【以前の記事の訂正あり】Lil' Cerebral Games版『TwixT(ツィクスト)』について、もうちょっと(本当は相当)書いてみる【+おまけ】。
毎度毎度失礼しております。
ボードゲーム『ツィクスト(TwixT)』の記事を何度か書いていますが、ほとんど遊び方や戦術、上達法などについて触れておりません。
今回も触れません。申し訳ないです。
忘れられようとしているLil' Cerebral Games
ジーピーから発売される『ツィクスト(TwixT)』。
販売予定日と希望価格の情報も発表されました。
ジーピー広報部のTwitterも盛んに情報を発しています。
宣伝動画も作っていました。
冒頭の「1962」。
『TwixT』が物理版として誕生したと言われる年から、2020年へ向けてカウントアップ。
その都度、その年で出版した会社名が出てきます。
2018年………
なにも出てきません。
色々と問題があって、2018年にアメリカ合衆国のみで販売された、Lil' Cerebral Games版『TwixT(ツィクスト)』。
ここまでくると、本当に孤立無援となってしまったね。
いろいろな問題については、「「『ツイクスト』の権利をめぐって」についていろいろ書いてみた。」
で書きました。
タイトルに【以前の記事の訂正あり】としました。
それは、上の記事のことになります。
その詳細はのちほど。
Amazonから買えません
2020年9月11日に、「日本のボードゲーム会社、ジーピーが『ツィクスト(TwixT)』を発売するので、いろいろ書いてみる。」
を書きました。
この時点では、amazon.comでLil' Cerebral Games版『TwixT(ツィクスト)』は販売されていました。
amazon.jpでも販売されていました。
しかし、2週間後改めて確認すると、
お取り扱いできない
現在在庫切れ
となっていました。
ちなみに、Lil' Cerebral Gamesのサイトはこちら。
ドレザルさんの名前入りのURLになっております。
実は、lilcerebral.comというドメインを取得していたのですが、繋がりません。
おそらくまだ存続しているとは思いますが、AMAZONから外れる事態(しかもジーピー版発売のタイミングの前後)は、気になるところです。
商標権ってまだ生きてるの?
このまま立ち消えてしまうかもしれないLil' Cerebral Games版『TwixT』。
しかし、全く消えるわけではありません。
気になるのは、Lil' Cerebralの代表といえる、ウェイン・ドレザルさんが取得していると言われる『TwixT』のアメリカ合衆国の商標権です。
ということで、調べてみました。
United States Patent and Trademark Office(米国特許商標庁。略称:USPTO)に、商標を検索できるデータベースがありますので、「twixt」をみてみます。
権利が生きているもの死んでいるもの区別なしだと、19件あります。
たくさんあるように見えますが、ほとんどはボードゲーム以外での商標です。
関係あるものをひろいあげます。
シリアル番号73459570は、アバロンヒル(3M)所有の商標権
1963年2月25日申請。
1964年5月5日登録。
2005年2月12日権利放棄となっています。
シリアル番号 78818721は、Winning Move所有の商標権
2006年2月20日申請。
2006年8月15日出願公告。
2007年11月8日権利放棄となっています。
そして、シリアル番号 87308630は、ウェイン・ドレザルさん所有の商標権
2017年1月20日申請。
2017年6月27日出願公告。
現在も商標権は生きています(有効期限は10年なので2027年6月あたりまで)。
ジーピーの『ツィクスト(TwixT)』は、世界展開しますので、アメリカ合衆国に関して、この商標権がちょっとした毒になっています。
で、ふと気になったのは
ヨーロッパでの商標権(EUでの商標権)ってどうなの?
「『ツイクスト』の権利をめぐって」についていろいろ書いてみた。」
では、こう書きました(引用します)。
その後のドレザルさんは、ルールには著作権はないなどの抵抗を見せますがまた別の策を講じます。
『Twixt』のヨーロッパでの登録商標を(ドレザルさんでない)別名義で申請するという行動に出ます。アメリカと同じ方法でいける、と自分流を貫いてます。結果は、却下された(それに合わせたのか、Kickstaterも途中でキャンセルした)そうです。さらに中ボス振りをみせました。
この記事を書いたときの資料はBoardgamegeekでの騒動となったスレッドとTableGames in the Worldの記事です。
EUの商標権は確認していませんでした。
USPTOのデータベースを使っているうちに、EUでの商標権も同じように検索できるのでは?と気づきました。
ということで、Europa Union Intellectual Proparty Office(欧州連合知的財産庁。略称:EUIPO)のデータベースを検索してみます。
該当のデータを発見。
「ファイル番号017096603 TwixT」がありました。
2017年8月13日申請。
2017年11月24日登録。
有効期限2027年8月13日。
ええーっ!商標権とってるやーーーーーーーん!!
新情報が次々湧き出る訂正タイム
いやあ、ちゃんと調べないとダメですね。
騒動のあったスレッドでも、このEU商標権はほとんど触れてなかったように思います。
ドレザルさんもまた、EU商標権を取得したことについては語っていなかったと思います。
そんなこともあって、Kickstarterのキャンセル理由をドレザルさんは「ライセンスの問題」と述べていたので、憶測で「EU商標権が却下されたから」だと記述しました。
事実と異なる点、深くお詫びいたします。
詫びだけですませるのは野暮なので、ドレザルさん取得のEU商標権を見てみます。
気になる点がいくつかあります。
1)申請日が2017年8月13日。
2)登録日が2017年11月で、申請から3ヶ月しかかかっていない。
3)Kickstarterの開始が2018年6月。登録日から半年以上経過している。
4)商標登録した言語が英語とスペイン語。
5)登録者はドレザルさんとギリシア人Irini Garnerさん。
順序を多少入れ替えながら、上に上げた5点について述べます。
1)申請日が2017年8月13日。
この申請日は、ドレザルさんのえげつなさが露出した印象。
というのも、その前日8月12日は、
ドレザルさんは例の騒動のスレッドを立ち上げ、
(TwixT大好きおじさん)デビッド・ブッシュさんが(TxiwT著作権所有者である)マイケル・カッツさんに2重スパイであることを告白する。
まさに、騒動初日。
これはもう、狙ったとしか思えません。すごいな。
残り4点ですが、RYUKA国際特許事務所のサイトにある「外国で商標権を取得するには」を参考にしながら、考察します。
3)Kickstarterの開始が2018年6月。登録日から半年以上経過している。
騒動からおよそ1年後にKickstarterを開始ました。
半年前にEUの商標権を取っていたにもかかわらず、なぜ短期間でもないブランクがあったのか。
推測ですが、知的財産権に関わる国際条約(パリ条約)の「優先権」の失効を待っていたのではないかと思います。
ドレザルさんの申請日より前に、他者が同じ商標権を出願していたとします。
もし、前後してドレザルさんのほうが先に登録されたら、先に出願した他者は丸損です。
そこで、ある程度の期間を設けて、その間に主張して、言い分が通れば、その他者が商標権登録の優先権を持ちます。
この優先権の主張ができる期間が半年なのです。
5)登録者はドレザルさんとギリシア人Irini Garner(イリニ・ガーナー)さん。
EU商標権を含めて、国外の商標権を取得するには、その取得する国の国内代理人が必要となるそうです。
ギリシアはEU加盟国なので、イリニさんがEU現地代理人として出願するのは通常の行為でした。
なので、別名義での申請ではなく、代理人を伴うごく普通の申請です。
2)登録日が2017年11月で、申請から3ヶ月しかかかっていない。
ドレザルさんがアメリカでの商標権の申請から取得までかかった期間は約5ヶ月。
この期間の短さがEU商標権の特徴のひとつです。
EU商標権には、メリットとデメリットがあります。
さきほどのRYUKA国際特許事務所のサイトから、引用します。
メリット
・費用の節減
単一の出願(一通の願書)でEUの全加盟国に出願でき、また現地代理人も一人で済むので、EU加盟国の多くの国に直接出願する場合よりも費用が安くなる。
・手続の簡素化
単一の手続でEU加盟国すべてに出願されたことになる。
・権利管理の簡便化
商標登録後の更新や変更等の手続が一度で済み、管理が簡易である。
・不使用を理由とした取消の回避が容易
加盟国の1ヶ国で商標を使用していれば、商標を使用していないことを理由として商標登録が取り消されることはない。
デメリット
・拒絶などの効果
EU加盟国のいずれか1ヶ国ででも拒絶理由(商標登録ができない理由)があり、意見書や補正書によっても拒絶理由を解消できない場合は、登録が認められない。この場合は、各国出願(個別出願)に切り替えることができるが、新たに現地代理人費用が必要となる。
また、EU加盟国のいずれか1ヶ国ででも登録商標が無効・取消になってしまった場合は、他のEU加盟国での権利まで消滅してしまう。
・制約条件
EU加盟国のうちの数ヵ国だけを指定して出願することはできない。
・審査
原則として、「相対的拒絶理由」(ex.「先に出願された他人の商標と似ているため、登録することができない」)に該当するか否かは審査されない。
したがって、似ている商標について他人が先に出願していた場合などは、「登録を認めるべきではない」という異議が申立てられたり、また、登録後であっても商標権侵害であると訴えられる危険がある。
ざっくりピックアップすると、
メリット
・通常、各国ごとに申請をしなければならないが、EU商標権は1つの申請でEU加盟国27(当時はイギリスが加盟しているので28)ヶ国の商標権を取得できる。
・結果、申請1つ分のみなので費用も抑えられる。
◆そして、申請から取得までの期間が短いのは「絶対的拒絶理由」のみしか審査しないため。
デメリット
・審査は「絶対的拒絶理由」しか行わないので、すでに登録済みかどうかなど「相対的拒絶理由」まではみていない。
なので、取得後も異議や商標権侵害の申立てができるようにしている。
◆EU加盟国のどこか1カ国でも、当該の商標権を拒絶した場合、商標権自体が取消となる(まさにオール・オア・ナッシング)。
はい。デメリットをみておわかりかと思いますが、
取得後、Kickstarter開始まで半年待った意味はない。
おそらく、ドレザルさんの取りやめた理由「ライセンスの問題」は、
Kickstarterを開始して数日後に、
EU商標権のデメリットを
突然理解した。
のではないか(……まあ、そんなことはないと思うのですが)。
4)商標登録した言語が英語とスペイン語。
なんでスペイン語なんでしょうか?
おそらく「意味はない」かも知れません。
それならば別に登録しなくてもよかったのかと思います。
ちなみに、アメリカで取得した商標権を元にして、本国当該庁から諸外国に商標権を申請できる、マドリッドプロトコル(マドリッド協定議定書)という方法もあります。
ただ、この方法はアメリカ国内で十分申請できるので、国外の現地代理人を必要としません。
念の為に。
マドリッドはスペインの首都です。
おそらく、スペイン語を選択した理由は(……まあ、そんなことはないと思うのですが)。
結局、ドレザルさんの持つ『TwixT』のEU商標権は、異議・拒絶がないのでかろうじて存続している、ほぼ死に体の状態と思います。
締めとおまけ
Lil' Cerebral Games版『TwixT』は、
しくじりボードゲーム
として大きな爪痕を残したのではないでしょうか。
歴史から抹消してしまうのは、もったいないですね。
学ぶことがわんさかありました。
さて、それはそれとして、おまけ。
「青森ドブル」などとも呼ばれた「あおもり絵合わせカードゲーム『チーキィ』」。
上の記事から、ほぼ1年経過しました。
そして、2020年10月初頭にビッグニュース。
ですって。
「あおもり絵合わせカードゲーム『あおもりアッテラ!』」
2020年10月10日発売(ねんのため予定)。
このnote。
5000文字以上になってしまいました。
では。
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