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カフェイン~作用、摂取量、筋力トレーニングにおけるメリット~

カフェインは効果が科学的に信頼されている成分である。カフェインはその効果の高さから、オリンピックでドーピングとして禁止されていた過去があるほどである。今回はカフェインの作用、効果を得るための摂取量を説明したのち、筋力トレーニングにおけるカフェイン摂取のメリットを説明し、最後にカフェインのデメリットである睡眠阻害について説明する。


カフェインの作用

カフェインの主作用として、①中枢神経刺激、②血管拡張、③利尿作用、④代謝の亢進、⑤胃酸分泌が認められている。以下に主作用発生の過程を簡単に説明する。

カフェインの中枢神経刺激について、カフェインは血液中の物質が脳組織内に侵入することを防止する仕組みである脳関門をすり抜けることができるため、血中だけでなく脳内にも侵入する。そして、カフェインはアデノシンと構造が似ているため、アデノシン受容体と結びつくことができる。これにより、カフェインは、ドーパミンやノルアドレナリンといった興奮を促す神経伝達物質の放出を抑制するアデノシンの受容体とアデノシンが結合することを阻害する。

つまりカフェインはそれ自体に興奮作用があるわけではなく、アデノシンとアデノシン受容体の結合を阻害するという形で間接的に脳を興奮させている。

カフェインとアデノシン受容体の結合を図に表したもの。


[i]アデノシン受容体の一つは、カフェインと結合することで、胃や血管といった、自分では意図的に動かすことのできない筋肉である平滑筋を弛緩させる。これにより血管が拡張される。またアデノシン受容体の一つはカフェインと結合することで、腎臓に作用し、原尿のうち身体に必要なものを再吸収し、必要ないものを排泄する役割を持つ尿細管の再吸収を阻害してしまう。これにより利尿作用が発生する。

カフェインは、脳神経の一種であり内臓機能やせき、くしゃみ等の反射行動の調整に関与する迷走神経を刺激し、胃酸の分泌を促進する。胃酸が分泌されることで、消化が促進されるが、胃に固形物が存在しないときは、胃酸が過剰に分泌されることで、痛みが発生する。


カフェインの作用を得るのに必要な摂取量は?

[ii]一般的に一日400㎎程度ならカフェインは身体に悪影響を及ぼすとは言われていない。カフェイン400㎎はインスタントコーヒー3~4杯、[iii]モンスターエナジー355mlなら3本程度である。

しかしカフェインの影響には個人差がある。体格やカフェインへの感受性の違いで、200㎎の摂取でも吐き気や動悸が発生する人もいれば、600㎎の摂取でも効果の出ない人もいる。これは、前述したアデノシン受容体の数に個人差があるからだと推測される。一度自分の身体が効果を得るために必要な摂取量を探してみよう。注意点として、効果が出た摂取量が分かれば、追加の効果を得るために量を増やさないことがあげられる。なぜなら、栄養素や成分の摂取には閾値があるからだ。例えばカフェイン200㎎の摂取で効果が出た場合、摂取量を400㎎にしても、作用はほとんど増加せず反作用がより増加してしまう。


筋力トレーニングにおけるカフェイン摂取のメリット

筋力トレーニングにおけるカフェインのメリットは、「血管拡張による追い込みの補助」にある。ここでいう「追い込み」とは、「対象筋に負荷が乗った範囲で、反復できなくなるまで収縮を行う」ことである。

[iv]カフェインを摂取した群と摂取しない群での1500m走のタイムを比較した研究では、カフェインを摂取した群の方が摂取しない群と比較して約4秒タイムが早くなったという結果が得られた。

カフェインには、血管拡張作用があり、これにより酸素を利用してエネルギーを産出する有酸素系のエネルギー供給が促進されると考えられる。

ここで一つの疑問が生じる。筋力トレーニングは無酸素運動なのだから、有酸素運動のパフォーマンスを上げることは無酸素運動のパフォーマンス向上とは関係ないのではないのか。

純粋な無酸素運動、有酸素運動というものは存在しない。たとえ[v]200m走であっても、エネルギーのうち3割は有酸素系から供給されている。一般的に無酸素運動、有酸素運動といわれるものであっても、我々はその運動を無酸素系、有酸素系の二つのエネルギー供給を使用して行っている。そのため、血管拡張により有酸素系のエネルギー供給が促進されることは、筋力トレーニングのパフォーマンスの向上に効果的といえる。

無酸素系のエネルギーは、瞬発的な力を発揮することができるが、エネルギーの回復に時間がかかり、エネルギーが枯渇しやすい。一方で有酸素系は、発揮する力は少ないが、無酸素系より持久力がある。このことから、筋力トレーニングが後半になるにつれて、筋力トレーニング中に使用するエネルギーの、有酸素系の占める割合が高くなる。以上のことから、血管拡張により有酸素系のエネルギー供給が促進されることで、筋力トレーニングの追い込みが補助され、オーバーロードの達成、トレーニングボリュームの増加が期待される。


カフェインと睡眠

コーヒーを飲むと眠れなくなる人もいれば、コーヒーを飲んでも眠ることができる人がいる。カフェインの摂取と睡眠にはどのような関係があるのだろうか。[vi]カフェインの摂取タイミングと睡眠の関係を調べた研究がある。この研究では、12人の被験者が就寝0時間前、就寝3時間前、就寝6時間前にカフェインを摂取する群、何の関与もしないコントロール群に分けられ、各群の睡眠の質が比較された。結果として、就寝0時間前、3時間前にカフェインを摂取する群は就寝6時間前にカフェインを摂取する群と比較して著しく睡眠の質が低下していた。この研究で被験者が就寝前に摂取したカフェインの量は400㎎である。

就寝前にカフェインを摂取した群はコントロール群と比較して1時間程度の睡眠時間減少、寝付くまでの時間の増加等が見られ、睡眠の質が低下していることが分かる。

就寝6時間前にカフェインを摂取した群とコントロール群を比較しても睡眠の質に差があることから、いかにカフェインの作用が持続するかが理解できる。


カフェインは胃から血液に流れ込むことで体内に吸収される。カフェイン摂取後30分後に効果が最大になり、[vii]約6時間後に摂取したカフェインの半分が代謝される。[viii]そして摂取後10時間程度で摂取したカフェインのすべてが代謝される。就寝6時間前のカフェイン摂取でも睡眠の質に多少の悪影響を与えたこと、カフェインの代謝に10時間要することを考えると、睡眠10時間前以降のカフェイン摂取はあまり推奨できない。


カフェインと睡眠のメリットの比較

睡眠のメリットは、日中のテストステロン値を高く維持すること、テストステロン等内分泌系ホルモンの分泌を促進すること、身体の疲労回復を助け翌日の活動を円滑にすること等があげられる。

[ix]健康な28人の被験者を、8時間睡眠群と5時間睡眠群に分け、1週間過ごしてもらい、日中のテストステロンの値を測定した。結果として、5時間睡眠群は日中のテストステロンの値が10~15%低下した。その他の研究でもテストステロンと睡眠の質には一定の相関関係があるとされている。睡眠の質を向上させるために、 就寝6時間前にカフェインを摂取しないことや、 就寝前1時間の間にパソコンやスマートフォン等のブルーライトを放つ媒体を使用しないこと等が一般的に推奨されている。

筋力トレーニングでの主たるカフェインのメリットは、血管拡張によりトレーニング中の追い込みを補助することである。このメリットはとても強力だが、睡眠の質を犠牲にしてまで享受するメリットとは思えない。午前中に筋力トレーニングを行う場合はカフェインの摂取は推奨されるが、午後にトレーニングを行う場合は、摂取には慎重になりたい。


まとめ

カフェインは科学的に効果が信頼されている成分であり、中枢神経刺激による覚醒作用、血管拡張による一時的筋持久力向上等の効果が期待される。カフェインの耐性には個人差があるが、一日当たり400㎎程度のカフェイン摂取は人体に悪影響はないとされる。筋力トレーニングにおけるカフェイン摂取の最大のメリットは追い込みの補助である。一方でカフェインは睡眠の質を著しく低下させ、その効果は10時間ほど持続する。カフェイン摂取のメリットとデメリットを考慮すると、就寝10時間前のカフェイン摂取は推奨できない。



参考資料

[i] https://tinyurl.com/2kwqtobw

[ii] https://tinyurl.com/yxz599lr

[iii] https://tinyurl.com/2o5o87ph

[iv] https://tinyurl.com/2dt3v9pw

[v] https://tinyurl.com/2gajg9kk

[vi] https://tinyurl.com/y236ejn5

[vii] https://tinyurl.com/yxdcqjc7

[viii] https://tinyurl.com/2l4u742a

[ix] https://tinyurl.com/y6fywpjv

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