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21世紀のメガトレンドと保険

前回のまとめ

前回の記事では「欧州最高の知性」の呼び名で知られるジャック・アタリ氏が著書で『保険業は世界最大の産業となる』と述べた理由についてまとめました。

論旨は以下の通りです。
21世紀は時代の最先端を担う優秀な人々が移住しながら生活するようになり、それに伴って特定の都市や国家の権力が弱まる。
そのとき、国家の社会保障機能を代替するのは保険会社であり、保険会社の売上は成長していく。
詳しくは以下の記事をご覧ください。

保険業界は規模が拡大する一方で、人々の生活の変化に合わせて商品やサービスを適応させていく必要があります。
本記事では、人々のライフスタイルの変化に合わせて保険がどのように変化する必要があるか考察していきます。


リアルタイムのデータ取得とパーソナライズ

第一のライフスタイルの変化は、長期にわたり連続した行動データを企業に提供することを条件に、パーソナライズされたサービスを受けられるようになることです。
幸いなことに、現代人はウェアラブルデバイスを身に付けて、キャッシュレス決済を利用し、リアルタイムでの行動データ取得のための技術は急速に普及しています。
こうした変化が具体的に保険に対してどのような影響を与えるか考えてみます。

①リアルタイムで保険料が変化する

今後は、分析可能な形式でのデータ集約、分析結果の即時反映により保険料が行動に基づき変化することも考えられます。例えば、位置情報を活用して普段運動をしていない人がゴルフ場に入ったときに臨時で追加の保険料が発生する…といった仕組みです。

個人の生体情報をリアルタイムで取得できるようになると、現在の健康状態だけではなく長期的に取得した生体情報をもとに高頻度で査定を行うことも可能になります。つまり、健康状態や行動に応じてリアルタイムで保険料が見直される可能性があるということです。
そうなると、一時的な食事制限や運動で健康診断で見られる数値だけ改善して、契約締結後には健康維持をやめるような、ある種逆選択的な行動は意味がなくなります。
損害保険では「保険料は走った分だけ」といったキャッチコピーでお馴染みかと思いますが、同様のことが生命保険領域でも起きるかもしれません。


②査定や給付の自動化が進む

損害保険領域では時価に応じて保険金の給付が行われるケースがよくあります。
筆者は中高時代に2度車に轢かれたことがあり、その度ごとに乗っていた自転車が大破して保険金で新たに自転車を購入しましたが、徐々に自転車のグレードが下がっていきました。
これは、利用とともに自転車が消耗した分が購入時の金額から差し引かれた時価に対して保険金が給付されて、もともと乗っていたものより安い自転車に買い替えたからです。

技術の進歩によりモノの価値を管理するためのコストが低下することで、給付業務が容易に行えるようになります。
モノの時価を管理するのが容易になった世界観は、以下の記事で具体的にイメージできます。

モノの価値の管理がここまで容易になると、請求事由の自動検知→(不正検知)→給付 まで一貫して自動化されることも考えられます。
そうなった時には営業担当や代理店が提供できる価値がどのようなものになるか考える必要があります。

このように、データの継続的な取得は、査定や給付などの保険会社のコア業務を簡潔にできる可能性があります。このあたりの論点はこちらの本が参考になるかと思います。

ただし、こうしたコア業務が簡単になることは保険会社にとってメリットばかりではありません。これまで保険業界ではバリューチェーン全体を一括で保険会社が担っていましたが、その一部が簡略化されることによって他業種から保険領域への参入障壁が低くなることが考えられます。
保険のバリューチェーンに関してはこちらをご覧ください。

すでに保険業界のバリューチェーンをアジャイル化するサービスを海外のInsurTech企業が提供している事例もあります。

Faktor Zehnのポートフォリオには、オープンソースの保険商品、契約、提供、請求、そして新しく公開されたE2Eの保険プラットフォームに関するシステムが含まれています。全ての商品が、保険会社が新しいデジタルビジネスモデルを導入してイノベーションのスピードと競争上の優位性を生み出すために開発されています。

保険会社のバリューチェーンを外部の企業が代替するようになったときに、保険会社のコアな業務は顧客接点構築や事業開発などになり、どのように他の事業者との差別化を図るかが重要となります。
こちらは、スペイン最大手の保険会社であるMAPFREのグローバル改革推進部長であるJosep氏が保険会社の取るべきポジションに関してDIA(Digital Insurance Agenda)がインタビューした際の記事です。


経済格差の拡大による消費行動の変化

第二のライフスタイルの変化は、経済格差が拡大することで所得水準に基づき消費のスタイルが二分されることです。
利用というこれまでになかったニーズに対応するために、多様な保険商品が求められています。

コロナショックの影響でシェアリングエコノミーに対して懐疑的な意見が増加しています。ただ、21世紀は経済的格差の拡大に伴って高価なモノの「所有」が一般的でなくなることが予想されます。(産業全体で自動化が高速で進み、物価の下落が格差の拡大のスピードを上回る場合はこの予想は成立しません。)
つまり、シェアリングエコノミーへの影響は一時的なもので、長いスパンで見ると回復方向へと進むと思われます。奇しくもジャック・アタリ氏が「21世紀の有望産業」として挙げた保険と娯楽はどちらもサービスとして「利用」するものです。

共有財産に対するリスクは利用状況に応じて変化し、特に利用中にリスクが高まります。これに伴って、モノが利用されている間に限定した補償へのニーズが増加し、保険のオンデマンド化が進むことも予想されます。

オンデマンドの保険ブローカー事業をかつて行っていたTrovというInsurTech企業があります。
所持品に対してアプリから補償のON OFFを切り替えられる保険商品をブローカーとして取り扱っていましたが、収益化できなかったことが原因で現在は事業を転換し、シェアライド向けの保険を提供しています。
具体的な関係は不明ですが、TrovのコーポレートサイトにはSOMPOホールディングスのロゴも掲載されております。

シェアライドのオンデマンド保険では、走行中か駐車中か、どの程度の距離を移動しているかといった車両のデータを取得して保険料算出に用いています。こうしたリアルタイムでのデータ取得は先に述べた流れとも一致します。


今回は、21世紀のメガトレンドによって変化する保険に関して考察してみました。
最近は経済格差をテーマに以下の本で勉強しています。次回はこれらを踏まえてさらに21世紀のトレンドを探求してみようと思っています。


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