距離(564文字)
「ずいぶん長いこと歩いてきたなあ」
「そうだねえ」
「歩き始めたのが、いつだったか思い出せないよ」
「本当だね。もっとずっと若かったような気もする」
「そうだよね。いまよりずっと、若くて神経質だった」
「少しずつ、一緒に歩くなかで分かりあえたのかもね」
「うん。昔は、自分の速度しか知らなかったから」
「相手に合わせることにも慣れてなかったね」
「合わせたくない、と不満に思ったこともある」
「知ってるよ」
「バレてた? そうだよね。でも、本当なんだ」
「うん。少しずつ、合わせてくれたことも知ってる」
「君が合わせてくれたから、それに応えるようにね」
「どちらかが合わせなくなったら、止まってたのかも」
「そうかもしれない。長い距離を無理には歩けないから」
「足を挫いたり、歩くのが嫌になってたかもね」
「風景を眺めたり、たくさん話もしたね」
「たまに、少し離れて歩いたりもしたね」
「そうそう。それでまた、くっついて歩いて」
「不安な時もあった?」
「もちろん。足の健康も靴の状態も、不安だったよ」
「予備で買ったけど、使わなかった靴もあったね」
「あったね。結局、誰かにあげちゃった」
「とても楽しい道のりだったね」
「楽しかった! これからも楽しくなるといいね」
「そうだね。まだまだ終わりは見えないね」
「知らない風景が見える。今度はあっちを歩こうか」
「うん、行こう」
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