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召喚の手順:「海へ出るつもりじゃなかったし」のリフレイン

モノローグ?
・不思議な空気感のシナリオです。透のイベントに共通して言えることですが、終始独特なモノローグが会話の途中でサブリミナル効果のように細切れに挿入されるので、透だけ全然話を聞いていないような気分になります。実際、うわの空なのかもしれませんけど...。なので、透は常時、別のことをぼーっと考えている人なのだな、と思いながらシナリオを読んでいました。

・ところが、これは回想でもモノローグでもないということが、最後の最後、exシナリオの第三話で明かされます。モノローグとは人物の一人称視点の「意識」の描写で、例えば円香の語りはわかりやすいモノローグの例です。なのですが、透は自分の語りをよく覚えていません。夢みたいだといっています。つまり今回で、今までの透の一人語りパートが「浅倉透の無意識」の描写だということがちゃんと確定したのが大きかったなと思います。これは浅倉透という人間に関する重要な要素です。

・透は言語化や、意思表示が苦手です。しかし、彼女を駆り立てる何かが、「彼女にしか聞こえない」ピース・オブ・エイト!の掛け声として沸き上がります。これが幻聴だったのかはわかりません。しかし少なくとも、オウムのセリフも彼女の水面下の意識の反芻として描かれています。

リフレイン
・シナリオのもう一つの大きな特徴は、リフレイン(繰り返し)の多用です。シナリオは、8話+EX3話の全11話ですが、時系列でならべてみると「日常→Pからの打診→作戦→ジャンプ→番組の放送」が綺麗に2度繰り返され、その後Ex第三話につながります。前半四人ともやる気がなかった「Pからの打診」では、後半は雛菜と小糸から先にやる気が出ていたり、彼女達のとても小さいけれどすごく重大な変化を、オーバーに描かずに、それでも強調させるための構造なのかなと思います。そして、透は最初からあまり変わっていない(ように見える)!これも重要です。

・海賊、そしてまさにリフレインを象徴するモチーフとして登場するのが、オウムです。ex第三話では、それが終了したことを示すようにオウムがいなくなります。

・ノクチルの関係性は、そもそもが鏡像的なコンプレックスで形成されています。円香と雛菜は透を、小糸は三人を見て同化を試みている。カリスマと、それを追いかける三人。それが、ノクチルがもともと持っていた四人の関係性です。ノクチルのシナリオで、最も重要なテーマの一つが、その強固な関係性の変化です。

パラドックス
・ノクチルは「彼女たちがそのままでいる」のがアイデンティティであることと、「アイドルとして成長し、成功すること」が物語として決定している、という矛盾を抱えています。彼女達が今までの自分を反省し、アイドルらしくなってしまっては、ノクチルのアイデンティティは失われてしまいます。

・これに対してプロデューサーのすごいところは、ノクチルの成功と、アイドルとしての成功を一度切り離してしまったところです。これによって、彼女達は勝手に自分たちだけのゲームを開催して、そこに向かって熱中していきます。優勝という、倒錯した目的に向かって引かれる脱線。

逃走は行動を諦めることではない。逃走ほど行動的なものはない。想像の反対だ。『ドゥルーズの思想』


・ノクチルは鏡像です。透は意思表示をしません。透以外の三人の行動によって、透の無意識は現実化され、それを見て初めて、自分の無意識を認識することができるのです。「なにかに似てる」と。透の持っていた服を分け合う、というエピソードも象徴的です。シナリオでは、透の無意識が、ある魔術的な手順を踏むことで、意識化されます。それがジャンプです。ジャンプをするたびに、透の夢想・無意識は、少しづつ転写され、「本当の世界」に入れ替わります。

・無意識が、ごっこ遊びが、湖が、本当の世界と入れ替わる。そして、ノクチルの最終的な「GO」の意思表示が、透ではなく、優勝した景色が見たいと発言した小糸であるというのが重要です。彼女たちは、透をとおして、また自己を確立しはじめている。オウム(=鏡像関係)との別れや、ジャンプ→バラバラのアナロジーは、それを示しているのでしょうか。とにかくこれがノクチルの成長、もしくは変化であり、それは動機の部分で、アイドルとしての反省・成長とは直接関係がない。それでも、何かしらの出航準備が整った。そういうアツい話だったと思います。

このオープニングはきわめて示唆に富んでおり、ここにタルコフスキーの映画のエッセンスが表現されているとも言える。無意識のなかに確かに存在するが、何かの障害によって意識にうまく再現されない記憶・情景。このような「心の深層」のイマージュが、ある魔術的とも言える手順を通じて、この現在に、鏡に映る像のように再現され意識化される。これがタルコフスキーの映画の基本的な構造でもある。



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