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インセル奨学金なろう #4 俺の娼婦がこんなに安いわけがない

 当たり前のことだが、金を貸すためには金を用意しないといけない。先立つものが必要になってくる。

 俺は違法改造コードを利用することよってすでにLv.999となっているとはいえ、実は未経験Lv.0の駆け出し賢者だ。何を隠そうスライム一匹倒したことがないのだ。もちろん、あのローションのようにぬめついた体液に塗れた下等生物に、この俺が構ってやる筋合いはないのだが。

 残念ながらこのLvを最大値まで引き上げるコードは経験値にのみ適用されるものらしく、所持金を増やすことはできなかった。俺の手元にある冒険道具は、初期装備の木製の武器・防具と、傷薬だけだった。売り飛ばしたところで買値の半額程度にしかならないし、Lv.8のゴブリンが稀に現れるなど不測の事態が起こりうることを考えると手元に置いておくのが賢明だろう。

 そしてなにより、汗水をたらして働くなんて俺は絶対に絶対に嫌だ。労働という卑しいことなんかは奴隷のすることであって、賢者たる者のすることでは決してない。世間の凡俗どもはより多くの金を稼ぐことに必死になり、また働き口を見つけることが自分の生き甲斐だとさえ思っている労働馬鹿すら現れる始末だ。これは俺が元いた世界でもそうだった。凡俗どもはそうやって人生の一定期間を、あるいは一生のほとんどを馬車馬の如くこき使われて、挙げ句の果てに死んでいくのだ。しかし俺は違う。賢者として異世界までやってきてすることが労働とは、なんと悲しいことだろうか。働いたら負けなのだ。俺は働くまい。絶対に。

 となると、俺は自身の資産を手放す必要がある。仕方がない。俺は娼婦として使っている肉達磨達を売りとばすことに決めた。

 それらは、鞭や工具を用いた毎晩の激しい愛撫のためか、それとも数年前に東の洞窟市場から逃げ出したキメラコウモリによる感染病のせいか、このところ傷の自然治癒にデバフがかかっているようだった。彼女らは、1ターン分の流血制御や、回復呪文の詠唱などの簡単なことにさえ、以前より多くのマナ・ポイントを必要とするようになった。奴隷のくせに生意気なことだ。さらに、クールダウンの際には気絶や嘔吐を伴うものもいる。やれたれ。これでは仮に四肢があったとて、ろくに冒険できるわけがあるまい。どうせすぐに四肢をもぎ取られて娼婦や肉奴隷にされるのが関の山だ。

「ハイリスク・スカラーシップ!」

俺が呪文を詠唱すると、とたんに肉奴隷たちの傷跡や火傷跡が消えていく。

「あひ、あへ。ごごごご主人しゃま。あひひ」
「にゃにこえ、んひょひょ」

 肉達磨たちは、あるものは恍惚とした表情を浮かべ、またあるものは顔を紅潮させる。別の個体はだらしなく涎を垂らし、潮を吹いている。下腹部に彫られた淫紋がいやらしく石竹色に光出すものもいる。あれ、俺また何かやっちゃいました?

「ご、ご主人しゃま。どうかわたくしめの淫壺にご主人様のエクスカリバーを」

 期待に目を潤ませた奴隷共が短い手足をばたつかせ、俺の足元ににじり寄ってくる。まるで芋虫のようだ。どうやら淫化魔法もかけてしまったようだ。俺は大量の巨大な芋虫に迫られる自分を想像し寒気を覚えた。想像をかき消すようにして奴隷の一体を蹴飛ばすと、蹴飛ばされた奴隷は小さな嬌声を上げた。


「はぁはぁ。それでこの肉オナホたちを売却したいと。」
 商人は肉達磨たちを睨め回した。生肉工場の廃墟を利用した奴隷売り場には、ひんやりとした空気が流れていた。商品棚には大小さまざまな檻が並び、それぞれの檻には四足があったりなかったりする少年少女が入っていた。魔法で眠らされたのか、口を塞がれているのか、そもそも声が出せないのか、騒ぎ立てるものはいなかった。

「こちとら幼い頃から商売ひとつでして学がないもんで、その奨学金というものはわかりませんけど、魔法科アカデミーなんてのは、安定した家柄の貴族の坊ちゃんが暇つぶしのために行くものじゃあありませんかね。」
 片手間に世間話に興じながら、商人は肉達磨たちを一体一体検品した。

「ケンキューシツっちゅうのは、有象無象の集まりで毎日が百鬼夜行のようだそうで。借金して行くようじゃあ、この先苦労しますぜ。旦那。」
商人は膣やアナルの締まり具合を確認し、値札をつけていく。
「これは酷い。丁寧にクリーニングして、処女膜再生魔術をかけてやっと最低価格ってところだなぁ。」

「この個体に至っては値がつきません。」
査定金額を見て俺は目を剥いた。こんなに安いのか。奴隷とはいえ彼女らにも尊い命があるのだぞ。舐めているのか。
「焼き鏝による所有印は、治癒魔法や塗装魔法の効果が出にくい上に、長年残りますので。」

 商人を相手に俺は反論を捲し立てた。しかしわずかな査定額の変動はあれど、肉達磨たちの価値はたかだか知れたものだった。

「ずいぶん使い込まれた肉達磨ばかりなんでねぇ。彼女らの生命がどうなってもいいのなら、内蔵おまかせセットとかで売る方が高くなるかもしれないけど。査定し直しましょうか。どうせ売るなら、もう死んだようなもんだしねぇ。ひひ、ひひひひひ」
少しでも高く売る方法があるなら、それに越したことはあるまい。もう肉達磨の所有者が商人になったのなら、その命も商人のものだ。好きにすればいい。商人が気に入った奴隷をわざと殺して毎晩屍姦を楽しんでいることは市場の公然の噂だった。俺もそのことは承知の上だ。俺は奴隷を売却し、報酬を受け取った。

 もっと高値で売れると思ったんだが、仕方がない。奨学金の利率を少々上げさせてもらおう。いわゆるグレーゾーンスレスレまで金利引き上げるのだ。それから、遅延損害金も法外な金額にしよう。耳を揃えて期限内に借りたものを返さないとどういうことになるか、しっかりと理解らせなければならない。これは俺から奨学生へむけての教育的配慮ですらあるのだ。なんと涙ぐましいことだろうか。
 奨学金を負担するのは俺じゃない。貧乏人どもだ。いるのかいないかもわからないし、なんならいないに越したことはないまだ見ぬ「次世代」のために、奨学金を借りた罪は、奨学生自身が贖い償い雪がねばならないのだ。



(続)

*この記事は全てフィクションです。実在する人物・団体・主義主張などとは一切関係ありません。あと、私は別にフェミでもアンフェでもありません。

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