、江戸のお寺と同じ状況であると思います(規模の大小はありますが)。

今後の、お寺で事業を行う際に大切だと考える”逆算思考”の必要性について書いていこうと思います。



令和のお寺のハード絡みの事業事情

身の回りで、お寺のお堂の建て替えや修繕をする話を見聞きしますが、資金に関する苦労の話が以前に比べて多くなっているように感じています。理由はいくつか考えられます。

建築コストの高騰

一つ目は近年の建築コストの高騰です。こちらの問題においては、当然寺院建築も例外ではありません。ウッドショックや人材不足などによる、大変なコストアップが現実として突き付けられていると聞きます。数年前に本堂改築を計画している方から「10年前の倍くらいのコストで考えないとならない…」という話をため息まじりに聞いたことがありましたが、そこからさらに時間が経った現在では、さらに深刻な状況になっています。


一昔前のようにはいかない寄付集め

一昔前は、お寺で本堂を建て替えるなどの大きな事業をする際には、「お寺のことなら…」と協力していただける檀家さんが多くいました。しかし、昨今の経済状況や世代交代などによる寺との関係性希薄化によって、お寺が寄付を集める難易度は格段に上がってきています。
「うちの寺では寄付は一切集めません」ということを高らかに宣言している寺もみられます。
クラウドファンディングによる新しい寄付集めの手法もありますが、普通のお寺では、話題作り程度に実施することはできても、堂宇の建築にかかる期待ができる規模の資金を調達することは「絶対無理!」とは言いませんが、かなり困難で再現度も低いでしょう。


お寺の事業にも逆算の視点を!

事業の逆算開発については、まちづくり専門家の木下斉さんの記事が詳しいです。

このような考え方を踏まえて、寺院においてはどう考えていけば良いのか考えていきます。

目標金額ありきの事業

これまでのお寺において、大きな資金が必要な堂宇の建て替えのような事業はどのように行われてきたかというと

①どの程度の規模でどのようなお堂にするのかという計画を立案

②見積もりを実施し、目標金額を設定

③その金額に向かって、寄付を集めていく。
(「檀家1軒あたり◯◯万円お願いします」というような形)


上記のように、完成形の成果物ありきで、そこに向かって寄付などで資金を集める形で進められてきました。しかし、すでに述べた通り、このような事業の進め方は現在では難しくなってきています。

現実的な資金計画のもとで事業(改築・修復)を作る

では、どういうやり方が考えられ得るかというと。現状として現実的に用意できる資金について最初に目処をつけ、その範囲内での事業を行うということです。

資金集めについては、決して寄付を否定する必要はないと思います。むしろ、できる範囲での寄付(布施)をいただくことは檀家さんなどのお寺の関係者には進めるべきであると私は考えています。銀行からの借入はなかなか普通の寺院では難しい状況もありますが、それについても検討する必要があります。
その他、新築・改修の実施によって付随させることができる、収益性が見込めるような事業があれば、それらも前向きに検討していくなど、今まで寄付一辺倒だった資金計画にもっと多様なリソースを検討していっても良いのではないかと思います。その点、江戸のお寺のバラエティに富んだ施策を見ると、当時の人たちの必死の思いが伝わってくるように思えます。

そして、その資金の範囲で、新築するのか、改修工事にするのか、それぞれその場合の規模は?使う工法、材料、仕上げ、装飾などなど、事業の具体的な内容を組み立てていくのです。いわば、今までとは全く逆のやり方で事業作りをしていくのです。そして、この時に忘れてはいけないのが、完成後にかかるランニングコストの視点と数十年間隔で必要になる修繕のコストも合わせて考えることです。



それでも大変な寺院が地方にはたくさんある

ここまで、これからの寺院の事業作りの手法について、今まで通りの成果物ありきではなく、元手となる資金計画を現実的に作った上で、その範囲で事業を行うという手法について述べてきました。

しかし、地方の檀家の少ない寺院では、そういった手順でまず資金計画を作る過程の中で「これはもう何もできない」というケースも出てくると思います。
その時はそのお寺の存続について住職と檀家で本気で考えるタイミングだと言えます。当事者にとってはつらい決断を迫られることになりますが、未来へ向かって残すべきなのか、それとも統廃合するべきなのか、それとも別の道があるのか、ということを考えて先送りしない答えを出さなければなりません。

規模の大小はあるといっても、それぞれのお寺にとって最も大きな事業である、堂宇の建て替え・改修のタイミングは、お寺の将来と真剣に向き合う機会であるともいうことができます。今は心配がいらないというお寺でも、数十年先にはそのようなタイミングが必ず控えています。
その時になって、考えることも大切ですが、その時が来ることが分かっているのだからそこへ向けて、今ここでは何をするのかということが、一人一人の住職に問われているのだと思います。

「寺院経営」という表現を忌避する方もいるかもしれませんが、いろんな解釈があると思いますが、私は寺院における経営とは「目的を達成し続けるために、持続可能なお寺を作ること」だと考えています。

今後は今まで以上に、寺院経営と逃げずに向き合っていかなければならないと、強い危機感とそれゆえのやりがいを感じている今日この頃です。

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