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人生初のお客さま〜半身チョコまみれ、チョコファ●ションの乱〜

記念すべき、バイトデビュー

高校一年生、やっと新しい環境にも慣れてきた5月。私は先輩の紹介で、某ドーナツショップでバイトをすることになった。

当時の私は、高校の受験以外では初めての面接。履歴書を書くのも初めてで、面接の当日はドタキャンしたくなるくらい緊張していたと思う。
いざ面接が始まれば、店主と軽い世間話をして説明を受けただけですんなり受かってしまった。何を聞かれるのかと最初こそドキドキしていた私だったが、面接が始まってしまえば「案外余裕じゃーん♪」なんてまだガキンチョだった私は生意気だっただろう。

面接から数日後、人生初の労働である。私は背が少し高い方なのだが、店主に「ごめん、サイズ間違ったかも!」と渡された制服はズボンの裾が自分には短すぎて、くるぶしが出てきてしまった。どんなにパンツを下げて腰で履こうとしても裾が全く足りねぇ。なんとも恥ずかしい残念な初出勤だった。

それから先輩たちに色々教えてもらい、まずは商品を詰めたりドリンク対応から始まった。それが慣れてきた頃、ついにレジの研修が始まり、ある日のクソ忙しい土曜のお昼時に私は人生初の独り立ちレジデビューを果たしたのだった。


ドキドキ!レジのデビュー戦

商品名も全て覚えた!ドリンクも覚えた!レジの操作も覚えた!よし、大丈夫!と気合を入れて挑んだレジのデビュー戦。
私の第一号のお客さまはス●夫のママみたいなマダムであった。

マダムのお買い上げなさるドーナツはトレー2枚分。どちらもトレーから溢れそうなほど山盛りに積まれたドーナツたち。ざっと見たところ20個以上はあるだろうか。レジデビュー戦でいきなりこの量は正直ギョッとした。

隣で商品詰めのサポートに入ってくれた先輩に見守られながら挑んだデビュー戦。既にマダムの後ろにもレジへと並ぶお客さまで行列ができている。デビュー戦とはいえ、モタモタもできなければ失敗も許されない。1番レジエリアが私と先輩の緊張感に包まれる。

ピリッとした空気の中、なんとか20数個のドーナツたちをレジに打ち込んで、覚えたてのマニュアル通りレジトークをかましながらいざお会計。よし、よくここまで来た!あと少し!このお会計を終え商品をお渡しすれば、私のデビュー戦も無事ゴールだ!!!

ところがどっこい、ゴール目前で事件は起こった。

無事全ての商品をレジに打ち込んで、私は金額をマダムに伝えた。マダムが財布からお金を出している間、私も先輩に並んで商品のドーナツたちを紙に包んで箱詰めをしていく。
マダムから五千円札を預かり、お釣りをマダムへお渡しする。あとはドーナツを包み箱詰めしてお渡しすれば完了だ!あと少し!!と、私がドーナツを再度箱へ詰め始めた時だった。

マダムがレジ横にある新商品のPOPを指差し「これ3つ追加してくれない?」と言ってきたのだ。私はすぐさまキッチンから追加分の新商品を取りに行き、再度レジに追加分の商品を打ち込んで金額を伝えた。

そしたらス●夫のママみたいなマダムがめんどくさそうに「さっきの支払いから追加分お会計してよ」と言ってきたのだ。
先ほどの20数個のドーナツは、お釣りも渡し終えてお会計は終わったはず。新たに追加をするのなら、再度その分のお会計は当たり前するだろうよ。「さっきの会計と一緒にして」とは一体どういうことだ?ピヨピヨでまだまだガキンチョすぎる生意気な私には、マダムの言ってることがさっぱりわからない。
思わず「は?」と、何言ってんだコイツという顔をしてしまった。いや、多分「は?」くらいは口から出てしまっていたかもしれない。今の私からすると、当時の私はとんでもなくヒヤヒヤさせられる問題児だ。さぞかし、隣に付いてくれてた先輩はヒヤヒヤしたことだろう。

そんなお客さまに対抗心むき出しのガキンチョな私の態度に、ス●夫のママみたいなマダムはブチギレてしまったのだ。

「何この子!!一体どんな教育してるのこの店は!!」

と怒鳴り散らしてえらいこっちゃ。私も私で「コイツやべぇ・・・」とドン引き顔が全く隠せないクソガキっぷりで、隣でサポートしてくれている先輩に助けを求めた。巻き込まれた先輩は顔面蒼白。大変不憫で可哀想である。誠に申し訳ない。

そんなわけで仕方なく、先ほどの20数個のドーナツも一旦返品という形で処理を済ませ、追加分も合わせてお会計をし直す羽目になった。
もちろんレジ対応はマダムをブチギレさせた私ではなく、先輩が対応してくれた。本当に本当に申し訳ねぇ。(心の中でブラジルまで届く勢いの土下座)

その間に、私は先輩の横で山積みのドーナツをせっせと無心で包んで箱詰めをしていた。
が、またしても私はマダムを怒らせてしまったのだ。
これが後世にも語り継ぎたい「半身チョコまみれ、チョコファ●ションの乱」である。


チョコファ●ションの乱

私が山積みのドーナツたちに隠れていたパイをトングで持ち上げた時だった。パイ屑が少しだけトングで挟んだ拍子に落ちたのだ。
それを見たマダムは

「んもう!!本当にあんたはレジもできなければ商品もろくに包めないの??いい加減にして!!もうドーナツぐちゃぐちゃになったじゃない!!もう引っ込んでてよ!!!」

なんて怒鳴ってきた。マダム、怒涛の爆発的大噴火である。

「いや、これパイだし、パイ屑落とさず包むの無理くね??」って私はまた懲りずにイライラを顔に出してしまったと思う。(反省がなさすぎる)
おそらく「うっせぇなこのおばさん」まで顔に出していたかもしれない。(クソガキ怖い)
そんな私にマダムはついに、「こんなドーナツいらないわよ!!!」とせっかく包んで箱詰めしたばかりのドーナツを私目掛けて箱ごと投げつけたのだった。

もう私の左半分は綺麗にチョコまみれのチョコファ●ション状態。すっかり店内中の注目の的となってしまった。
「何だかすんごい客に当たってしまったかもしれない」と棒立ちの私は、足元に散乱しているドーナツとフォローしてくれた先輩に申し訳なくなった。(いや、お客様にも申し訳なくならんのかい)

とりあえず事が大きくなってしまったので、バックヤードに押し込まれた私は社員さんに事情を説明。
初出勤からわずか1週間でこの事件だ。問題児にも程がある。

当時バイト先で最年少だった私は、随分と店主や社員さんや先輩方から優しくしてもらったと思う。バイト入ってそうそうこんな大クレームを浴びる奴これまでにいただろうか?多分、初めてだろう。みんなの慌てようからも分かる、こりゃ大事件だ。

しかし、そんな私を怒るどころか「大丈夫だった?」や「泣きたかったら泣いても大丈夫だからね」「トラウマになってたりしない?レジ立てそう?」なんて優しい言葉を皆はかけてくれたのだ。(なんて優しい世界なの・・・)

結局あのマダムの対応も先輩と社員さんがしてくれ、私はというとその日はそれ以降レジには立たずフロアやドーナツ補充の仕事をしたのだった。

私がフロアでコーヒーのおかわりを回れば、店内で食事をしながら一部始終を見ていた常連のお客さまたちが「あんた、さっき大丈夫だった?こんなに制服汚れちゃって・・・」なんて心配された。
私は「すみません、お騒がせしました」なんて言いながら、おかわりのコーヒーをお客様のカップに注いでいた。

すると、「あらま〜〜こんなに手震えちゃって、大丈夫よ〜!可哀想に、気にしないでこれからも頑張りなさい!」なんて背中をさすってまでくれた。
だけど常連さん、すみません。私先ほどの恐怖で震えているわけではなく、ただ単にコーヒーがたっぷり入ったデカンタが重すぎて持つ手が震えただけでして・・・なんて言えるわけもなく。
(この時の私のメンタルどうなってるの?鋼なの?)

こうして私の忘れられないデビュー戦は、周りの優しさに包まれながら幕を閉じたのだった。


偶然の再会

ちなみに嘘みたいな話だが、私はこのバイト先での最後のレジを担当したお客さまもあのス●夫のママみたいなマダムだった。

「あら、あんたまだいたの?」

なんて嫌味言われたもんだから、私も「おかげさまで本日まで続けてこれました!ありがとうございます!(ニッコリ)」とお返ししておいた。
私の負けず嫌いも相変わらずだが、彼女も彼女だなと。

でも今思えば、初のお客さまが彼女で良かったと感謝している。あんなに他人に怒鳴られることなんてそうそうない。
それを最初で経験できてしまった私には、その後のイレギュラーなんて全て可愛く思えたのだから。

それに私はあの「チョコファ●ションの乱」をきっかけに、悔しさから接客が上手くなりたくて勉強した。時には聾者の常連さんとも他のお客さまと同じようにコミュニケーションが取りたくて、簡単な手話を覚えたりなんかもした。

気付けば私は、接客が好きになっていた。

それから数年後。就職してショップ店員になった私に

「あなたの接客、丁寧で好き!また来るわね」

と言ってくれたのも、あのス●夫のママみたいなマダムだった。
けれどあのマダムは当然ながら、ドーナツまみれにした私の顔なんて覚えちゃいないわけで。
こちとら忘れませんよと心の中で叫びながら笑顔で接客するのだった。
私は何かとこの人とご縁があるのだろうか?またこんな風に再会するとは思わず、とんだサプライズだった。

ただ、あの頃あれだけ怒らせてしまった相手に接客を褒めてもらえたことは素直に嬉しくて。
もうあの頃の敵意剥き出し、イライラを全面に出してしまう私は死んだのだ。まだ幼かった私に接客とは何か、働くとは何かを一番最初にダイレクトに学ばせてくれたのは紛れもない彼女。

そんな貴重な体験をさせてくれた彼女は、私の一生忘れられない大事なお客さまだ。

どうだ!!!私、めっちゃ成長しただろ!!!!!(大声)
(中身は全然成長してなくて涙)


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