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□□□とボードゲーム(1.94303)〜デュシャンのチェスプロブレム(後1:Angel Chess)

前回の記事はこちら。

1943年にデュシャンが作ったチェスプロブレムについて書きました。
記事の最後、

しかし、なんでこんなの作ったのか?
前回紹介したサイト(特にToutfaitの「A Problem With No Solution」)では、その経緯が書かれております。
もともとは、画廊ジュリアン・レヴィで行われた小さな展覧会「Through the Big End of the Opera Glass」の告知広告で使われたものでした。
広告に印刷されたこの問題の裏側には、デュシャン自身が描いた天使が重なっています。

と書きました。
合成した画像を引用します。

引用:https://www.toutfait.com/a-problem-with-no-solution/
Figure 3 Detail of Julien Levy Gallery’s Exhibition Announcement for Through the Big End of the Opera Glass, 1943

で、これ、何?
次回あることないこと書きます。

ということで、今回は続きです。
あることないことと書いていますが、こんな言い回しをしている場合は決まってないことです。

お詫びと訂正

最初にお詫びと訂正です。

広告に印刷されたこの問題の裏側には、デュシャン自身が描いた天使が重なっています。

天使を太文字にしましたが、ここ誤訳しておりまして、正しくはキューピッドです。
天使とキューピッド、混同しがちだよね。


ポーン、ではない?

キューピッドの持つ弓矢の鏃(やじり)は、下図盤面の丸で囲ったポーンを指しています。

前々回の記事では、このプロブレムが解けるであろう手筋でみた場合を追ってみました。
丸で囲ったポーンは、最終的にクイーンに昇格することになります。

前々回の記事より引用+加筆:
白はキングを動かしたところまで。
このあと、黒のポーンはキングに捕獲され、
白のポーン盤面最上段で(クイーンに)昇格
が見込まれるので、黒の負けとなる。

で、それだけのために天使……いや、キューピッドを盤面に重ねたのか、という話です。

はい、ないこと書きますよ〜。

キユーピッドが重なるポーンは、
ポーンではなく別のコマを示している。

です。
ある意味「その場で昇格」です。
ジョジョ的に言えば「鏃が刺さってスタンド発現」です。

ではなんのコマに昇格かとなると……なんとなくなんでもいいかと。
例えば、ルークまたはクイーンであれば黒のポーンを捕獲します。

通常のチェス以外のコマ(フェアリーピース)であれば、例えば中国将棋の「車」であれば、黒のルークを捕獲します

まあ、勝てれば何でもいいのですが、そのなかでちょっと面白いモノが見つかったので紹介します。

キューピッドを天使と混同したことで、偶然見つけたのですが。

Angel Chess

デュシャンは知っていたかどうかはわかりませんが、芸術家として名を馳せた時期の1915年、Louis P. d'Autremont(ルイ・P・ドートルモン)さんが特許申請したチェスのバリエーション『Angel Chess』があります。


引用:https://www.chess.com/blog/Pokshtya/angel-chess

1列増えた9×8の盤面で、キングの隣(上図のf列)に「エンジェル」が新たに追加されます。

クイーンはルークとビショップの動きの両方ですが、エンジェルはルーク・ビショップ・ナイトの三位一体と、さらに強力です。
なにせコマの中心としたタテ・ヨコ・ナナメ5×5マスのどこにも移動できる中将棋の獅子よりも移動します。

ルーク(赤)ビショップ(青)ナイト(紫)それぞれの動き
獅子の動きの範囲(緑破線の内側)

しかも、それだけじゃない。
他の味方のコマがエンジェルを守る(エンジェルを捕獲されてもすぐ捕獲仕返しができる)位置にあると、エンジェルは捕獲できない鬼畜ルール付きです。

引用:https://www.chess.com/blog/Pokshtya/angel-chess

例:
白のエンジェル(g6)は黒のエンジェル(i4)で捕獲できる……かと思いきや、捕獲すると白のポーン(f5)で捕獲し返すことができるので、白のエンジェルは捕獲できません。

むちゃくちゃ強い、それがエンジェルです。

暴れまわるエンジェルによる攻撃的なゲーム展開が、d'Autremontさんの狙いのようです。


一旦の締め

ということで、デュシャンの解けないチェスプロブレムをむりやりこじつけて違った角度で解いてみました。
……解いたのか?

ところで今回の記事のタイトルに(後1)と付加しましたが、次回は(後2)です。

また、ないことを書きます。

では。

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