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ハリウッドストライキ(2023)について vol.1

 全米脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが長期化しています。
 当初からこのストライキがその可能性にあったことは示唆されていましたが、現在も終結の見通しは全く経っていません。
(と書き始めたら代案が出てきたようです。)

 日本ではこのストライキについての報道が少ないこともあり、その情報について自分なりにまとめてみます。


用語

WGA(全米脚本家組合)

 'Writers Guild Association'の略。「ダブリュージーエー」と読む。

SAG-AFTRA(全米俳優組合)

 'Screen Actors Guild and American Federation of Television and Radio'の略。「サッグアフトラ」と読む。
 正確には、「映画俳優組合と米国テレビ・ラジオ芸能人組合」で、元々別組織だったものが、2012年に統合された。

AMPTP(全米映画テレビ製作者協会)

 'Alliance of Motion Picture and Television Producers'の略。「エムピーティーピー」と読む。
 今回のストライキの交渉相手。ほとんどの映画会社が加盟しているが、前回アカデミー賞の作品賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オールアットワンス』のA24は加盟していないため、今回のストライキの影響は若干少なめ。

レジデュアル(再使用料)

 作品が再上映・テレビ放送・DVD化される都度、その作品に関わった監督・脚本家・俳優などに支払われる「再使用料」のこと。

MBA(最低基本協定)

 Minimum Basic Agreementの略で、「最低基本協定」のこと。
 詳細は、WGAのサイト参照(注:英語)

これまでの主な出来事・経緯

2020年5月2日

 MBAが脚本家の仕事のほとんどを対象とする'CBA'(労働協約:Collective Bargaining Agreement)となる。

2023年3月

 WGAがAMPTPとの交渉を開始

5月1日

 MBAの契約が破棄される

5月2日

 WGAが2007年以来のストライキを開始

7月14日

 SAG-AFTRAが23年ぶりのストライキを開始

8月11日

 WGAがAMPTPからの対案を受領し、その内容の確認に入る

'MBA'について

 MBAはテレビや映画の最低報酬を決めるものでしたが、テレビはあくまでテレビ"放送"であり、動画配信は含まれていませんでした。
 これはレイトショー番組の比較により判明します。

 例えば'The Problem with Jon Stewart'の作家たちはこのMBAの対象でなかったために、彼らの報酬について個人的に動画配信会社(この番組の場合「Apple TV+」)と交渉しなければならず、同等の仕事であるCBSの『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』に劣る報酬しか支払われていませんでした。

 別のカテゴリーにおいてもこれが真実とわかり、5月1日にMBAが契約破棄されることとなります。

WGAの主張・要求

レジデュアル(再使用料)

 WGAは、以前に比べレジデュアルが減少したと訴えています。

AI(人工知能)

 WGAは、ChatGPTに代表されるAIの使用をあくまでリサーチやアイディアを脚本にする手助けをするに留め、脚本家を代替するツールとしては使わないことを求めています。

 "この脚本家を代替する"ということについて、脚本家のC・ロバート・カーギルは、「AIのコンテンツに代わることは当面の懸念ではなく、そんな"ガラクタ"を書き直すために低賃金で働かされることが(WGAが)反対していることであって、スタジオが求めていることです。」とtweetしています。

その他

 その他WGAは、「人員配置」と「雇用継続の確保」について契約に含めることを求めています。
 これはすべてのショウにおいて、一定数の脚本家と労働時間を求めるものです。

 年金と健康保険の確保についても主張していますが、AMPTPはこれを拒否し、代替案も提示していません。

解説

 この問題のはじまりは、動画配信サービスの台頭です。

 例えば公開が終了した映画はこれまでテレビ放送やDVD化の都度、レジデュアルを得ることで報酬を得ていましたが、動画配信では再生回数に応じた金額ではないそうです。

 知らなかったのですが、動画配信サービスは、作品ごとのアクセス数を公表してないそうです。
 そのため明確な基準がわからないまま支払いを受けていたそうで、いつの間にか「うわっ…私の年収、低すぎ…?」という感じになっていたんでしょうね。

 さらに配信サービスごとの独自コンテンツは、そのプラットフォームでしか配信されないものもありますから、DVD化などされなければさらなるレジデュアルは入ってこない、と。

 アクセス数を非公開にしているということは、これが明確になれば支払う報酬が増えてしまうのでしょう。

 一方、動画配信サービスからしてみると、成長が鈍化していて、ブイブイだったころと比べると経営は悪化していそうです。

 リストラも進んでいるようです。

 自分は人事をやっていたくせに、人事評価制度、MBO、OKRなどについて懐疑的(人事評価シートを書いている時間とか無駄)で、うまくいっているように見えるのって、ただ売上が順調じゃないだけじゃね?と思っています。

 NETFLIXはこんな本まで出していたのに、待っていたのはレイオフです。

 まぁ、この本では「いらん従業員は解雇」と言ってますし、「定期的な人事評価しません」とかは自分の考えと近いものもあるのですが、単純にダサいなと思ってしまいます。(結果論なのですが)

 ちょっと話は逸れましたが、そんな感じで動画配信会社も岐路に経っていることは確かです。
 なので「脚本家たちの要求に応えてたら自分たちが危ない!」ということはわからんでもないです。

 一方で経営者たちは多額の報酬を得ているというのがWGAの主張です。
(昨年のNETFLIX幹部への報酬は1億6600万ドル以上とのこと)

 MBAの対象外であったことを逆手に取って報酬を減らしていたり、配信に応じた報酬を払っていなかったり、ピケの妨害のために木陰を作っていた並木を剪定したり、映画会社の幹部が「家を失うまでストライキを長引かせる」と発言したり、マジでEvilだなという感じはします。

 が、最初はアカデミー賞授賞式でスマホで動画を見るひとたちをバカにしていたのに、NETFLIXが潤沢な制作費で賞レースを荒らすようになり、有名監督もその制作費から配信会社にすり寄ったり(セクハラ問題で一方的に契約解除になりましたが、ウディ・アレンとAmazonとか)、ハリウッドの救世主扱いしていたこともあって、都合いいな〜と思うところもあります。

 SAG-AFTRAのストライキとその他の問題(AI)についても書くには分量がすごくなってきてしまったので、また改めて。

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