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【#4 飼育員になるために】猛禽類の野生復帰トレーニング(研究・論文発表の仕事)

みなさんこんにちは、
動物教育家の藤井(ZOO TIME園長)と申します。
noteでは飼育員を目指す方に特化した記事を書いています。
はじめての方は自己紹介もご覧いただけますと幸いです📖

さあ、今回は私が携わってきた研究内容について、ご紹介したいと思います。
動物園水族館の社会的役割の1つに『研究』があると、#2でもお伝えしてきました👇

動物園水族館の飼育員を目指す方には、必須になってくる項目ですので、実際にどのような研究論文を書いているかを今回は公開したいと思います。


私が日本動物園水族館教育研究会にて携わってきた研究は以下の通りです。
・「鷹狩りの技術を応用した猛禽類の野生復帰トレーニング」
・「トキの分散飼育と野生復帰」
・「ケヅメリクガメ育成時の結石予防」などの研究、活動に多数携わる。
その他、大学やYouTubeでも様々な研究してきましたが、今回は日動水研究会で発表した、「鷹狩りの技術を応用した猛禽類の野生復帰トレーニング」について、その内容と画像で公開致します。

左から、オオタカ、ハヤブサ、ノスリ
いずれも野生保護個体、トレーニングにより野生復帰させた個体

猛禽類のトレーニング方法はズータイムチャンネルでも公開しています


野生鳥獣保護活動への取り組みときっかけ

この研究は野生鳥獣救護活動へ取り組むために行った研究です。
では、野生鳥獣保護活動行うきっかけは以下の通りです。

私が勤めていた動物園では、野生鳥獣救護活動に積極的に取り組んでいました。毎年約400頭羽もの傷病鳥獣が持ち込まれ、獣医師が治療をおこない回復後に野生復帰させていました。保護理由としては、窓ガラスなどの人工構造物への衝突が最も多く、次いで多いのは雛ひなの巣からの落下です。繁殖時期である春から夏にかけては雛の持ち込み数が急増します。 来園者の方々から直接あるいは電話やメールなどにより動物園に寄せられる質問の中には、野生動物に関するものも少なくありません。しかし、動物園職員の中で野生動物の専門家と呼べるのは野生動物の調査などに関わっているごくわずかな人ですし、野生動物全般を知るためには知識と経験の両方が必要不可欠です。

野生へ放鳥されたハヤブサ

私は当時、野生動物に関する質問に対し、自信を持って答えられない事が多く、身近で暮らしている野生動物に関しての知識が乏しいことを痛感させられました。そこで、少しでも野生動物のことを知るために、当園へ持ち込まれた野生動物を見に行くようになりました。保護された動物たちは、カモシカやテン、ムササビなどの哺乳類から、イヌワシからスズメまでの多種多様な鳥類、時にはワニガメやカミツキガメなどの特定動物に指定されている爬虫類まで、多岐にわたります。この沢山の種の動物たちを間近で観察することができ、書籍では学ぶことができない行動や食性など様々なことを学ぶことができました。その反面、傷ついた動物たちに心を痛ませながら、本当にこの動物たちは野生復帰が可能なのかが、とても気に掛かりました。その中でもタカやハヤブサなどのハンティングを専門に行う猛禽類を、長期間にわたって狭いケージ内で治療や保養を行った個体や、狩りの経験のない巣立ちヒナを、そのまま野外へ放鳥することに、強い懸念を抱くようになりました。

猛禽類の野生復帰トレーニングの必要性

なぜならハンティングを行う猛禽類が野生で生き抜くためには、筋力、持久力、狩りの技術を常に発揮できる状態でなければなりません。そこで何とか筋力や狩りの技術を身につけさせた状態で野外へ放鳥したいと考えました。しかし、動物園には猛禽類が筋力を付けられるほどの広いケージはありません。そこで、広いケージがなくても行うことができる、鷹狩りの技術を応用したトレーニングを行うことにしました。このトレーニングを簡潔に説明すると、フライトをさせて、筋力や飛翔能力を鍛え、専用のルアー(疑似餌)や活餌などを使用し狩りの技術を十分に身に着けさせるというものです。トレーニングの対象になる個体は、巣立ちヒナで狩りの経験がない、または浅い個体、あるいは長期の保護で筋力や持久力が落ちてしまった個体などです。トレーニングを始めるに当たり、飛ばした後に呼び戻す必要があるため、まずは馴致する必要があり、そのためには体重を落とさなければいけません。体重を落とすことによって、人に対する恐怖心を和らげると同時に食欲が増し、グローブの上の餌を食べることができるようになるからです。しかし、相手は野生個体、インプリント個体(人工育雛で育った個体)とは違い、人に免疫がないので、かなり手強いですが、自らの意思でグローブに乗ってくるまで辛抱強く誘導します。個体の健康を損なわないために、保護されてから環境に慣れ、与えられた餌をしっかり摂餌し、十分に脂肪が付いた状態になってからトレーニングを開始しました。通常の餌はヒヨコ、マウス、馬肉を使用し、週1回程度ビタミン剤とカルシウム剤を添加しました。

具体的なトレーニング方法

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