□□□とボードゲーム(1.6)〜デュシャンとチェス(続々々:1925年のポスター)
前回の記事はこちら。
ここしばらくデュシャン周りのことを書いていますが、どこかのタイミングで一旦離れようとは思っています。
しかし、なかなか面白い話題が見つかるもんで、難しい。
今回も、デュシャンです。
芸術家やめてませんよ
デュシャンが芸術から離れてチェスプレイヤーに転身、その区切りが1923年といわれています。
この年に未完成の大作『大ガラス』の制作を中止した、ということもありますし、実際チェスクラブに所属してトーナメント大会に出場します。
しかし、完全に芸術しませんよ、ということでもなかったのです。
1925年に開催された、第3回フランスチェス選手権のポスター、これを作成したのがデュシャンです。
上のリンクが、そのポスターとなります。
この記事を書くにあたり、ポスターの画像がないか探してみました。
で、たどり着いたのが、1999年に誕生したデュシャンの学術研究オンライン誌「Tout-Fait: The Marcel Duchamp Studies Online Journal」です。
このサイトに、1925年のポスターに関する記事がありました。
これがべらぼうに興味深い。
ということで、いろいろ調べつつあれこれいじってみます。
このポスター、変です
さて、珍ぬが動かされたのは下の記事。
タイトル「Examining Evidence: Did Duchamp simply use a photograph of “tossed cubes” to create his 1925 Chess Poster?」を訳すと、
「証拠の検討:デュシャンは1925年のチェスのポスターを作成するために単に「投げられた立方体」の写真を使用したのでしょうか?」
です。
ポスターには多数の立方体が書かれていますが、
という制作過程があったらしいです。
なので、写真からのトレースして制作したわけです。
……と思っていたらどうも違うらしい。
このポスター。
ちゃんと調べてみると、なんか10箇所くらい変だ、ということです。
どんな感じで変なのかという動画をYoutubeにアップしています。
ポスターから立方体(ブロック)を抜き出して、視覚的に際立たせるために面の色を赤・青・緑に変えています。
動画では、ポスターで描かれたブロックと、写真からトレースしたならば本来こうなるはずというブロックとを、比較して並べています。
実際みると、結構異なっています。
これらのズレは、単にデュシャンが下手なのか、彼の意図的創造行為なのか、どっちやねんという話。
意図的な行為としてみると、とある絵を引き合いに出すほどの、スゴイ話らしい。
上の図は「ペンローズの三角形」です。1950年代にライオネル・ペンローズとその息子のロジャー・ペンローズが考案した不可能図形です。
しかし、これよりも前に1940年にスウェーデンの芸術家Oscar Reutersvärd(オスカー・ロイデルスバウト)が考案しています。
リンクの絵をみると、不可能図形的に立方体が並んでいます。
ロイデルスバウトもペンローズも、それぞれ独立して不可能図形を見つけています。
上の絵をみると、2つの立方体の重なりの描き方で、視覚的にだますことによって通常ありえない表現となりました。
で、デュシャンのポスターに描かれた、立方体の重なり方もそれっぽい。
とすると、ロイデルスバウトより10年以上前に、視覚的にだます効果の表現をデュシャンやってんじゃない?というらしいです。
しかし、10箇所も現状を写し取った写真と異なる表現をすると、どうなるか。
歪んで描かれます。
実際、デュシャンのポスターの立方体は歪んでいる(ま、素手の描画ですし)ようで、実際に立体化してみるとどうなるか、という動画もYoutubeにアップしています。
かいつまんで取り出しましたが、ちゃんとした内容は「Tout-Fait」の記事を読んでください(英語だけど翻訳すれば、結構大丈夫)。
ひとまずの締めと続き予告
こんな感じで締めようかと思うのですが、ふとある疑問がわきました。
ポスターでは、立方体は21個描かれています。
多数の立方体を描くために、ブロックを袋に入れて撮影した写真をモデルとしました。
とすると、他のブロックの裏に隠れているものが何個かあってもおかしくないよね?(※「Tout-Fait」の記事には、その話題は書かれていませんでした)
果たして、デュシャンは袋にブロックを何個入れたのでしょうかね。
その妄想は、次回に続く。
では。
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