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『盤上の夜』ネタバレ読書呑記(8後半)〜恭二に贈られた1冊の本

前回の呑気の後半です。

弟の本

兄の一郎には、ピーター・ビアードさんの写真集『THE END OF THE GAME』が贈られました。
そして弟の恭二に贈られた本は、『Zeichnungen 1947−1959』。
ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)の画集です。

1994年に『評伝 ヨーゼフ・ボイス』が出版されています。

一方で興味深いのは、『盤上の夜』が出版されたあとの2013年に、ハンス・ペーター・リーゲルさんが、ボイスの伝記を出版。
実は、ボイス自身が語っていた自身の人生は、嘘を結構盛り込んでいたらしいと。
とりあえず、ボイス自身が創り上げたボイスのイメージで、呑記をすすめます。

ハチワンダイバー+由宇

恭二は、破瓜型の統合失調症でした。
恭二の将棋が、あるきっかけで格段と強くなりました。
それが、将棋の駒が軍隊のように見える幻影でした。

これは、ある漫画の元ネタを想像させます。
柴田ヨクサルさんの将棋漫画『ハチワンダイバー』。
テレビドラマにもなりました。
元ネタと言える登場人物が、文字山ジロー(もんじやま ジロー)。
駒と対話しながら対局を進める異能感覚の持ち主です。

ヨーゼフ・ボイスは、ヒトラー・ユーゲントに所属し、第二次世界大戦も兵士として戦っていました。

【Wikipediaより引用】
1936年ごろ、ボイスはヒトラー・ユーゲントに加入した。後に彼は「誰もが教会に行くように、当時は誰もがヒトラー・ユーゲントに行った」と語っている。
(中略)
おりしも第二次世界大戦が勃発した頃で、ボイスは1940年、ドイツ空軍に志願し、ハインツ・ジールマン(戦後西ドイツで野生動物のドキュメンタリー映画作家として有名になった人物)による訓練を受けた後、Ju 87(シュトゥーカ)急降下爆撃機に無線オペレーターとして搭乗し東部戦線で戦った。

※余談:で、これらの引用は、ボイスの伝記を書いたリーベルさんによると、メディア向けのリップサービス(ようするに嘘)だったらしい。

ヨーゼフ・ボイスはヒトラー・ユーゲントに加入する時期あたりから芸術にも興味を持ち、大戦後、社会彫刻という概念を築いて表現活動をはじめます。
その一環で、緑の党に参加するのですが、これが恭二が一郎と対局した際に見えた幻影の植物群に呼応します。

恭二の対局の幻影は、軍隊から植物群へと変化しましたが、まだ完成形ではないと思われます。

……植物群?
植物といえば、『盤上の夜』の主人公・灰原由宇。
囲碁になろうとして、植物のことばを習得していました。


一郎と恭二、短編4作品との対比

前半でも書きましたが、引用します。

短編集『盤上の夜』のなかで、後ろに収録された『千年の虚空』『原爆の局』は書き下ろしで、残りの4編『盤上の夜』『人間の王』『清められた卓』『象を飛ばした王子』のあとに書かれました。
つまり、『千年の虚空』『原爆の局』は、前の4篇のアイデアやモチーフを踏襲して再構成している小説ともいえます。

一郎と恭二の対比を、先に書かれた短編にあわせてみます。

一郎:『人間の王』ー
   将棋の完全解とテインズリーとの対応
恭二:『盤上の夜』ー
   恭二の幻影と由宇の言語習得との対応

そして、もう1つが

一郎:『象を飛ばした王子』ー
   ゲームを殺すゲームと病のゲームデザインとの対応
恭二:『清められた卓』ー ???

あ、そうでした。
読書呑気では『清められた卓』について、全く触れていません。

ということで、次回は『清められた卓』です。
なにしろ、これを書かないと恭二の???は埋められません。

では。


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