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「『ツイクスト』の権利をめぐって」についていろいろ書いてみた。

前回のノートについて起きたことについての報告並びに謝辞

前回のノートでは、『ツイクスト(TwixT)』を差し置いて『チーキィ』の近況を書きました。結果、プチバズ発生しました。
・Twitterのリツイート20以上
・Twitterのいいね50以上
・ノートの閲覧数700以上
これが、ノートをあげてから24時間で起こったことです。ちなみに、今まで閲覧の多かった「みんなが「紙ペンゲーム」と言うから忘れがちな「ロールアンドライト(Roll & Write)」について長々語ってみる。」でも、通算300くらいでしたので、2倍以上ですね。
本当に、TableGamesInTheWorldと『チーキィ』の惹きつける力に感謝いたします。ありがとうございます。拝読いただいた皆様にも感謝いたします。ありがとうございます。

では、本件に入ります。

『TwixT』騒動の元ネタ

TableGamesInTheWorldでは、2回記事にしています。

この騒動なのですが、実はBoardGameGeekの『TwixT』のフォーラム(掲示板)で、その様子が読めます。というか、このフォーラムでの騒動だったりします。

まず事前情報としてふたりの人物をあげます。

ウェイン・ドレザル(Wayne Dolezal)さん:
アメリカの『TwixT』の期限切れとなった登録商標の権利を取得して、『TwixT』を再販するために動いた人。騒動の張本人。

マイケル・カッツ(Michael Katz)さん:
『TwixT』を作ったアレックス・ランドルフ(Alex Randolph)さんの甥で、現在『TwixT』の(オーストリアの)著作権を譲渡されて所有している人。

あと、間接的重要人物をもうひとり。

デビッド・ブッシュ(David Bush)さん:
twixterというネームで『TwixT』のフォーラムに自らも多数のスレッドを立ち上げるTwixT大好きおじさん。しかし、「Mind Sports Olympiad」のTwixT部門で、2005年、2006年、2010年に優勝している。アーネスト・ホーストばりに「I'm three time TwixT champion.」と名乗れる超実力者。でもやっぱりTwixT大好きおじさん。


まず、ドレザルさんは、2017年8月12日に「You think you know who owns the Rights to TwixT? You are Probably Wrong….」(タイトルを翻訳すると「誰がTwixTの権利を所有しているのか知っていると思いますか? おそらく間違っている…。」 )、その翌日13日に「 TwixT: 55th Anniversary Edition Coming to Kickstarter, January 16, 2018」(タイトルを翻訳すると「TwixT:55周年記念エディションがKickstarterに登場、2018年1⽉16⽇」)のスレッドを立てます。
最初に立てたスレッドで、ドレザルさんが『TwixT』の登録商標を持っていることを表明して、翌日のスレッドでは現在製作中の『TwixT』の報告(プロトタイプなどの写真もある)をして実現性を強調しました。

騒動の舞台となったのが12日に立てたスレッドで、400超の発言数で17ページにわたります(実際は、茶々入れや脱線、削除もあるので2割以上は屑発言かも)。話題がひとつながりではないので、Google翻訳しても読むのは正直疲れます。

騒動に関する情報(年表仕立て)

騒動をまとめるよりも、まず関連となる情報をピックアップしたいと思います。スレッド内では、ことの流れを年表にしていた発言がありましたので、それに倣って、追加しつつ書き出してみます。

【1957年】
ランドルフさんが、オーストリアで『TwixT』がペンと紙のゲームとして発明。(ここで著作権が発生)

【1961年】
「ゲームのアイデアは確かにそのような著作権の保護を受けないが、ゲームのルールは、文書として保護されるものである。ただし、十分に独自性のあるとみなされることが条件となる。この独自性は、単に表現に基づくものではなく、独自の知的活動に帰せられる思考様式から生じる」
(これはドイツ連邦司法裁判所で出された「ロトゲームのバリアント」への判決。なので、この判例が1957年『TwixT』にどこまで当てはまるかを考えなくてはならない)

【1962年】
ランドルフさんは3Mでゲームを制作し、3Mは『TwixT』の物理版の著作権を1962年11⽉9⽇に取得。
(これはアメリカでの出来事なので、アメリカ本国の法律に則っての取得ということのようです。)

【1976年】
アバロンヒル(Avalon Hill)から『TwixT』発売。
(アバロンヒル版の箱には1976年の著作権記載がありますが、実際には元の著作権の⽇付(1962年)は延⻑されていない、とのことです。おそらく3M版の著作権からの使用という見解がとれます。)

【1979年】
シュミット(Schmidt Spiele) から『TwixT』発売。
(以降、1985年にアルガ(Alga)、1990年にクレー(Klee)、1990年にセレクタ(Selecta)から発売された)

【1989年】
アメリカ、ベルヌ条約を遵守するという「ミニマリスト」アプローチを
採⽤。その⼀環として、⽶国以外から発信された作品の著作権登録の要件を廃⽌。
(ただし、3M版の『TwixT』の著作権は⽶国にあると判断すれば、廃止せずに3Mに残ると考えることができる)

【1991年】
アメリカでの『TwixT』の著作権を更新しない。よってアメリカ内ではパブリックドメイン扱いとなる。(どうも1962年に取得したときの法律では、28年経過すると継続するには「手動更新」が必要で、手続きしないと著作権が失効されるとのことです。)

【1998年】
コスモス(Kosmos) から『TwixT』発売。
(ただし、このときの著作権はアメリカのものか、オーストリアのものかは不明。おそらく今回の騒動で1957年に取得の事実がわかったので、アメリカのほうかも知れません)

【2004年】
ランドルフさん死去。彼の遺産は妻であるガートルードさんへ。
(なので、オーストリアの『TwixT』の著作権もガートルードさんが所有)

【2005年】
アメリカの『TwixT』の登録商標の所有者であるハズブロ(Hasbro)は、更新の手続きをしなかったので、2月に放棄される状態となる。

【2006年】
アメリカの『TwixT』の登録商標は、2月にウイニングムーヴ(Winning Moves)が取得して所有者となる。しかし、2007年11月に放棄する。
(ウイニングムーヴ社ですが、ランドルフさんが共同設立したそうで若干関係があるらしいです。放棄した理由は、もとの所有者と取引があったのでは、とドレザルさんは推測していますが推測ですからね。)

【2007年】:「TwixT」の商標は、最後の所有者であるWinning Moves(2006年2⽉から2007年11⽉まで登録)によって放棄されました。

【2008年】
12⽉12⽇、ガートルードさん死去。権利は甥である、マイケル・カッツさんに渡る。
(したがって『TwixT』の著作権の所有者はカッツさんになる)

【2013年】
9⽉23⽇、カッツさんは、ジーマンゲーム(Z-Man Games)と『TwixT』の発⾏に関するライセンス契約に署名。
(ドレザルさんの言い分だと、「ランドルフさんの遺族は『TwixT』に対してのアクションを何もしていない。だから私がアクションを起こした」とのことです。この点については後でまた話します。)

【2015年】
9月20日、『TwixT』は発売できないままライセンス契約満了。
(契約期間中に、Z-manはアスモデー(Asmodee)に買収されてしまったため、計画が頓挫したそうです。カッツさんはその後、TwixT大好きおじさんこと(いや、これは自分が勝手に付けただけですが)ブッシュさんとコンタクトを取って、新たな『TwixT』出版のための情報などを得る行動をしていたそうです)

【2017年】
ドレザルさん、『TwixT』の商標を申請して取得。8月にスレッドを立ち上げて公表。
カッツさん、2月にカナダの出版社と『TwixT』のリリースについての交渉。
(うまく行けば2018年8月リリースできたそうです)

年表の情報は、気になったところをピックアップしたので、全て網羅しているわけではありません。

ドレザルさんの中ボス感

さて、まずドレザルさんが『TwixT』を出版するに至った言い分を書いてみます。8月12日のスレッド最初の発言にありますので、翻訳引用してします。

TwixT商標は2007年以降消滅しています。著作権は26年前に消滅しました。これらの2つのイベントを組み合わせると、技術的には過去10年間に誰でもゲームを作成でき、許可やライセンスなどは必要ありませんでした。
これが、私がTwixTを⽣産する権利の独占的所有者であることを発表するのに1年かかった理由です

まあ大義名分としてはいいんじゃないでしょうか。ただね、

著作権を持っているカッツさんと、公表前に話せばよかったんじゃない?

と思いませんか。そうすれば、こんな騒動なんて起きなかった(まあZ-manから『TwixT』出ていればもっとよかった)のではないかと。

で、8月16日(スレッドの3ページにあたる)にカッツさんの発言があります。翻訳引用すると、

2017年8⽉1⽇に、私は(Anthony)Wayne Dolezalからの⼀連のメールの最初を受け取りました。彼は、彼⾃⾝のゲームに対するAlex Randolphの権利に挑戦しました。彼はまた、相続によって得られた私の権利を却下しました。
Dolezal⽒は、David Bushと協⼒して、TwixTの新しい無許可のリリースを計画しました。ライセンス契約について私に連絡する代わりに、Dolezal⽒は2017年1⽉20⽇にTwixTの商標を取得するために密かに⽶国特許庁に申請しました。商標出願に反対する公開⽇は2017年6⽉27⽇で、商標出願に反対する最終⽇は2017年7⽉27⽇でした。Dolezal⽒は、出願に異議を申し⽴てることができなくなってから5⽇後に私に連絡しました。
2017年8⽉12⽇、David Bush⽒は、Dolozal⽒との⾮開⽰契約から解放されたばかりであることをメールで明らかにしました。両⽅の男性は、私がTwixTの出版社を積極的に探していることを知っていましたが、私からそれを隠しながら彼らの計画を進めました。

大爆笑しました。つまり、

ドレザルさんは、ブッシュTwixT大好きおじさんをスパイにしてカッツさんの動向を掴んでいた。
さらに登録商標を申請しつつ異議申し立てができない状況になるまで、秘密裏に行動。確定したあとで、カッツさんにコンタクトを取った。

いや、ドレザルさんの策士ぶりがすごい。すごいあまり、

いや、その前にオーストリアの著作権があるよ。

というどんでん返しブーメランの威力は相当なもんだったでしょうね。
もうドレザルさんは、(肝心なところで失敗をしでかしラスボスにこっぴどく絞られる間抜けな)中ボスとよばれてもおかしくない振る舞いでした。

その後のドレザルさんは、ルールには著作権はないなどの抵抗を見せますがまた別の策を講じます。
『Twixt』のヨーロッパでの登録商標を(ドレザルさんでない)別名義で申請するという行動に出ます。アメリカと同じ方法でいける、と自分流を貫いてます。結果は、却下された(それに合わせたのか、Kickstaterも途中でキャンセルした)そうです。さらに中ボス振りをみせました。

【追記とお詫び】
『Twixt』のヨーロッパでの登録商標ですが、実は2017年11月に取得していた事がわかりました。
したがって、却下はされていません。
事実と異なることを記述しました。深くお詫び申しあげます。
この件についてはさらに調べまして、
【以前の記事の訂正あり】Lil' Cerebral Games版『TwixT(ツィクスト)』について、もうちょっと(本当は相当)書いてみる【+おまけ】。
に記述しました。
ぜひあわせてご覧ください。


結局アメリカ国内のみでの発売ということになりましたが、別件でやらかします。STEM認証です。

STEMについては、以前「「日本パズル協会」と「パズルゲーム」の微妙な関係について仮説を立ててみる」でもふれました。

ドレザルさんは、『Twixt』にSTEM認証のマークをつけました。しかし、Amazonでのカスタマーコメントを引用すると、

法律の穴をついて商標権を奪ったまるパクリゲームです。
それに応じてSTEMマークは剥奪されたと聞きましたが、まだつけてるんですね。

とあります。で、実際はどうも剥奪ではないようで、これもGoardGameGeekの『TwixT』のフォーラム「Statement from STEM.org regarding LCG' Twixt release」(翻訳したタイトルは「LCGのTwixtリリースに関するSTEM.org」)に書かれたことによると、

・ドレザルさんはSTEM教育の資格を取っているらしい。
・認証については、個人(STEM教育の資格認証)と商品(物品に対するSTEM教育の認証)があり、それぞれ別のものである。
・『TwixT』自体の商品のSTEM認証は取っていないし、STEM.orgも認証していない声明がある。

つまりですね、

ドレザルさんのSTEM認証を、自社製品『TwixT』につける

という「(意図的かどうかは置いといて)勘違い」をやらかしていて、ずっと放置しているようです。まったく中ボスです。

「ゲームルールに著作権がある」とは異なる自分の見解

ドレザルさんは放っておいて、1957年『TwixT』の著作権について、どのように保護されるかについて自分の見解を書いてみます。再び、1961年のドイツ連邦司法裁判所の判例を引用します。

「ゲームのアイデアは確かにそのような著作権の保護を受けないが、ゲームのルールは、文書として保護されるものである。ただし、十分に独自性のあるとみなされることが条件となる。この独自性は、単に表現に基づくものではなく、独自の知的活動に帰せられる思考様式から生じる
※太字は自分が追加しました。

これがそのまま1957年『TwixT』に摘要されるかどうかはさておき、少し異なる角度から見てもかなりの権利が保護されるのではないかと思います。

ポイントになるのは、形態が「紙ペンゲーム(Paper And Pencil)」であること、要は「ほぼ文書のみでボードゲームが構成されている」ということです。
1957年『TwixT』では、ルール、盤面、筆記用具の3つで構成されます。盤面はルールの説明として文書化できます。残りは筆記用具ですが、これは特別に用意しなくてもよいものとして独自性の検討から除外できると考えてみます。
つまり、1957年『TwixT』は、単なるルールではなく独自性のあるプロダクトとみなされます。3M版の『TwixT』は、それを踏まえて「トータルプロダクトとしての二次使用である」と見ることもできるかもしれません。

ちなみに、ルールの著作権については、日本でもペンシルパズルで「『お絵かきロジック』『ののぐらむ』騒動」がありました。2つはほぼ同時期に作られたのですが、互いに「ルールの著作権」を争いましたが、「ルールはアイディアなので保護しない」ということもあり、結局和解に落ち着きました。

また、独自性については日本でも同じような見解をするのではと思います。自分はニコリに新作パズルを投稿して掲載された経験があるのですが、その際の原稿料は

ルールには原稿料なし
・問題には1問ごとに原稿料発生
例題にも1問ごとに原稿料発生

でした。つまり「ルールと問題のセットで著作物の独自性がある」という考えでの契約ということです(なので、ニコリが保有しているルールがあるので、問題だけ投稿してもセットにして独自性がある著作物にできる、ということでしょうか)。

最大の誤解と最悪の事実(まだ仮説)

かなりの長文となったので、ひとまず締めようと思います。
実は今回の件を考えるにあたって調べてみると、どうやら自分には最大の誤解があった、と気づきました。しかもそれは未だに継続している最悪の事実(まだ仮説)ではないかと(ただ、いまの自分には降りかからないのですが……)。
どんな誤解か。「ボードゲームに著作権はある」です。今更ながら言います。

日本の著作権法では、ボードゲームそのものは対象外

ま、例外はあるのですがそういうことです。
なんだかんだで、この仮説回収のため次のノートに続きます。

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